物足りない











アルフォンスが触れて来なくなった。
いや、別にそういった意味ではなく、単純に、触れて来なくなった。
いつもならば一緒に出かけたりすれば腕を組もうとするか手を繋ごうとするかして触れてくるのもスルー。
就寝前のおやすみのキス(エルリック兄弟は母親とそうしてきたらしい)での抱擁もスルー。
キスはしている訳だから飽きただとか触れるのが嫌だという訳ではないのだろうが、それならば尚更何故なのか気になる所だ。


「アルフォンス」

「何?ハインケルさん」


そういう訳で、悩んでいても埒が明かないからと本人に訊こうと思った。
声をかけると、アルフォンスは一息ついていた所らしい。
何某かの文献に目を通している時のアルフォンスはいくら声をかけても反応しない事が毎度で、こうして振り向いただけでも稀な事だ。
とりあえず、第一関門はクリアしたようである。
さて、声をかけたまでは良いが何と言って訊いたものか。
最近触って来ないがどうかしたのか?とか……いやいや、それじゃ俺が触って欲しいみたいじゃねぇか。
しかし、他に何と言えば話が成立するのだろうか。


「…ハインケルさん?」


どうかした?と訊ねてくるアルフォンスの真っ直ぐな目が、今ばかりは逸れてくれやしないかと思ってしまう。
逸らされたら逸らされたで、複雑な気分になるのは自分であるにも拘わらず。


「……最近、な」

「うん」

「………」

「……?」


今更ながらに、自分が得た疑問が恥ずかしい事であるのだと気づいた。
だが気づいた所で時既に遅い。
今更「何でもない」は通じないだろう。
となれば、訊くしかないのだが、それができないからこうして黙る羽目になっている訳で。
考えた所で、目の前に居るこいつの方が自分よりもずっと賢い事を知っている身としては、もう開き直るしかないのではないかと諦めるのも早いが。
言葉にするのは、どうにも年甲斐が無い気がするので。


「……えーっと、ハインケルさん?」

「…ちっとばかし大人しくしてろ」


逞しくなりはしたものの、自分よりはまだ幾分小さな肩を抱き寄せる。


「うん、それは良いんだけど…」

「…あぁ?」

「もう触っても、暑くないのかなって」


困惑、というよりは歓喜の色で肯いたアルフォンスに、思わず眉が寄った。
何だ良いのか、と呆気なさに拍子抜けしたのもあるが、続いたアルフォンスの言葉にはどう返したものか解らない。
何だ暑いって。窺うように見てくるアルフォンスには悪いがそんな事を言った覚えはない。
そういった考えが伝わったのか、アルフォンスは「ダリウスさんが…」と零したものだからそれで全てを察した。
先日街中でダリウスと待ち合わせをしていた時、近くに用事があったアルフォンスと共に外を出たのだがその時にダリウスが『この時期にそれで暑くねぇのか』と、腕を組む俺達に言ったのだ。
確かに近頃はこのアメストリスも暑くなってきたし、その日は前日雨が降った為か少しばかりじめっとしていた。
別段それを肯定したつもりはないが、確か自分は『まぁ』などと曖昧な声で返した気がする。
まさかそれを気にしていたとは。というか、自分が言った訳でもないのに気を使ってばかりの所はいつまで経っても変わらないのか。
微笑ましいような、擽ったいような。そんな気持ちが「愛しい」というのだと、知ったのはこいつと会ってからかもしれない。
あぁ全くこいつは。


「…暑くねぇよ」

「!そっか、良かった」


気恥ずかしさに、ぶっきら棒にも思える返答を述べれば、アルフォンスの腕が背中に回る。
その腕の存在に安堵している、だなんて。

誰が言ってやるものか。






















触ってくれって言えばいいのに←



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