隼と不死鳥05










ペルの私生活は何かと謎が多い。
普段から人付き合いが悪いという印象がある訳ではないし、声をかければ滅多に嫌な顔はしない、というか見た事がない。
けれども何故か、それが夜の飲み会だとか、親しい奴等との遊びだとか、そういった大学以外でのものに誘うと途端に困ったような顔で決まり文句を口にするのだ。
すいません、用事があるんです、と。

「用事って、何なのか訊いてもいいかよい」

いつもの通りのその言葉に、いい加減好奇心を抑え切れなくなってきたのは否定しようのない事実だ。
自分とて、流石にここまで深入りした質問をしてもいいものだろうかとは思うし、自分がされる側ならば多少の不快感はあるだろうが、相手が自分と気心の知れた友人ならばまだ許容できる範囲であると思う。
ペルは人当たりがいい笑みに確かな申し訳なさを浮かべながら謝罪するから、大概は「なら仕方ない」と言って終わるもので、改めて問われたのはもしかしたら初めてなのかもしれない。
まさかそれを問われるとは、とでも言いたげに苦笑したペルは、どう答えたらいいものか考えているようだった。
ペルに限って危険な事に手を出してはいないだろうが、やはり友人としては心配になってしまうし、それにこう何度もプライベートの誘いを蹴られるとやはりその、あれだ…気になるのも当然ではないだろうか。

「…そうですね、えぇっと…話すとなると長くなってしまうんですが」

「構わねぇよい」

此方が引く気などないと察したらしいペルは、いつものように「訊かれればあっさり答える」彼らしく、律儀にも質問に答を与えてくれるようだった。
何というか、聞いておいて難だが、言いたくない事の一つや二つないものだろうか。
ひんやりとした珈琲の缶を手先で弄びながら、二人並んで気紛れに吹く風を受ける。
冬は吹き曝しで寒いばかりの渡り廊下は、初夏となれば気持ちのいいものだった。
空き時間が重なり、立ち話をしている自分達を見咎める者も居ない。
殆どの連中は授業に出ているか、同じように空き時間を潰している筈だ。

「生まれてすぐの頃から、お世話になっている方が居るんです」

「親戚か何かかよい」

「いぇ、まぁ、そのあたりは話すと難しいんですが…こうして学校にも通わせて頂いて、その方には感謝してもし足りないと思っているんですよ」

今のご時世、自分で稼いで進学する人間もそうは居ない。
だが、ペルの性格から考えれば確かに頭も上がらないだろう、それも血筋の相手ではなさそうなのだから余計に。
だがそれと、ペルが遊びに出かけないのは何が関係しているのかまでは解りかねる。

「…で?」

「大学以外の時間は、その方の仕事を手伝ったり、お子さんの世話などをさせて頂いているんです」

聞けば、お子さんとやらは活発な女の子だとか。
それはさぞかし気に入られているのだろう、その子供の事を口にするペルの表情の穏やかさからも良好な関係を察する事はできる。
つまり、恩人に報いる為に忙しいから個人的な時間というものは持たないようにしているのだと、そういう事か。
成程、と納得すると同時に、そこまでするもんだろうかと呆れてしまった。
まぁ、ペルらしいといえばそうなのかもしれないが。

「恋人とかはどうしてんだよい。居るんだろ、あんまり構わねぇと怒るんじゃねぇか?」

その問いかけに、ペルはなんとも言えない表情をしてみせた。
若干開きかけた唇からは、躊躇いめいた何かが覗いている。
だがそれが明確に姿を現す前に、ペルは一度場を仕切り直すように息を吐いた。

「その心配はないんですよ。相手の方も同じようなものなので」

むしろあちらの方が多忙かもしれませんね、と。
いつもの笑みすら浮かべる横顔に、深入りできるのもここまでだろうか、と考える。
ペルは他人を拒否しないが、だからといってどこまでも許容している訳ではないだろう。
それなりに気に入っている友人から疎ましく思われるのは、それが自業自得なら尚の事避けたかった。

「…まぁ、話は解ったよい。そういう事なら夜遊びはできねぇよな」

「でも、誘って頂けるのは本当に嬉しいですよ。お断りするのが申し訳ないといつも思っています。ロビンも、マルコとは話し易いと言っていましたし」

「あれは、話し易いってより遊んでんだろうがよい」

「おや、彼女なりのスキンシップですよ?」

二人して笑いながら歩き出す。
渡り廊下は風通しが良くて涼しいが、時間が経てば陽が差しかかって暑さに負けてしまうのだ。
とりあえず、遊びに誘うのは諦めるとしても。



こうして隣に居る位は、まぁいいだろう。













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学生ではあるけれど、学生ではない、そんなペルの話。
不死鳥としては学校外でも遊んでみたいと思っている。
最近は華と不死鳥も仲良し。




あきゅろす。
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