隼と不死鳥02










ペルから借りたノートはとても解り易かった。
講義の内容を聞きながら板書の分まで書くとなれば、もはや走り書きのようになっても仕方がない。
だというのに充分に余白を空けきっちりとした字が書かれている内容は移し易く、折角だからと適当に書いていた部分の修正にも使わせて貰う事にした。
とまぁ、そこまで散々使っておいてまさか例の口約束で済ませる気もないので、何を礼にすべきか昔からの悪友に相談した結果、

「一冊あたり500円だな」

「阿呆かよい」

「いってぇ!何すんだこの馬鹿!」

物欲まみれの回答が返ってきたので即チョップしてやる。
自慢のリーゼントが、とか抜かしてやがるが気にすまい。
気の置けない仲なかともかく、まだよく知りもしない相手に金で借りを返すなどできるものか。

「食い物とかでもいいんじゃねぇか?つまらないものですが今後もヨシナニオネガイイタシマスとか言ってよぉ」

「……後半はともかく、なかなかいい案だよい」

またジャパニーズのドラマでも観たのだろう、恐らく悪徳商人が代官に賄賂を渡すシーンの台詞だ。
となるとあれか、菓子折りの中身は金子…結局金じゃねぇか。
突っ込むのも面倒になったのと、調度店を出る時間になったのとで席を立つ。
悪友と会う時はいつも同じ喫茶店に入る、珈琲は安い上に美味い。
店主は精悍な髭を蓄えた男で、顔に似合わず花を好んでいる。
今も悪友と共にしていたテーブル上には薔薇が一輪添えられていた……正直男との同席時に薔薇というのも嫌な話だが、昔からこうなので今更気にするのも馬鹿らしいとも思う。
ペルへ渡す物は、大学へ行く途中にでも何か見繕うとしよう。

「マルコー」

「あぁ?」

「お前はダチが少ねぇんだから、大事にしろよ」

それは、ペルの事かそれとも自分の事なのか。
にんまりと笑った悪友に、余計なお世話だと伝票を叩きつけてやった。










次に授業が重なる時に、という約束通り、教室に入って見渡せば後ろの方に座っていたペルが軽く手を挙げる。
それに同じように手を挙げて応えて、近くまで行けば空いた隣の席を勧められた。

「良いのかよい」

「えぇ、どうぞ」

相変わらずの丁寧な口調に苦笑する。
席に落ち着いてから一先ず用件を果たそうと借りていたノートを差し出し、ついでのように此方へ向かう途中に買った物を押し出した。
予想していた通り、ペルの顔が困ったような笑みになる。

「来る途中目についたんだが買い過ぎちまって困ってたんだよい」

包装されている時点で明らかに嘘だが言わないよりはマシだろう。
ペルも嘘だと解っているだろうに、暫く考えてから妥協する気になったらしい、ありがとうございますと言葉を添えて受け取ってくれた。
色とりどりの飴玉が詰まったそれは少々子供向けな印象を与えるが、中にはハッカなども入っているから問題ないだろう。

「マルコさんは、義理堅い方なんですね」

「さぁて、何の事だか。それより、さんは要らねぇよい。擽ったくて仕方ねぇ」

話している内に、教室内も人が増えてきた。
それに伴って視線の数も増していく。
大して騒いでいる訳でもないが、それでもタイプが違う自覚はあるので人の目を集めても仕方ないとは思うけれど、そういうのを気にしそうなペルも平然としているものだから面白い。

「ん…あぁ、すいません、癖みたいなものなんです。今後は気をつけますね」

「そうしてくれよい」

生真面目な顔で謝るペルは、多分敬語も止めてほしいと遠回しに言った事にも気づいていないのだろう。
苦笑ではないあたり、よく言われる事だと推測する。
思わず笑ってしまうのは、今後も自分と会話をする事が大前提であるこのやりとりがどうにも面白いからか。

時間が合うようなら昼飯にでも誘ってみるかと、らしくもない事を考えながら自分のノートを開いた。












―――――――――――
出会い編その後。
悪友はサッチさんで喫茶店の店主はビスタ。
喫茶店は夜にはバーになります。どっちにしても行きつけ。
ペルは基本的に敬語でさん、君づけ。
呼び捨て領域にたどり着くには自分から言うか長く付き合っていくかするしかないっていう。
不死鳥は基本的に友人を作る為に自分から動いたりはしない、気に入った人には話しかけるけど早々そういう人もできない、みたいな妄想。





あきゅろす。
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