愚者が辿りつく場所は

■サンデー46号ネタバレ+死ネタ+暴力的表現有り
■CP要素は殆どありません。
■秋山の独白。



















鉄の塊が気道を塞いでいるように、口の中には血の味。鼻腔には血の臭い。

酸素が上手く取り込めず、ただただ虫のようにじわりじわりと嬲られ続け。










それでも、絶望は、絶望足り得ずに。
































何度目になるか解らない打撃に何の抵抗もなく吹き飛んだ身体は重厚な扉にぶち当たり激しい反動と共に地に伏す。
カツンカツン、何の感慨もなくただ淡々と一定の間隔で響く足音に、地べたと仲良くしている頬がズルッ、と摩擦する音にも構わず動かし目だけをどうにか上へ向けた。


人体を構成するには些か無機質過ぎる赤い眼が薄いレンズの向こう側、静かに見下ろしてくる。


(……お綺麗な顔して、やる事がエグいんだよ)


内心でやや投げやりに吐き捨てた台詞は、先に殺鳥まで持ち出した自分が思うには多少の無理があるかもしれない。
人間に使うには、躊躇いこそあったけれど、外観が酷似したそれに対し何の躊躇もしない自分は、遅かれ早かれ人間に対しても使っていただろう。
このガラクタと変わりはしない。いや、感情や思考能力がある分、自分の方が余程酷いのかもしれなかった。


(あーあ、やんなっちゃうよなァ)


単独行動の末に、こんなボロ雑巾みたいになって、こんな姿をあの三人に見られたらと思うと何とも微妙な気分だ。
すぐ其処まで来ていると言うが、自分が息をしている間は目の前で佇む殺人機械も出て行きはしまい。
愚直なまでに命令だけを遂行しようとするその姿は、いっそ滑稽だ。
滑稽なのは、自分もだが。
ふ、と唇の端が僅かにあがったのが見えたのか、端正な顔はそのままに。




「…何故笑ッテイル」




不思議そうにするでもなくただ無機質に零される問いに答える気も無ければ義務も無かった。
(そして、言葉を紡ぐには少々無理があった)

スーパーマシンでも、解らない事があるのか。
しかし人間の行動パターンとしてはあまり類を見ない行動である事は確かである。
自分が殺される時に、笑う馬鹿など滅多に居やしない。
そうなると、自分は気狂いか。
鍵宮が訝しげな顔を隠す事も無く「馬鹿に構うな!」と失礼な事を叫んでいる。






(答が、欲しいの?)



(自分で出せば良いだろ?)



(ガラクタの君には、無理な話かもしれないけれど、ね)











大体反則だ。
電撃なんて、確実に人を殺す為の装備でしかない。
鍵宮って男は戦争でもしようって言うのか。
今ここで始末した方が、この国は平和かもしれない。
視界に入った革靴に目掛けて渾身の力を右手に集約し殺鳥を奮う。
が、あまりにお粗末な悪足掻きはマシン番長が軽く跳ねるだけで回避されてしまった。
そのまま着地と共に手の甲を踏まれ、ギュルッと回転を加えられれば手袋は引き千切れ骨がミシミシと軋み、果てはゴキンッ、と嫌な音が響く。


















「ぅ、あっ」























(あぁ、右手イったな)





















不明瞭な呻き声と広がる激痛が直に神経を駆け抜け、ガンガンと急激な波紋を広げ、鼓膜が痛い位に震えた。
ありえない激痛に、けれども頭の中は嫌になる位、あくまでも冷静に客観的に、状況を把握する。
みっともなく絶叫できれば、まだ痛みを逃がせたかもしれないが散々顔を殴られたからか唇が引き攣るだけでも突っ張った皮膚が先に悲鳴をあげるだけで微弱な呻き声しか零れなかった。






「無駄ダト言ッテイル」





振り上げられた拳は、まるでコマ送りのようにスローモーション。
空気を裂くような音がし、大した間も置かずに衝撃が身体中の神経を、血管を、皮膚を、切り裂き、断絶していく。
既に声をあげる隙すら与えられないその一方的なまでの暴力は、ただただ命令を遂行する為だけのそれでありそれ故にただただ痛みだけを残していくのだ。

あぁ全くなんて事だろう。
まさかこうなるなんてね。
ははっ、まさかこうなるなんてね、だってさ。
どうなるかなんて、金剛が殺られた時に解っていた筈じゃないか。




(大体、金剛が勝てない相手に勝てる訳が無いんだよ)




解ってたのに、何でかな。
貧乏クジを引くのは、念仏番長あたりがお似合いだろうに何でか引いてしまった。
本来なら、マシン番長が全ての番長を倒すその時まで徹底的に情報収集に努めるべきだったのに。
けれどそれは、堅物な剣士や大食らいな少女やお調子者な坊主を見殺しにするという事である。
見殺しにする事など、昔なら何の躊躇いもなくやってこれたのに、何を今更とも思う。
けれど、何故か、できなかった。




(……だから嫌なんだ)




大体、金剛と関わってから、色々な事が狂いっ放しだ。
仲間とか、妙な連帯感とか、要らないんだよ。

忘れてしまうじゃないか。
夢を、野望を、理念を、形にする為に突き進む限り、避けて通れない道だと知っていたのに。
強く強く望む事で、誰かを傷付け誰かに傷付けられ、いつだってそこには互いの命が代償として在ったのに。

忘れてしまうじゃないか。

仲間とか、妙な連帯感とか。
そんな余計なものを、いつの間にか持っていた自分に。
そしてそれをいつの間にか大切にしていた事に。
多少、腹が立たない訳でもないが。
何せあの滅茶苦茶な男が相手なのだから仕方が無い。

なんて、苦笑して流せるあたり、すっかりあの男に毒されているらしい。
(全く、冗談じゃ、ない)

気がかりがあるとすれば、残される家族。
弱者でしかない、弟妹達。




(……幸太、ごめんな。兄ちゃん、お前に背負わせるつもりじゃないから、な)




しっかり者の弟は、まだまだ幼い。
家の為にと貯めた金はそれなりにあるが、最初の内は苦労するだろうから誰かの支えがなければならない。こうなるような気もしていたから、信用できる数少ない『大人』には頼んできたけれど。
信用?はっ、この僕が信用だってさ。
笑っちゃうね。









「答エロ。何ヲ笑ッテイル」










ははっ、まだ訊きたいんだ?
例え答えたとしても、解らないんじゃないかな?
ガラクタの機械には、解りはしないだろうと思うのだけれども。


僕は意外と、親切だから。


ひとつだけ、ガラクタの君に忠告をするならば。




僕が今この瞬間、絶望に伏していると思うのなら、まだガラクタよりはマシだ。





絶望と安堵はとてもよく似ているのだから。














けれども何も解らないなら、きっと君は本当のガラクタだろう。




(…でも、あいつなら)




もしかしたら、ガラクタのこの男ですら変えてしまうかもしれない。

変えてしまうのだろう。
あの男は、馬鹿みたいにハチャメチャな人間だから。
(それは、確信にも、似た)




「…卑怯番長、答エロ」




はいはい残念時間切れ。




もう何も見えないし。

もう何も聞こえない。

もう何も感じないよ。




全ての感覚が暗闇に落ちていく中でも、何の不安もないのはきっと。




(………僕でこれだから、多分あの三人もやられちゃうよなァ。ま、なるようにしかならないか)




そしてそれは、君への答でもあるのだけれど形にはしてやらないまま。




(…もっと、最悪な死に方をすると思ってたんだけど)




一般的にはまぁ異常でも、この計画に参加していた者としては意外と真っ当な死に方かもしれないな、と。








この場にあの男が居たら「勝手に死んでんじゃねぇ」とか理不尽な事を言って、理屈を述べても「知ったことか」と流すのだろうな、なんて。






























愚者が辿りつく場所は

((まだあいつが生きているように考えている自分が、我ながら滑稽だったけれど、滅茶苦茶な男だから、きっと、また))






































金剛が生き返るって何処かで信じてる秋山君。
これで次週ひょっこり生き返ってたり夢オチだったら面白いな(笑)
次週の展開がどうこうなる前に、一度はやりたい死ネタでした。



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