番外編 00.93




指定された時間が近付いて、エーリルは目立たないように食堂に滑り込んだ。


「どうした?エーリル」
「いや、別に、です」


テーブルの一番端に身を低くして神妙な面持ちでキョロキョロ瞳を左右に巡らす新人隊員に、副隊長のユルギスは首を傾げた。


「シャスティルとヒスカならあそこだが?」


言われてユルギスの目線をエーリルも追っていくと朱い髪同じ髪型、瓜二つの顔の女性二人がそこに座って居た。そして女性の手前に、背中の真ん中まである黒髪と背筋正しい黄金色の髪の背中が二つ。



「あの二人が君と同じ新人だ。昼間到着したが紹介はして貰ったか?」
「いえ。で――」
「シャスティル!ヒスカ!」


『でもいいです』と言いかけたエーリルの口は開くだけ開いて、『も』の形で停止する。



「副隊長」
「お疲れ様です」


(ああああああああああああ)

シャスティルとヒスカの返事を聞きながら、エーリルは頭を抱えたい衝動に駆られた。次々と脳が勝手に自分のこの後を描いていく。同じ隊に籍をおく以上、騎士団に入隊したのがバレルのは解っていたがギリギリまで避けたかったのが本心だ。
迫りくる現実に口元は苦笑いで染まる。もう諦めるしかない。覚悟を決めるときは今だ。乾いた笑いが、開いたままの唇よりパラパラ落ちていく。


教育係に反応して、黒髪と金髪二人は肩越しにこちらに振り返ってきた。すぐに二人と目があう。





「んあ?」

酷い驚きを通り過ぎて、呆気にとられた顔に変わった黒髪の青年の方から『カラン』と、食器が音を奏でた。
その青年に向かって、エーリルは爽やかに笑って、華麗に手を振ってみせる。



「はぁ〜い」



その一言に黒髪の青年は瞬間、半眼になった。


「なになに?」
「もしかして、知り合い?」


誰が見ても初対面としては違和感あるやり取りに、朱毛の二人がテーブルに乗り出すのが見えた。黒髪の青年の手前にだけ置いてある食器がまた鳴る。
朱毛二人はもちろん、金髪の青年も周囲の隊員もこちらに注目のなか、黒髪の青年は半眼な目をつぶってかぶりを振り、盛大に鼻から息を吐いて半眼に戻った。そして青年はエーリルの名を口にした後、嘆息をついた。


「エーリル…お前……」
「はぁっ!!?」


黒髪の青年の隣から、叫び声に近い声が発せられた。その声に、興味がなさそうにしていた隊員もが、こちらに注目してきた。部屋中の視線を集めた先では金髪の青年が棒立ちになっていた。目を奪われた様にエーリルを凝視する。



「えっ…、エーリル?」
「フレーン、久しぶり」



黒髪がつぶやいた名前を信じられないという様に呼ぶ金髪のフレンにも、エーリルは手を振ってみせた。
フレンはまだ信じられないのか、瞳を見開いて立ち尽くしている。




その姿に、エーリルは内心笑ってしまった。
フレンの今の状態は無理もない。それだけ逢ってなかったのだから。しかしそこまで驚いてくれると、最早笑いが込み上げてきて仕方ない。

(あたしだって先に名前見とかなかったら、フレンだって判んなかったかもだけど)



この日見た幼なじみ二人の驚いた顔は、暫く忘れそうになさそうだ。





00.93 --



「三人共、知り合いなのか」
「はい。帝都で」


「ユーリっ、君は知ってたのか?」
「知んねぇよ」


「ミーティング始めんぞぉ。そこ、うるせぇ」




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01の少し前。
バレました\(^o^)/



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