erotopathy










海はトラファルガーにとってワンダーランドだ。
退屈な日常から脱して仲間と共に海に出て、その先で悪魔の実を食し、そして仲間を得て、敵を倒し、興味深い献体を手に入れ、バラしたりくっつけたり。楽しい事ばかりが溢れかえった世界で、トラファルガーは心臓を鷲掴みにする存在と出会った。
手足のバランス。
盛り上がった胸筋とは裏腹に腰に向かって絶妙な角度の括れ。
蒼い眼が、赤とも橙ともつかぬ色に変わっていくその様、しかも変身後は触った事もない生物と来た。気の強そうな所も堅物故にウブな所も、その反応全てが加虐心を擽って離さない。
昔からトラファルガーは気に入ったものは入念な準備と練習をしてバラしてきた。
だってそうだろう、折角のお気に入りを、適当にバラしては勿体ないではないか。
一線、一線を丁寧に丁寧に。
ゆっくりとそぎ落としていき最後に残った部分を突き刺すのが、幼い頃に没頭した遊びの一つ、人形バラシの基本だった。
だからトラファルガーは、彼の事を考える度に頭の中で彼のパーツを少しずつ削いでいく。
最初は手首、そこから腕、肩。それから爪先、指を一本ずつでもいいかもしれない、見た事はないが彼の指なのだからきっととても綺麗だ。頭と心臓はとっておきだから最後の最後に落として、開いて。
トラファルガーにとって、最新の医学書を読むのと同じ位に、いやそれ以上に、彼のことを思う時間は有意義なものだった。
例え当の彼本人に嫌がられているのだとしても、目が合った途端嫌そうな顔をして逃げられようとも、彼への愛の言葉が受け取って貰えないのだとしても、暴言が返されるのだとしても、それでもトラファルガーは幸せだった。
何故ならばトラファルガーは、自分がどれだけ異常なのかをよくよく理解しているのだから、真っ当な道を歩いてきた彼の嗜好と噛み合わないのはどうしたって仕方がない事なのだとよくよく解っていたのだ。
それでもトラファルガーにとって理想的ともいえる身体を持つ彼はといえば、中身もどうしようもなく好みだったのだから欲しくならない訳がなかった。
トラファルガーの趣味に難色を示す者などクルーにだっている、けれども海賊特有の下卑た嗜好はそれなりに持ち合わせているのだからトラファルガー程ではないにしても大なり小なりそういった変人はいるものだ。
けれども彼は、そのどれとも違う、真っ当なのだ、至極真っ当な人格者なのだ、海賊などしているとは到底思えないような、そんな男なのだ。
その邂逅は新鮮なものだった。同時に興味深く、そして、汚してやりたいとも思った。


「ドレーク屋ぁ、飯でも一緒にどうだ?」

「……何を考えているかにもよる」


トラファルガーにしてみれば随分とまともな誘い文句に、彼、ドレークは渋い顔をしながらも邪険にはしなかった。
これがいけない、警戒していると目でも態度でも語っている割に、最後の最後で詰めが甘いのだ。


「ただ一緒に食いたいだけだ」


非情とはあまりにも無縁そうな男の窺う視線に、トラファルガーはにんまりと笑って見せた。
実はこれもトラファルガーなりに精一杯真っ当な笑みのつもりであるのだがドレークにとってはニタニタとした嫌な笑みにしか見えていない。
報われない話である。


「隙あらば薬物混入の機会も欲しい所だが」

「全力で遠慮しておく!」

「遠慮する事なんかねぇぜ?ただちょーっとばかし恐竜状態のドレーク屋を調べさせて貰えりゃいいんだからよぉ」

「はっきり言おう迷惑だ気色悪い寄るな!」


焦り顔で走って逃げていくドレークを、トラファルガーは然して残念そうでもない顔をして見送った。
実際に、そこまで残念ではない。
最近は、どうも身体を調べる事よりもドレークの反応を見ていたいと思っているからだ。
トラファルガーにとってその変化はある意味で興味深いものだった。


「……可愛いなぁ」


トラファルガーより大きく、男性的に筋力を身につけ尚且つ名高い海賊となっている男を可愛いなどと、真顔で呟いたトラファルガーは、以前キッドに心底ドン引かれ「医者に行け」と言われた事もある。
けれども、けれどもだ。可愛いではないか。
はっきり言おう、などと文面だけ見れば強気だと感じられる筈の言葉なのに逃げを打つ姿勢は憐憫を誘うし、気色悪い寄るなとまで言っている割に死ねとか二度と目の前に現れるなとは言わない。
つまりドレークは、単に恥ずかしがっているだけであり、トラファルガー自身が嫌な訳ではないのではないか。
考えてみれば今の今まで公衆の面前でしか迫った事がなかったトラファルガーは、成程ドレーク屋は恥ずかしがり屋なのかと間違った考えに浸り、結果可愛らしく思ったのである。
そこに至った経過をもしもトラファルガーが誰かに言ったならばその相手が間違いを正したかもしれない。
だがトラファルガーがそう言った相談をする相手といえば「恋?白くまがいいなー」とほのぼの笑って言い放つであろうベポ位のものであり、何故よりによってクマに恋愛相談、もとい色恋の事柄を吐露しているのかと突っ込んでいるのはハートの海賊団に所属しているクルー達全員の心の声である。
何はともあれ盛大な勘違いを果たしたトラファルガーは、よく言えば果敢にも、悪く言えば諦めの悪い事にドレークの後を追う事にした。
全力疾走で去って行ったのだから、ある程度距離が開けばもう追って来ないだろうと勝手に判断して歩を緩めるだろう、もはやトラファルガーは完全にドレークの思考を読んでいるといってもいい。
世間ではそれをストーカーというのだが、生憎とそれを指摘するような命知らずはトラファルガーの周囲には存在していないので相変わらず恋する一人の男だと言って憚らない。
恋ってあんなに粘着質なものだったっけ、と遠い目で海を眺めたのはキャスケット帽を被った青年であったが、悲しいかな船の長がそれを耳にした事はない。
追いかけてから時間にして数分、視界に入った男の姿にトラファルガーは表情を緩めた。
傍から見ると凶悪な事この上ない笑みだったのだが本人にその自覚はないに等しい。


「ドレーク屋ぁぁあああ」

「うわああぁぁあ!」


己の呼ぶ声にびくりと振り返ったドレークはそのまますぐに前方へシフトして駈け出した。
脚の長さからしてコンパスが違う以上距離は開くかに思えたものの、トラファルガーの執念染みた追走は衰えを全く見せない、何あれ怖いとドレークの表情が引き攣った。


「追いかけて来るなぁぁあああぁ!」

「……っは、そうだった。そうだったな、悪い」


走りながら叫ぶと肺に負荷がかかる。
苦しくなりつつある呼吸にも構わず、ドレークは叫ばずにいられなかった。
そして予想外にも、トラファルガーはドレークの言う事をきいたのだ。
ぴたりと止まったトラファルガーは、しかしよく解らない事を呟いている。


「そうだよな……ドレーク屋は、恥ずかしがり屋だもんな…」

「はぁ?」


思わず、認めたくない一言に思わずドレークの足が止まった。
そのまま駆けていってしまえばいいものを、律儀にもトラファルガーを窺うようにじりじりと様子を見ながら歩み寄って来るドレークを見て、やっぱりドレーク屋は俺の事が嫌な訳ではないのだ!と思いこみを深めていくトラファルガーを止める術はない。


「おい、トラファルガー。今なんて…」

「ドレーク屋は恥ずかしがり屋だから、外で迫られたら素直になれないんだよな。解ってる」

「…………は?」


コイツハナニヲイッテイルノダロウカ
言葉にならないその思いは、ありありと顔に浮かんでいる。
だというのにトラファルガーはそれ以上言わせられないとばかりにマイワールドに入っては頭を振った。
大丈夫だ、言わなくても解っている、といった所だろうか。
ドレークにとっては全然全く大丈夫ではないし一言物申したい所だが、聞く耳というものが基本的にトラファルガーにはなかった。


「よし、ここは一つ俺の船に行こう。食事でもしながら二人で親睦を深めようぜ」

「いや、だからな?トラファルガー」

「そうだよな、ドレーク屋はウブだから、やっぱり最初から外っていうのは気が引けるよなぁ」

「だから、人の話を、」

「大丈夫だ、俺は医者だからな。安心して任せとけ」

「――――っ人の、話を、聞けぇえええぇぇえええ!」


劈く怒声が響き渡ったかと思えば、獣の咆哮。
そしてトラファルガーの視界は黒に染まり、それから次いで赤へと変わっていった。







後に、頭を包帯でぐるぐる巻きにされたトラファルガーはこう語る。


「恥ずかしがり屋のドレーク屋が俺の、俺の頭をっ…最高の愛情表現だ!」


馬鹿、もとい変態に塗る薬を、ドレークは本気で欲しいと思ったのであった。


















erotopathy
(まぁ…なんっつーか……気をしっかり持てよ)
(下手な慰めなら要らん…どうせ、どうせ俺なんか…!)
(キッド、入口の方から邪悪な視線が…)
(気にしたら負けだぞキラー)
(違いない)




























某方様に一冊だけコピってお渡ししたものをサルベージ
ロドレはなんかもうロ→ドレの勢い




あきゅろす。
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