隼と不死鳥03










ペルという男を表現するのならば。
温厚。
穏やか。
物腰が柔らかで。
馬鹿みたいに丁寧な。
そんな、ものである筈なのだが。

「……何かあったのかい」

「…いぇ。別に。何も」

妙に空気が、というかペルの周囲だけがギスギスとしていて、思わず聞いてしまった。
口をついて出た言葉はもはや回収不可能な訳だが、口にした瞬間言わなければ良かったと後悔したのは本当に後の祭りだったと思う。
何も、と言う割に一々言葉を区切るのが恐ろしく、けれども重圧が此方にかかって来ない以上何かやらかしたのは自分ではないらしいとそっと安堵した。
いやまぁ心当たりらしきものは何一つなかったのだから不必要に慌てる事もないのだろうが、それでも近頃行動を共にする機会が多い友人の機嫌が悪いのはどうも居心地が悪いものである。
さて、原因を解明できればいいが、肝心のペルが口を割るかどうか。
何だかんだで、意固地というか根気強いというか、要はこうと決めたら梃子でも動かないタイプだと察しつつある自分としてはなかなか骨の折れそうな予感がしてならなかった。

「あら駄目よ、マルコ。今はそっとしておいてあげないと」

「ロビン」

声を潜めるように、けれど艶やかな唇は楽しげに笑みさえ浮かべて、この大学きっての秀才が手招きしてくる。
プロポーションはいいし知的な美人、だというのにそれを鼻にかけるでもなく空気も読めるロビンは、異性にしてはなかなか話しやすい部類に入る人間だ。
時折考えている事が解らず扱い方に困る時もあるが、彼女は概ね良心的な人物なのでそれもまぁ放っておいていいだろう。
そうと気づかれぬよう、ペルから若干距離を空けてロビンの方へ耳を傾けると、彼女はやはり楽しげな笑みを浮かべたまま「喧嘩中のペルは、放っておかないと怖いわよ」と言った。

「喧嘩中って……誰とだい?」

ペルが、喧嘩。
誰と。
そもそも何故。
常から温厚なペルが喧嘩をする姿など想像もつかない。
大体、現状の姿とて初めて見る位なのだ。
不機嫌なペルだなんて見た事がなかった。
けれどロビンは慣れたもののようである。
省みてみれば彼女の方がペルとの友人歴が長いのだから当然なのだが、その口ぶりから察するにこういった事は多々あったのだという事か。
いやしかし、ペルが機嫌を悪くするような事があったとして、誰がそんな事をしたというのだろう。
素直に疑問を口にすると、ロビンは秘密話をするように手で口周りを覆い、耳元に寄って来た。

「彼の、恋人」

「こい、び……?そんなのが居たのかよい」

それはまた、初耳だ。
いい意味で、ペルにはどうも女っ気がない。
メールや電話などの為に席を立つ回数は少ないし、何より色恋の話となると自らに関しては一切触れようとしない。
それはある意味で、隠している、と取れなくもないがペルには後ろ暗い所を持つ人間特有のぎこちなさというものがなかった。

「いつもなら相手から折れてくれるんだけど、今回はまだ連絡が来てないみたいね」

「…随分と詳しいじゃねぇかよい」

「貴方よりは、付き合いも長いもの」

彼の恋人に比べればなんて事ないでしょうけれど、と。
笑みを浮かべる唇が俄かに拗ねたようなものになったのは見間違いではないだろう。
それにわざわざ突っ込む野暮はしない。
ロビンの好意は、異性へのそれではないと知っている。
同性とはまた違うが、友愛に近しいものだと考えて間違いはないだろう。

「…で?「付き合いの長い」ロビンから見て、あの状態はいつまで続くんだよい」

「ふふっ、そうね…相手が折れるか、珍しくペルから折れるかどちらが早いかしら」

「っは、随分と気の遠くなる話だよい」

苦笑と溜息を混ぜ合わせて見やった先には、いかにも不機嫌そうなペルが用もなければ滅多に出さない携帯電話を睨みつけている姿があった。


自分にできるのは、精々その恋人とやらが早く折れてくれる事を祈る位である。












―――――――――――
隼の恋人発覚。
個人的に隼と華はなかよしさんだと嬉しい。
考古学を専攻してる華としては、隼の故郷の話とかがとても興味深い、みたいな。
隼の恋人に関しては知ってるけど、敢えて不死鳥には教えてあげない華。
そろそろ左側の人達も出してあげたい今日この頃…





あきゅろす。
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