菓子?悪戯?またはキス





ハッピーハッピーハロウィン。

ハッピーっていうのは幸せって事である。

幸せっていうのは少なくともいいものの筈である。




それなのに、今の状況はどういう事か誰か説明してくれ。
























「だ、か、らぁっ……!」


グググッ、と渾身の力を腕に込め、自身に覆い被さろうとする大男を押し退けようと奮闘するのは卑怯番長こと秋山優。
そんな彼に圧し掛かる大男こと金剛は、秋山の恋人である。
恋人、というからには密やかで甘やかな時間を共有する事もあるが、それは今が夜で此処が寝室ならの話であり、真昼間から空き教室で繰り広げるものではないので秋山は心底嫌だと主張しているのだが金剛は聞き入れない。
今日はハロウィン。
世間ではそこかしこにジャックオーランタンの置物やポスターが貼られ、かぼちゃの特売がスーパーの一角を占める日だ。そんな日にこれもまたお決まりなのが「Trick or treat?」という言葉。
お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ、というそれはお菓子を与えさえすれば被害を免れるという意味でもある。
秋山は朝からはろばろの家で弟妹達にお菓子を振舞った。
そういう意味では既にハロウィンというものの役割を済ませたのだが、まさか恋人からその言葉を向けられるとは誰が予想できようか。
金剛がそう言った瞬間、秋山はピッタリ3秒後素早くその場から逃げ出した。
頭が切れる彼は、お菓子などないと言った後の事が容易に想像できたのだろう。問題は、金剛に逃がす気が無いという事であり、激しい鬼ごっこの結果、いつの間にやら旧校舎の空き教室に駆け込んでいたという状況である。
これならばまだ教室に残った方が被害も最小限に済んだろうに…と、秋山は今更ながら後悔したが後悔とは後に悔やむからそう言うのだ。


「お菓子、なら…家に帰ったらあげる、って、い…ってるだろっ……!」


渾身の力でもびくともしない厚い胸板が憎憎しい。
平然とした顔でとんでもない要求をされそうで、秋山の頬は引き攣りその顔色は非常に悪かった。


「今がいいんだ」

「っの、確信犯だろ絶対!」


顔が明らかに笑っているあたり、タチが悪いと言わざるを得ない。
全くもって厄介な男である。


「…………あのさ、悪戯って言っても笑って許せる範囲にしてよね?」

「任せろ」


何の間も空けずに返された声はとてもとても楽しそうで、一瞬殺意が湧いたが腕力では敵わないのだからここはもう諦めるしかないだろう。
掠めるように唇が触れて、それから舌先が唇の表面を撫でるようにして舐めた。
絶対にこれ以上はさせまいと誓いつつ、口内にその舌先を迎え入れれば、コロリと甘いものが転がり込んでくる。

甘い。


「ん……?」

「さっき陽奈子に貰った飴だ」


コロリコロコロと口の中で転がる飴玉はイチゴ味。
ちゅ、と再び重なった唇の隙間、ぬるりと入ってきた舌が飴玉を奪い取っていく。
カキッ、と割れる音がしたかと思えば、次に口移しで戻ってきた飴玉はその中にミルクでも入っていたのか甘味を増していて。


「……、ふ……これ、悪戯なの…?」

「俺が楽しい」

「っふふ……悪趣味、ンッ」


コロリコロカラコロコロカラリッ


欠片となって口の中に広がるイチゴとミルクの甘味に、何度も掠める唇のかさついた感触と時折熱を煽るように這ってくる舌先に頭の芯がぼんやりとしてきた頃、服の中に掌が入り込んできたのでジロリと睨んでやる。
それ以上は笑って許せやしないのだと、訴えれば困ったように笑って手を引いた。
どうやらまだ理性は充分に残っているらしく、そうとなれば安心してキスに没頭できるというもので。


「ねぇ、金剛……Kiss or treat?」

「……そうだな…どっちもだ」


首に腕を回してそう囁けば、再び唇が重なった。














ハッピーハッピーハロウィン。

意外とこれも、幸せのカタチかな?





























一生ちゅーちゅーしてろと思うのは私だけかな(貴様)
この後どうなるかはご想像にお任せ致します(無責任だなコラ)



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