駆け引きならもっと上手に




君の表現方法はとても遠回しで解りづらい。

それを解読しようと必死になる僕も僕だけれど。


























今現在、このはろばろの家には珍しくも金剛と秋山しか存在していない。
二人きりになるのは随分と久方ぶりの事ではあるが、だからと言って特別何をどうするという事でもないので秋山は読みかけの本を手にソファーで穏やかな時を過ごしていた。
いつもならば、はろばろの家に多種多様に置かれている本を同じように読み始める金剛は、何故か現在秋山の後方で部屋の中をのっしのっしと徘徊している。
はっきり言って、奇妙奇怪。変だ。
何時もと違う金剛と、何時もとなんら変わらない秋山ではその行動は全く噛み合っていなかった。いや、早い話がその現状に共通点を見出す事はとても難しい。


「……金剛?」

「何だ」

「何だ、ってさ…や、何でもなかった」


いや、そういう風に返されても困るのだけれど。
声をかけられる理由が解らないのか、それとも解っていて言いたくないのか。
どちらにしても言いたくなれば言うだろうと秋山は気を取り直して文章の羅列をゆっくりと目で追い直す。
が、暫く後、


「……金剛」

「何だ」

「っ…お、もい」

「……」


猫のように、いや、サイズ的には虎だが、とにかく背後から図体のデカイ男が突然ソファー越しにのし掛かってきた。
思わず率直な意見を述べてしまったが、結局返答も無く、一体何なんだ?と首を傾げる。


「っ……」

「……」

「…っ…重い、って、ばっ」


沈黙の長さに比例して増していく重みに眉をひそめる。
が、相手は黙り込んだまま、重さだけが増していくばかり。
背骨が軋んだのは絶っっっっ対に気のせいではない。


「っ、ちょ」

「……」

「金、剛っ」


いい加減にしろと叫ぶ寸前、不意に重さが無くなった。
一体何がしたいのか。
痛む背中に苛立ち、怒鳴り付けてやろうと振り返れば視界一杯に金剛の顔。
ちゅ、と可愛らしいリップ音と共に柔らかい何かの感触。


「な、」

「…」

「は?ぇ、ちょ、何っ、何これ?」


触れ合うだけのキスを終えて甘えるようにギュッと抱き付かれる。
鼻先を肩口に擦り付ける姿はまるで猫のよう。
一体何がしたいのか。
金剛が甘えてくるだなんて、想像もつかない。
いや、今正に目の前で甘えられているのだろうけれど。
甘えるにしたってもっと解りやすく、口で言ってくれれば苦労しないのに。


「……あのさァ」

「ん」

「ん、じゃないってば。何、何なの。何か壊したなら正直に言えば許してあげるから言いなよ」

「……」


あ、むっとした顔になった(普段に比べて、多少ではあるが自分にはそれだけでも充分に解りやすい)
物を壊した訳では無いらしい。
だが、先程まで後方でウロウロしていた金剛は、これから告白をしようかどうか悩む人間の行動にも似ていて、何がしか言いたい事があるのは目に見えて明らかである。


「……えーっと、罪状報告でないとするなら、要望?」

「……」

「だからさ、頷くとか何か言うとかしようよ…」


顔見れば解るから良いけど、と思いつつ無表情の中に解って貰えた安堵の色が浮かべられれば脱力感から文句も言いたくなるというもので。
コミュニケーションの一環として、言語と動作は大事なものである。これでは一人だけ喋っている馬鹿のようではないか。
それを素直に伝えるのも、何となく気恥ずかしいものがあるので仕方なく溜息をついて感情を逃がす。


「……秋山」

「ん、何?」

「……」

「…だから、何」


いい加減にしろ、と本日二回目の挑戦も大きな掌が頬を覆ったのでまた阻まれてしまった。
スリ、と撫でるカサついた肌質が、けれど生きている人間らしくて実は存外好いている事は言わない(安心、している事も)


「……構って欲しいのかな?まさか」

「……悪いか」

「……いやいやまさか当たりとは思ってなかったけど」


考えずとも、二人の時間は久方ぶり。
それでもまァ、同じ時間を共有する事だけでも秋山が満足できるのだからと自己完結してしまったのがいけなかったのか。
それでも口で言うには躊躇われて、どう表現したものか悩んでは室内を徘徊し、最終的には子供のように抱きついてキスをしてどうにか自分を見てくれるようにと金剛が必死だったのが漸く理解される。


(図体のデカイ子供……いや、大型犬?)


零れそうになる笑みを堪えて、仕方ないなァ、と前置きを一つ。
同じように頬を撫でて、太い首に腕を精一杯回し抱き締めてやる。
これが本当に子供ならば頭を撫でてやる所だが、流石にそこまでやると拗ねるのがこの男の難しい所だ(甘やかして欲しいと寄ってきたクセに、とことん甘やかそうとすれば子供扱いされたと拗ねるだろう)
子供じゃないのなんて解りきっているのに。
というか、子供相手にキスなんて流石にやらない(赤ん坊にならともかくとして)


「……散歩でも行く?」

「あァ」


どこの老夫婦だか、高校生なのにこの男が相手ではゲームセンターやカラオケなどに行くのも考えられない。それに自分もそういった場所は不得手である。
ついでに夕食用の買い物も済ませてしまおう、と家用の財布をポケットに入れ、戸締りチェック。


「金剛、トイレとお風呂見てきてー」


ガスの元栓、よし。
窓の鍵、よし。
一通り見終えて、金剛からトイレと風呂も大丈夫だと言われればお出かけの時間。


(こういうのもデートって言うのかなァ)


デート。デートねぇ。
巨漢と二人並んで、ノンビリ散歩して。
人の目が無い事をチェックして、こっそり掌を触れ合わせてみたり。


(……デート、かも)


流石に恋人繋ぎは恥ずかしいので遠慮したら見る見る内にその顔が沈むので。
仕方なく、指先をそろりと動かして絡めてやった。
あァ、全く。

甘やかされているのは、一体どちらなのだろう。


















駆け引きならもっと上手に

(…っていうか、頼むから口で言ってくれる?)
(何が)
(心臓に悪いんだよね。君って唐突過ぎて)
(……努力はする)
(……(不安だなァ))




















4800番を踏まれたマユミカ様に捧げます

リクエスト内容
『金剛×卑怯でほのぼの』



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