第三者による見解は、










いい目をする男だ。


初対面に感じたそれは、自分にしては珍しく好印象のそれであった。


大抵の海兵では、自身と目を合わせるだけで緊張の果てに目を逸らす者が多いというのに。


その男は、緊張こそ顕わにしているが、それでも絶対に目を逸らそうとはしなかった。




名を問いたのは、そういった事から興味が湧いたからだ。















横に長いばかりの廊下を歩いて行く背中には、見覚えがあった。
X・ドレーク。直属の部下でこそないが、真面目で勤勉。実力もそれなりで近頃頭角を現している男だ。
初めて言葉を交わしたのは、ドレークが上官からの書類を届けに来た時だと記憶している。
通常、下の者の顔や名前を一致させる事に執着など持たぬものを、彼に関して覚えているのは優秀な海兵だからだろう。
正義を護っていく組織ならば、それなりの人材は貴重だ。
さて、知らぬ仲ではない相手、そして自分も同じ方向へ行くのならば、一声挨拶というものをするのが礼儀だろう。
そう思いその背中に声をかけようとした刹那、ぬっと横から現れた長い腕がその肩をがっしり掴むのが見える。
ひくりと頬が引き攣ったのは、相手が相手であったからか。
同じ大将の位に就き、尚且つドレークの上官であるその男は、クザンという。
これは声をかけづらくなった。
常からあの男を嫌っている訳ではないが、だらけきった正義をモットーとしている男の勤務態度には正直言って腹が立つ。自ら疲れる事をする必要はない。いつもならば、そう思い敢えての労力を覚悟して迂回するものだ。
だが、それをしなかったのは、肩を抱かれたドレークの手の中から、抱えていたのであろう書類が地面にばさばさと音をたてて落ちて行ったからだ。
あの男は何を部下に茶々を入れて手間を増やしているのか。
ひらひらと宙を舞いながら後方へやってきた紙を一枚拾い上げると、そこでクザンが先に己の存在に気づいた。
あらら、とお決まりの声を漏らすクザンに倣い此方を見たドレークの眼がやや丸くなる。


「ほれ、ドレーク。ないようなったらつまらんぞ」

「っは、申し訳ありません」

「それと、クザン。貴様いきなり部下を驚かせて何しちょるんじゃ」

「ごめんごめん。一生懸命だったからつい」


書類を受け取りながらもきっちり謝罪するドレークと、大して反省の色を見せないクザン。
こんなにも対象的だというのに、上官に対する不満など一切ドレークは漏らさないのだから不思議なものだ。
実は見えない所で仕事をしているのだろうか、このクザンが?
……いや、それはない。言い切れる。
この男は、執務の殆どを寝て過ごすか気紛れに出かけるかで部下を右往左往させる事で有名だ。
同じ大将と思うと情けなくもなる、ついでに言うならこめかみも引き攣る。
震えたこめかみは帽子で見えないだろうに、えーっと、と若干気まずげに後頭部を掻きながら後ずさるクザンは今にも逃げ出しそうだ。
成程、本能的に命の危険を感じ取っているのかもしれなかった。


「オー、楽しそうだねぇ〜」

「黄猿さんっ」


空気を読んだかのように現れたのは大将黄猿、ボルサリーノである。
クザンはボルサリーノに歩み寄ったかと思えば、若干隠れるようにして傍に立った。人知れず他人を盾にするとはどれだけ怖いのか、というか、大体この男は氷人間なのだから、いくら此方が本気で粉砕した所で元に戻れるのではないか?
いや、まぁ、溶かしてしまえば再起不能にはなるのだろうが。


「何の騒ぎだい?」

「クザンがドレークにちょっかいかけちょったんでな」

「オー、そいつぁいけないねぇ〜」

「うぇっ」

「ドレーク大佐は真面目な子なんだからぁ、苛めたら可哀相でしょぉ〜?」


ねぇ〜?と声をかけられたドレークはといえば、それまで一人取り残されていたのだろう、ぴくっと肩を震わせてから、あ、はい、いぇ、と肯定とも否定ともつかない声をあげた。
クザンの心境的には否定して欲しかったのだろうが、大将が勢揃いとなれば流石に緊張しても仕方ない。


「肩の力を抜けドレーク。取って食うたりはせん」

「何だよサカズキ、ドレーク君には優しいの」

「優秀な海兵には、の間違いじゃろう。貴様はそうでないから優しくはせんが」

「黄猿さんサカズキが苛めるよ俺の事っ!」

「まぁ君達のはいつもの事だからねぇ〜」

「酷いっ!」


三人揃えばかしましい、のはいつもの事だが、あまり下の者にだらしない所を見せるのはよろしくないと思う。
それでもやる時にはやるのがこの二人なので、敢えては言わないが。
ボルサリーノに抗議をしているクザンの横では、目を白黒させていたドレークが若干落ち着いた様子で書類を抱え直していた。
あまり引き留めてやるものでもなかったか、クザンを叱咤していただけで、ドレークを引き留めた訳ではないが、そうでなくとも上官の意を聞かずに踵を返せる程図太い海兵などそうはいないものだ。
未だ言い争い(しているのはクザンだけでボルサリーノはにこにこ笑っているだけだが)二人に、勝手にせいと一言残して、ドレークに行くぞと声をかける。
廊下は一本道がまだまだ続くので、別段進行方向さえ合っていれば大丈夫だろうとタカを括れば、ドレークは何の不満も零さずに後をついてきた。
残された二人へきっちり敬礼をするのも忘れずに、後ろを歩くドレークを、肩越しにちらりと振り返れば、僅かに首を傾げる。


「…足を止めさせてすまんかったな」

「え…あぁ、いぇ、むしろサカズキ大将がいらっしゃって助かりました」


あぁやって絡んできた時は長いので、とあっけらかんと言い放ったドレークは、もはやクザンの横やりに慣れきっているように感じられた。
全く大将とあろう者が、自身の部下だからといって仕事の邪魔をするとはけしからん。
後で改めて言い含めておかなければなるまい、と決意しつつ、そうか、と返す。
暫く、歩きながらの会話はそこまで堅いものではなかった。
近頃の海賊の増加に関する懸念や、演習の内容など、細々とした話題はお互いに口を開きにくいタチだからか。
不意に互いの友人の話題になれば、そういえば、とドレーク自ら先に口を開いた。


「大将達は、皆様仲がよろしいのですね」

「…………そう、見えるか」

「えぇ、見えますが」


仲が良い、とは少し違うが、まぁ共に居て一番付き合いが長いというのはあるかもしれない。
先程も仲睦まじく、などと微笑みながら言い出すドレークには心底否定してやりたくもなったが。
仲睦まじい、だなんて言葉は本来男女間に使うものではないのだろうか。
若干気まずくなって、そうか、と声を零した。他に何と言えば良いものか全く見当がつかなかったのだ。
此方がそのような心境に陥っている事など知らないドレークをちらりと見やれば、当のドレークはあらぬ方へ顔を向けて何処かを凝視していた。
自然とそれに倣えば、視線の先に居たのはこれもまたクザンに並び己にとっては問題児の男がそこに居て、もしやドレークは自らこういった男達と接しているのかと疑りたくなる。
それ位に、今日は問題児との遭遇率が高いのだ。
無意識に顰めた顔に気づいたのか、ドレークは、申し訳ありません大将、失礼致します、とこれもまた綺麗に敬礼の形を取ってみせる。
許可の意を込めて頷いてやると、待っていたとばかりに踵を返して早足で男の元へと向かって行った。
声は聞こえない、が、ドレークは男の名を呼んだのだろう、それまでドレークに気づいていなかったその男は、心底面倒だとばかりに顔を顰める。
暫くドレークが何事かを言っているようだったが、男が不遜な態度で煙を吐き出しながら何かを言えばぐっと押し黙ってしまった。
あの男が一体何を言ったのか、ドレークの表情はこれまで見た事もない類のもので、俯きがちになった彼の頭を突如男がぐしゃぐしゃと掻き撫でる。
きっちり後ろに撫でつけられていた橙の髪がぱらぱらと額にかかった事で、ドレークは慌てて顔をあげるとまたも何かを男に言っているようだった。
そしてもう一度、煙と共に男が一言零す。
すると今度はどうだろう、やや怒ったようにも見えていたドレークの顔は和らいで。
共に歩いて行った二人の背中はもう曲がり角の奥へと消えて行った。
けれど垣間見えたその横顔は、どこか幸せそうで。


(…あほらしいて、やっちゃおれんわい)


仲睦まじいというのは、ああいうのをいうのだと、そう思った。
















第三者に依る見解は、
(あららら、じゃあサカズキもフラれちゃったんだ?)
(…フラれたも何も、と突っ込みたい所じゃがな。まずはクザン、貴様の勤務態度からじっくり言わせて貰おうかのぉ…!)
(ぇ、ちょ、まっ、黄猿さん助けてっ!)
(オー、自業自得ってやつだねぇ〜)
(酷いっ!)





















ドレークさん視点だと仲良し三大将。
サカズキさん視点だと悪友。
ちなみに最後はスモドレです、解り難い!
どんな会話をしていたかと言いますと……

ド「スモーカー!」
ス「……(面倒なのに見つかったな)」
ド「またお前は命令違反をしたそうだな!怪我をしない身体だからって無茶をし過ぎだぞ!」
ス「……うるせぇな、てめぇには関係ねぇだろうが」
ド「っ……それは、そうだが(俯きがち)」
ス「…………はぁ(ちょっと言い過ぎたかと思いつつ頭を撫でてみる)」
ド「なっ、何だ!」
ス「……てめぇが笑ってないと調子狂うんだよ(言わせるなこんな事)」

そんで仲良く一緒に執務室に行きます←
本当は三大将ともお話して貰うつもりだったんですが、口調で挫折して断念。
大将達の口調が難しいですよぃ…!




第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!