隼と不死鳥06










授業で使っていたノートや教科書の類を押し込んだペルの鞄から覗いたものがふと目に入った。
ただそれだけの話なのだが、つい興味を持ってしまったのは反射的にという方が正しいのかもしれない。
此方の目線に気づいたペルは、然して嫌な顔もしないでそれを取り出し、差し出して来る。

「以前お話したでしょう?」

ペルがお世話になっているという相手の、子供。
受け取った画用紙は綺麗にファイルへ納められていて、クレヨンをぐちゃぐちゃに押し付けたそれはかろうじて人と認識できるものだった。
それが誰なのかまでは生憎と特定できないが、持ち主がペルである以上その中に含まれている筈だ。
だとすれば、顔のあたりに縦縞の入ったものだろうか、ペルの化粧を表しているのなら特徴を見るのは上手いのだろう。
その隣には水色に塗られたにっこりと笑う女の子。
女の子と解ったのは着ているものがスカートのように見えたからだ。
更に隣には…アヒル、だろうか?
それともう一人、カクカクながらに黒く塗られた人間の姿がある。
これがペルのお世話になっている相手、だろうか。

「あぁ、これは私と同じ、ビビ様の世話役をしている者です」

「……ビビってーのかよい」

「えぇ」

小さな女の子に「様」を付けるとは、しかも物凄く自然に口にしてしまった、という様子だ。
ビビ、ビビねぇ…どっかで聞いた名前だな、とは思ったが記憶が鮮明に蘇らないなら自分にとっては然して大きな事でもないのだろうと打ち切る。
しかし、なんというか、微笑ましいものだ。
自分にもこれ位には幼い知り合いが居る。
昔から弟分にあたる男の弟で、よく食うし、遊ぶし、思いついた事は即実行するし、とまぁ、ある意味最も子供らしい子供。
好物は肉で、何が食いたいかという話題になれば料理名も何もなくまず「肉」なのだから、正直将来の成長が心配になる。
その子供が更に小さい頃、確か自分の事を画用紙に描く時に弟分と「なぁ、まるこはばなななのかぱいなっぷるなのか」「ばななじゃねぇのか」「おれはぱいなっぷるだとおもう」などという会話をしていた覚えがある。
……よし、今度会ったら目一杯可愛がってやろう。
泣きが入ろうが容赦なくこめかみをぐりぐりとプレスしてやる事にする。

「…ん。ペル、お前黒い服なんて着るのかよい」

何気なく眺めていた画用紙に、少しの違和感。
無意識に口をついて出た問いに、そうだ服が黒いんだ、と気づく。
別に誰がどんな服を着ようが本人の自由だとは思うけれど、基本的にペルは白系統の服が多い。
寒色系ならばまだしも、黒というものは目にした事がなかった。
てっきり、黒が嫌いなのかと思っていたのだが、違うのだろうか。

「いぇ、ビビ様の前ではスーツを着ている事が多いので。多分、だからでしょうね」

「……」

「…マルコ?どうかしましたか」

「ん。いや、その…」

スーツ。
ペルの、スーツ姿。
それはなんというか、一度見てみたいかもしれない。
想像してみれば、なかなかに黒も似合いそうだ。
いいや、論点はそこではなく、単に子供の世話をするだけでスーツを着用するだろうか。
相手はどこの令嬢だ、と言いかけて、そういえば大学の世話もされているのだと言っていた事に思い至り、血縁でもない相手の、人一人分の学費を軽く賄えるとなればそれだけの財力があって当然ではないかと目眩がした。
もしや「ヤ」のつく職業ではあるまいな、と若干の不安が過る。
別段それでペルとの付き合いを考え直すという訳ではなく、単純にペル自身を案じての考えである事は言うまでもないが。
大丈夫なんだろうか、と。



らしくもなく本気で心配になった。












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漸く左側の存在仄めかしつつ…次回はきっと冥王、とか…(目を泳がせつつ)
弟分は言わずもがな火拳。兄弟共々御近所付き合いです。




あきゅろす。
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