殺戮者は純情でした










俺は女が好きだ。
こうやって宣言すると変態染みているかもしれないが、世間一般的に男という生き物は女が好きなものである。
海賊が一般常識を説くのも変な話だろうが、それにしたって俺は声も高らかに宣言したい。
―――この場合クマLOVEな上両刀使いの我が海賊団船長に関しては言及しまい。
だがしかし、俺と同じクルー達はきっと首を縦に振ってくれる筈だ、というか振れ頼むから振れ振らなきゃ蹴り殺す。


「…おい、聞いてるのか」


凄むというよりは単なる問いに近い声質が耳に届き、俺は逃避から一転して現実に引き摺り出されてしまった。
あぁできるなら聞かなかった事にしたいさ。見なかった事にだってしたいさ。

まさか、億超えの男から告白されたなんて現実。










こんな事を言えば負け惜しみに聞こえるかもしれないが、変だな、とは思っていた。
互いに違う海賊団なのにやけに姿を見る機会は多かったし、仲が良いんだか悪いんだか解らない互いの船長が酒場で飲みながら言葉の応酬を交わしている間もやけに俺に話しかけてきたし。
変だな、とは思っていたんだ。
殺戮武人なんて物騒な名前の割に俺と話す時だけ仮面の穴から煙のようなものは出てくるし首まで赤いし、一気飲みに挑戦するクルーを囃し立てる中勢いで肩を抱けば気絶するし。
……よくよく考えれば変だけで済ませていたあたり俺って鈍感かもしれない。
いやいやだって誰が同じ男にソーユー意味で好かれているだなんて想像をするんだ。
どんだけ自意識過剰で自己陶酔激しけりゃ…ってうちの船長が居たな、うん忘れてた、でもあの人は例外だろ、あれが世の常識だったら俺は今すぐ海に身を投げてやる。
せめてこの場が、裏路地だとか人気の少ない所なら良かったのに。
普通逆だろ、と思いがちだが今の俺にとってはむしろそのほうが良かった。
何故なら。


「…場所を選べよ殺戮武人」


ガクーッと力なく項垂れてみれば視界には食いかけのパスタ。
海賊が二人揃って入れる所といえば酒場も兼ねた大衆食堂位なもので、昼も過ぎかけようとしている時間帯からして人は溢れかえっている。
だというのに周囲は全くの無音。
一切の騒音はなく、食堂中の視線が俺達のテーブルへ向けられているのが解る。


「話なら飯を食いながら聞くと言ったのはお前だが…」

「あぁ、解った、解った俺が悪いそれで良いからちょっと待て」


頭の中を整理させてもらいたい。
まず、いつものように船を降りた所でこの男と出会った。
いつもなら若干どもりながら声をかけてくるこの男が珍しくキリリとした体で話があると言い出し、調度昼時だったのでこの店に入ったのだ。
そしてパスタを注文し、で?と切り出してみれば話し出すまで「あの…その…えっと」の三拍子をかける四十程繰り返し、何かもう待つのが面倒になって店員が持ってきたパスタを食っていたら不意にこいつがテーブルをダンッ!と叩きつけ立ち上がり、周囲の視線を集めた所で叫んだ。


『お前が好きだ!!』


…そりゃ、注目を集めるわな。
仮面の所為で何処を見ているのかは解らないが、ソワソワと落ち着きがないのは見れば解る。
返答を待っているのだろう事は一目瞭然だった、相手も、周囲も、俺の反応を待っている。
ぶっちゃけて言えば、ふざけんな、だ。
そりゃ圧倒的に女の少ない海賊生活、男同士で性欲発散なんて珍しい話でもないだろう、だが俺は御免だ。
誰が好き好んで硬い胸を触りたいか、自分にもついているモノを握りたいか。
俺は女が好きだ。女の柔らかい胸も細い腰も脚も大好きだ。
加えていえば、俺は意外とこの男を気に入っていた。船長を第一として動いている姿は同じ船員として感心できるものであったし、億超えの賞金首のクセにやけに好意的だったし(その好意がまさかソーユー意味だとまでは思わなかったが)
例えるなら、野良猫にほんの少しだけ愛着が湧いていたというような、それがたった一言に裏切られた気がしたのだ。
敵なのだから、裏切ったというのはおかしいかもしれないが。というかまず、俺は身の危険を感じるべきか?
言われた通りちゃんと待ちの姿勢でいる男は普段は猫のようなのに今では大型犬のようで、襲われる心配なんて無用のように思える。
まぁこれまでの行動からして、こいつは見かけよりもずっと奥手なんだろう。


「……聞きたかないが、俺にどうして欲しいんだよ」


これで抱きたいだの抱いてくれだのと言ったらパスタ顔面に投げつけてやろうそうしよう。
それまでソワソワしながらも座って待っていた男が、鎖骨から首の見える所までを一気にカーッと赤くさせた。
思わず引いてしまう。これが女ならまだ初心な反応だなとニヤける余裕もあっただろうに。
そんな事をやや遠い目をしながら思っていると、男が徐に何かを取り出した。


「……」

「……」


テーブルに置かれたものは二つ。
通信型電伝虫と思われるものに、番号と船の名前を書いた紙だった。
その電伝虫は男と同じように水色と白の縦縞で、男の所有するものであると知れる。
問題は、紙の方だ。番号はともかくとして、船の名前なんて何の為に書いた?
疑問に眉をひそめる。が、相手からは帽子の鍔に隠れて見えないだろう。
仕方なく、何だよと問えば、モジモジモジモジ、両の手の人差し指を擦り合わせて照れている殺戮武人の姿。
正直に言おう、気色悪い。
もうこの話に付き合うのはやめて店を出てしまおうか、勿論一人で。
若干酷い事を考えながらなりゆきを見守っていると、ボソボソと何事かが呟かれた。


「なんて?」

「その…良かったら、なんだが」

「あぁ」

「…………ぶ、」

「ぶ?」

「―――文通して欲しいっ!!」

「…………………………」


硬直したのは何も俺だけじゃない。
黙り込んでいた周囲の客も、店員も、まるで奇跡を目にしたかの如き驚きの表情である。
殺戮武人だぞ、億超えの大型新人で、殺戮で、武人だぞ?え、こいつ本当に本物?
思わず偽者じゃないかと疑う。
顔は見た事ないがそこまで幼くもないだろうこの男、多分に同年代ではないかと俺は踏んでいる訳だが、それにしては随分と発想がおかしくはないか?
文通。好きだと言った相手に求めるものとしてはかなり可愛らしい要求だ。
まずはお友達から、なんて言うよりも奥ゆかしい、というか今時そんな事を言う奴が居るとは思わなかった、絶滅危惧種もいい所だ。
そんな事で良いのかと、俺は拍子抜けした。
それなりの年月を生きてきた男ならば生々しい考えを展開してしまうのは当然の事なので言及はしないで貰いたい。
しかし参った。
相手がこうも純情では、断るだけでも妙な罪悪感が湧いてしまう。
この状況で文通すら断ったら俺は悪い奴じゃないか?
いや海賊をやってる時点で悪い奴なんだろうが、それにしたって断りづらい。
仮面で顔は見えないのに、期待一杯に見えるのは何故だろう、あぁこれが良心の呵責ってやつか。


「……俺はな、殺戮武人」

「あぁ」

「言わなくとも知っていると思うが男だ」

「違いない」

「となると、好きになるのは当然女限定だ。もっと言うなら胸はC位で色白の綺麗系が好みだが、それはこの話に関係ないとして、ツルペタな上に同じモノがついているお前には勃ちもしねぇし恋をする事はまずないと断言できる」

「…その言い方はあんまりにも身も蓋もないんじゃないか」

「事実だからな。まずはそこを認識しろ、それが解ってるなら文通位してやる、減るモンじゃないからな」


いや紙もインクも俺の個人的な時間も減るが、それでこの男が満足するというなら安いものだ。
食べ残しのパスタをクルクルとフォークに巻きつけて口に放り込む。
大衆食堂の割になかなかな味は、冷めてしまっても変わらないようだ。
適当に入った店にしちゃ上等だった。
咀嚼を繰り返し空になった皿の上でフォークを置けばカランッとよく響く。
未だ周囲は静かで、当の殺戮武人もプルプルと震えるばかりだ。


「…おい?さつり、」

「文通してくれるのかっ!」

「え、あ、まぁ、それ位なら、」

「ありがとう!大事にする!」

「…あぁそうか勝手にしてくれ」


……手紙を、だよな?
なんとなく話が食い違っている気がしないでもないが、まぁ文通位ならどうという事もない。
勢い余って襲われるなんて事もないだろうし、そこまで筆まめにも見えないから頻度だってそう多くはない筈だ。
ベポや船長にはあまり知られないようにしたいが、多分バレるな。
まぁこれも己の貞操を護る為だ、どうせ新境地開拓するならその道のプロなお姉さんにされたいんだ俺は…ってそこ、変態とか言うんじゃない。
変態っていうのはうちの船長みたいなのを言うんだ。
俺だってしないで済むならしない方が良いんだからな。
ジーッ、と多分見つめているんだろう男がテーブルに置いた紙を、ヤケクソ気味に受け取る。
そのついでに伝票を押しつけてみると、何の反論もなく男が会計に至ろうとするので慌てて自分の分を出した。冗談の通じない奴だ。


「払っても良かったが」

「払ってもらう理由がねぇ」

「む…なら文通記念というのはどうだ」

「何だそりゃ」


いやいや存外冗談も言えるらしい。
さて、これからどうしたものか。
とりあえずは、切手でも買っておくとしようか。


















殺戮者は純情でした
(こんな初心だなんて、誰が解るか)




















原作重視のペンギンでいってみようかと思ったら口の悪いおっぱい星人のようになってしまいました←
でもあんだけオンナノヒトに食いつくあたり、ハートの海賊団ってきっと女性クルー居ないんだろうなぁとかローがクマLOVEだからなのかなぁとか色々深読みしてしまいます←
キラーはオトメンで妖精フェアリーこれ鉄板(勝手に決めやがったこいつ)




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