結局どちらも同じこと










よくあんな奴の傍に居られるな、と言えば。

よくあの人の世話をやりきるな、と笑われた。




結局、互いに振り回される側で。


言ってしまえばどちらも似たようなものなのだ。











海軍本部の食堂はどのような時間帯でも疎らに人の姿が見受けられる。
というのも、支部ならば総出で取る筈の休憩も本部の海兵の数を考えれば総出でなどとれる訳もなく、その為に各隊ごとの休憩時間をずらしている事がそれに起因している。
本部食堂の調理班は一日三回の交代を挟みフルタイムで調理に専念していた。
ありがたい事だ。
そんな食堂にて、黙々と食事に勤しんでいる海兵が一人。
海兵の名をボガード。
海軍本部中将であるモンキー・D・ガープの副官である。
深く被った帽子は目元を隠しているが、食事時でも外さないというのは如何なものか。
しかし人員が多ければその分変人も多いとされる海軍内で、そのような事を咎める野暮な者は幸か不幸かこれまで現れた事もない。
連れの居ないボガードは、ただひたすらに本日のAランチを頬張っていた。
実はこのAランチ、高官位しか手を出せない高級食品を使っている物である。
その証拠に近くのテーブルで同じ物を食べている海兵は居ない。
だけれどもボガードは、そういった事を感じさせる事無くただひたすらに口に放り込んでは咀嚼するというような食事を敢行していた。
下っ端海兵からしてみれば羨ましいような、勿体ないような。
しかしそれを咎められる海兵は居ない。
付け加えて言うなら、そもそも親しげに彼に声をかけられる海兵もそうは居ない。


「前、良いか」


…筈、なのだが。
帽子の鍔の奥から、ボガードは声の主を窺い、そうして相手を認めると静かに「あぁ」と頷いて見せた。
無愛想極まりないその態度も気にせず、声をかけた主はにこやかに「ありがとう」と席に着く。
ガタガタッ、と椅子をずらす音に次いでトレーを置く音がそっと響いた。


「酷い顔だ。ボガード」

「……ほっとけ」


揶揄を含んだ声に、ボガードは若干気恥ずかしげに帽子の鍔を引くと、一時食事の手を休める。
それまで一心不乱に箸を進めていた彼の手が止まった事で、真向かいに座した男は呆れたように溜息を吐いた。
男の名はX・ドレーク。海軍本部准将であり、このボガードとは旧知の仲である。
この二人が同期であり、それなりの付き合いがあるという事を知るのは同期か上の人間位のものだろう。
お互いに多忙な身である上に、お互いに手のかかる人間が傍に居る為に大した交流が図れないというのが原因であった。
上に位置する二人であるのだから、それなりの交流はあって然るべきと思う下士官も居るだろうが、それでもこの現状、傍から見ればそれなりに異色の組み合わせである。
しかし周囲の目など気にもせず、いいや気づいていないのか、二人は変わらず会話を成立させていた。


「随分遅い休憩だな。ガープ中将の隊はもう少し早かった筈だが、演習でも長引いたのか」

「いやいつも通りだ。今日は……中将が突然居なくなられてしまってな」

「…………あぁ」

「探してみたが未だ見つかっていないんだ。それで、順々に昼食を取っている」


食べ終えたら捜索再開だと、疲労の滲む声で息を吐くボガードに、ドレークは大変だな、と同情を顕わにする。
モンキー・D・ガープ。海軍の伝説。英雄。
称賛に満ち満ちたその通り名ともいうべき言葉のそれぞれは、けれどもその本質を知れば親しみしか感じ得ない。
目を離すとすぐに何処かへ消えてしまうのは海軍上層部の癖というべきなのだろうか。
いや、癖という程そういった人種ばかりな訳ではないが、ドレークにとって最も近しい上官もまた、目を離すと居なくなる事で有名である。
偉い人間というのはどこかしらに何かを抱えている物だと、そういった認識をする事で諦めとしたのは一体いつだったか。


「センゴク元帥かつる中将の所じゃないか。この前はそうだっただろう」

「あぁ、だがその前はサカズキ大将の所でそのまた前はボルサリーノ大将の所だったからな。行動範囲を絞るのは難しい」


何十年も海軍に在籍しているガープは、当然ながら顔が広く、上下分け隔てなく接するのもあり人脈は上から元帥、下は雑用までと幅広いものである。
その上異常な腕力に物を言わせ、一人で艦を出し何処かへ行ってしまうのもザラで、行動範囲だなんて生易しい言葉で括る事がまず不可能だ。
此方が必死で探してみれば、すまんすまん、と豪快に笑うばかりなのだから怒る気も失せてしまう。
気紛れで、正義に対しても自由奔放。
昇格して副官に召し上げて貰ってからもう何年も経っているが、それでも未だにあの方の事は把握しきれていない。
それでも、尊敬できる方だと、ボガードは口にこそしないがその想いだけを込めてドレークを見やる。


「…そういえば、ドレーク、お前の方こそ休憩にしては遅くないか」

「あぁ…さっきまでクザン大将の所に、な」

「……また、スモーカーか?」


そんな所だ、と困ったように苦笑するドレークに、今度はボガードが大変だな、と同情の眼差しを向けた。
スモーカーという男は、海軍本部中佐でありながら上層部から野犬と称される程手のつけられないはねっかえりである。
ちなみに話題の中心であるスモーカー、ドレークとボガードの同期でもあるのだが、そうでなければ二人ともスモーカーとの接点を見つける方が難しいだろう、それ位にタイプが違い過ぎた。
しかしそのタイプが違い過ぎる筈のスモーカーとドレークが恋仲だと、ボガードがその事実を知ったのは、士官学校を卒業して間もない頃だったろうか。
それ故に、という訳でもないだろうが、ドレークはスモーカーが問題を起こす度に上層部から呼び出しを食らっている。
というのも、士官学校時代ですら「優等生」と「問題児」というレッテルがお似合いのドレークとスモーカーは、二人一組で括られていたのだ。
卒業してまでこいつの世話に奔走させられるなんて可哀相にな。
そうボガードが揶揄したのは随分と昔の事であり、その時はドレークも「全くだ」と笑っていた。
加えていうなら、その時のスモーカーは苦虫を噛み潰した表情…はいつもの事だが、若干気まずそうに葉巻を噛んでいた気がする。


「で?今度は何をしたんだ、あいつ」

「あぁ。演習でな、上官相手にやり過ぎたらしい」

「半分か?」

「八割だ」

「…………そりゃまた、やるな。あいつ」

「褒めてどうするんだ」


半分、というのは半殺しで、八割、というのは八割殺しかけていた、という意味だ。
主語のない会話は付き合いの長さがあるからだろう。
難なく会話が進めば、ボガードを咎めるドレークの目は僅かばかり拗ねているようでもあった。
恋仲となっても、ただの同級だった頃でも、この男とスモーカーは変わらないのだなとボガードは思う。
ほんの少しあがった口角を、掌をあげドレークを宥めるのに併せて隠しつつ、ボガードは褒めてない、感心しただけだ、と軽口を零した。
どっちもどっちだ、と言いながらもドレークは気を取り直したように食事を再開させる。
彼の前にはこれもまたAランチ。
けれどもボガードよりもずっと美味しそうに頬張るのは、現状に対する余裕があるかないかの違いだろう。


「嫌なら面倒をみなければいい。自分には無関係です、位言ってやれ」


きっとスモーカーの奴、俺の知った事じゃねぇとか言いながらも内心は傷つくだろうさ。
楽しげな響きを持つボガードの声に、傷ついたスモーカー、というのを想像してみるも上手くいかないのだろう、ドレークは微妙な顔をして、それはどうだろうなぁ、と気のない返答を零した。
やる気のない声からして、恐らく、今後もスモーカーが問題を起こす度にこの男は上官の前へ歩み出るのだろう。
結局の所、とボガードは思う。
結局の所、ドレークはスモーカーを見限れないのだと。
その気持ちは解らないでもなかった。
ボガードにとってのガープがそうであるように、同年でありながら、ドレークはスモーカーを尊敬しているように感じられる時がある。
それは、その自由奔放な生き方にか、それとも、確固とした己の意志を持つ揺るぎなさにか。
多分に、そればかりではないのだろうけれど、それでも、そういった面は否定しきれないに違いない。


「……お前も、物好きというか変人というか、損な男だよな」

「そっくりそのまま返してやろうか」


しみじみと呟く。
挑戦的に返して来たドレークは、デザートの包装をペリペリと剥がしている所で。
やり返されては堪らないと、ボガードは手をつけていない自分の分を「まぁ食え」だなんて誤魔化しながら向かいのトレーに置いてやる事にしたのだった。




















結局どちらも同じこと
(さて、探しに行くとするか)
(俺も、始末書書かせないとな)
(もう食べ終わったのか。ちゃんと噛んだか?早食いは身体に悪いんだぞ)
(…ボガード。こんな事は言いたくないが…お前は俺の母親か?)
(…すまん、中将と同じ扱いをしてしまった)
(……大変なんだな、本当に)
(おい人を憐みの眼差しで見るな)




















ボガードさんって誰?と訊かれたらどうしよう←
ボガードさんも同期だったら良いなぁ良いなぁという願望から派生。
素顔を見せて下さい傷跡とかあるのかなというかOPは帽子キャラの素顔が気になり過ぎる。

ちなみにじっちゃんはドレークさんと入れ違いでクザンさんの所に居ました(発見はこの後三時間後)




あきゅろす。
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