過剰摂取














悪魔の実の能力を得てから初めての夏は、それまで暑い暑いとごねていたあいつも何故か平然としていた。
その為にか、油断していたのは否定できないが。


「……まさかアイスの食い過ぎで腹壊すなんざ誰が想像できるかよ」

「うっ」


ぎくり、と古典的な擬音が聞こえてきそうな程に肩をびくつかせた男は、今やすっかり重病人扱いでベッド行きである。
それもその筈で、この男気力でどうにかやって来たのだそうだが、あろう事か会議中に腹部を押さえて倒れたというのだからその場に居合わせた人間は大いに焦った。
しかしその原因を、本人は体調管理不足というだけではっきりと述べなかったのだから、これは一大事だという事になった次第である。
同期の人間になら言うだろうと、同時刻演習場に居た自分が駆り出されたのは半刻程前の事だろうか。
ゆっくり宥めてから慎重に聞き出せ、だなんてアドバイスも蹴っ飛ばし、部屋に入って早々原因にあたりをつけていたのは付き合いの長さが物を言う所か。
食い過ぎたんだろ、馬鹿恐竜。と声をかければそーっとベッドから顔を覗かせて困り顔に微笑む男の姿。


「…てめぇなぁ、去年は平気だっただろうが。全然暑くない、不思議だ、とか言って」

「……恐竜は恒温動物なんだ」

「だから暑いのは平気になったんだろうが。それで何でアイス食う必要があんだよ」

「っ…………だって、」

「いい年した野郎がだってとか言うんじゃねぇ」

「うっ」


冒頭のぎくり、がもう一度繰り返される。
ここまで解りやすくてやっていけるのか海軍将校。
ほんの僅かな不安もあるが、それはこの際この場には関係ない事として捨て置くとして。
とにかく、今や外でウロウロしている幹部連中に何と説明したものか。
アイスの食べ過ぎです、だなんて言えばドレークの面目丸潰れ…いやそれもこの際どうでもいいが。
言った所で信用されないだろう、というのが言いにくいと思う一番の要因であったりする。
いい加減な事を言うんじゃないそんな訳ないだろう、と懇々と言い含められるのが解っていて誰が説明できようか。
演習場から呼び出された時から嫌な予感はしていた。
呼びに来たのが下士官であれば跳ねのけていた所だが、呼びに来たのが最高戦力だったのだから仕方がない。
大体、たかが将校一人ぶっ倒れただけで最高戦力が動く程此処は暇なのかと疑問にすら思うが、それも今は関係ない事だ。
とにかく、考えるべきは理由である。


「…何か言い訳考えろ。俺は疲れた」

「う……悪かった、スモーカー」

「現在進行形でな。何でも良いから外の奴ら納得させろ」

「…………拾い食いした、とか」

「…………アイスより情けねぇぞ、それ」


何なら生理とでも言ってみろ、と皮肉れば、冗談言うなと困り顔が返って来た。
そこは怒る所だろ、おい。
天然極まりないこの男には、皮肉も嫌味も通じないのか。
吐き出した紫煙が、ベッドシーツの白に映える。
開けられた窓から穏やかな風が吹き込み、あぁ全く平和だ、と少しだけ気を良くした。

とりあえず、生理以外の理由を一緒に考えてやろうという位には。



















恐竜が恒温動物かどうかは未だ審議中です。




あきゅろす。
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