エゴイストの希

※秋山の独白。暗い話です。









欲しい

欲しくない


要らない、なんて、言えない








だから、叫び続けた















































僕は、きっと、
(きっと?前提が間違っているじゃないか)




彼が好きだ
(いいや愛しているんだ。そうだろう?)








生き方も生き様も思想も思考も
(だってそれは全て自分にはないものだった)


彼の、優しさも強さもそしてその強さ故の孤独も
(しかし孤独とは思っていないのだ、少なくとも彼は)







彼を、好きだと思った
(好き、だなんて可愛い言葉じゃ足らない)



イトオシイと、思った
(イトオシイ。そうだねそれこそが的確な表現だ)



そして出来ることなら、彼に愛されたいと、思った
(身の程も弁えずに馬鹿な事を思った)



そして出来ることなら、相応しい人間にと、願った
(そんな事は無理だと知っていたのに)








それでも、



触れて触れられて触れようとしてその時になって気づいた
(本当に?本当にその時だった?)
(いいや本当は最初から気づいていた筈だ)









あァ、相応しい人間ではないんだと
(本当なら出会うことさえも無かったかもしれない)







気づいた、瞬間、




悲しみも寂しさも見ずにカワイソウだと思った
(だってそうだろう、こんな人間に好かれて好いて)



悲しみも寂しさも見ずに離れなければと思った
(だってそうだろう、未来なんてものは得られない)













拒絶、した




その掌を、その腕を、その体温を、振り払って
(けれどそれは本当に彼の為だったのか?)

狂ったみたいに思いつく限りの罵声を浴びせた
(けれどそれは彼を傷つけたのではないか?)










だって彼と自分の間には目に見えないラインがある。
(それは白ではなくただただ黒くて、怖い)



そんな事は無いと彼が近づいてくる度にラインはこちら側に押し進んできて自分は後退するしかなくて。
(あの黒は、彼には合わない。僕は、溶け込んでしまう)



自らが近づこうとすれば黒く汚い線は動く訳ではなく余計に幅を広げてしまうのだ。
(そうして彼との距離はジワリジワリと開いていくのだ)



そうしていつかそう遠くない内に彼の姿すら見えない遠くまで押しやられてしまうのだ。

その方が地獄だった。

彼の姿すら見えないだなんてその方が苦しかった。
(せめて其処に在る事が解れば安堵できる)






イトオシイと思った。
(嘘じゃないそれは嘘じゃなかった。けれども)



愛されなくとも良いのだとも、思った。
(だってそれは自分の願いでしかなく彼のそれではない)









自分だけの宝物にできないのなら。
(できない。できる訳が無い。知ってたよ、知っていた)



手を出さずに決して触れずに大切にしていこうと思った。
だってそれなら、彼は自分の視界から消えない。
(傲慢?それでも構わない。自分でもそうだと思う)



触れなければいい触れられなければいい。
(触れられたら触れてしまったらおしまいだ)







そうだ、解らないフリをすればいい。
そうだ、解らないままでいればいい。

(彼にそれがバレないのならそれが最善の選択だと)





「……ねぇ、」





なのにどうして君は近づこうとするの。
(まるでこちらの心を見透かしたかのように)



なのにどうして君は触れようとするの。
(お願い、お願いだから触れないで、でも離れないで)





「っ、ねぇ」





解らない解らない解りたくない解らない。

肩を掴む掌の感触に、込められる力の強さに、真っ直ぐにこちらを睨みつける眼差しに、そこに僅か垣間見える心配の色に







(クラクラ、する。)





「…………秋山?」
「っ………………っ……………、………………いや、だ」
「秋山、」
「嫌だ嫌だ嫌だっっ……!」





見るな触るな寄るな知ろうとするな理解ろうとするな。
(見て触って離れないで僕を理解ってヒトリにしないで)












これは、恋なのだろうか
(こんなにドロドロとした感情が恋である筈が無い)



これは、愛なのだろうか
(こんなに苦しくて堪らないのに愛でない筈が無い)





「……大丈夫だ」
「い、やだっ」
「…大丈夫だ」
「っや、だ」
「大丈夫だから、ほら」
「っ…」





恋は罪悪だと言ったのは誰だろう
(恋ではないけれど恋ではないからこそ余計に醜悪な)



二つのもの同士が一つになろうとすることがセックスだと言ったのは誰だろう
(一つになんてなれやしないのに所詮二つは二つなのに)



抱き締められて安堵する自分に吐き気がする


(知ってるんだこうして泣いて乞えば離れられないって)



(どうしたら彼がずっと傍に居てくれるか知ってる)



(知っていて解っていてそうする自分の浅はかさ)



(気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い)












ねぇ、僕の口にする「嫌だ」は
(彼にはどう聞こえているのだろうか)

そのまま真っ正直に受け止めないで、なんて
(それこそ、傲慢だ)






























エゴイストの希

((傍に居てと、満足に言えもしない))



























『エゴイストの涙』の続きのような、シリーズのような。
こんな感じで金剛×卑怯前提の念仏×卑怯をいつか書きたいなぁ(遠い目)



あきゅろす。
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