奥様は番長










ある所に、金剛晄という男が居りました。

ある所に、秋山優という男が居りました。





二人はごく普通に出会い
(ふと思ったんだけどさ)
(ん?)

ごく普通に恋に落ち
(僕両親居ないじゃない?)
(そうだな)

ごく普通に付き合い
(でも男同士で未成年で両親も居ないなんてさァ…)
(……)


ごく普通に結婚しました
(普通、籍だけでも入れられない筈なんだよねぇ…?)
(…………)

しかし奥様には秘密があったのです
(おかしな話だと思わない?)
(…そ、そうだ…な)

なんと、奥様は
(…………ねぇ、金剛)
(……な、何だ?)




奥様は、番長だったのです
(籍、入れてないよねぇ?)
(ぅっ……!!!!)
(…………)
(…………)




…始まります。
(……ちょっと、何処行くの!?)
(悪い、今思い出したんだが今日はプリンの特売だ!!)










金剛と爆熱番長が戦おうとした瞬間の崩落。
その大元とも言える男を拉致し、呆気なく倒したけれど、気分は晴れない。せっかく加減してやったのに、粋が信条だの何だのと言っていた割に無粋な事をしてくれたものだ。


「…これに懲りたら、もう二度と23区計画に関わらないでよね」


無惨にもボロ雑巾のように…いや、ボロ雑巾の方がマシだと思える程、その顔の造型を歪ませたカブキ番長に笑いかける。
聞こえているのかいないのか、ピクピクと気持ち悪い痙攣を繰り返すカブキ番長を一瞥し、鼻先で笑う。
帰りは優雅にドライブと行こう、と車に乗り込んでから数時間…ポケットの携帯電話が震えた。
ディスプレイに浮かぶ番号は、家を空ける時には念の為にと弟妹達の各自に持たせている携帯電話の一つである。
後ろ暗い気持ちが一気に吹き飛ぶのを感じつつ、ハンドルを切りながら電話に出た。


「もしもし?幸、」

「俺だ」


愛すべき家族からの電話を出なきゃ良かったと思ったのは初めてだ。

というか、事故るかと思った今。


「…何かな、この電流も地盤沈下もミサイルも平気なバケモノ男

「あァ、勝ったぞ」

ッチ、生きてたか

「心配かけたな」

「してないよ。っていうか今の台詞でどうやったらそう前向きに捉えられる訳?」


ただでさえ疲れているのに、何でコイツと話さなきゃいけないんだ…って、そういえば帰っても居るんだった。
爆熱番長…動けないくらいメッタメタにしてくれれば良かったのに。
幸太の携帯電話を使っているという事はもう家に着いているのだろう。何故か周りが賑やかすぎる気もしたが、気にしないでおく。


「今、何処だ?」

「うん?すぐ帰るよ。何かあった?」


うわァ、この会話って夫婦っぽくて嫌だ。
でもあんまり詮索されて、また浮気だの何だのと言われるのは精神の衛生上避けたい。


「頼みがあるんだが」

「…なーに?」


きっと碌でもない事なのだろう。と思いつつ、結局聞いてしまう自分も自分なのだ。
まともに相手をする事を無駄と悟っている事もあるが、こんな風にして最後は甘い顔を見せてしまうからいけないのかもしれない。
しかし僕は失念していた。


「実は――――――」

「………ありえない」


そう、多分。いやきっと絶対に、金剛晄という男は存在自体が色々な意味でありえない男なのだという事を。




















死闘を繰り広げた後、和解した者同士の間に奇妙な連帯感が生まれる事は多々ある。それはありえない事では無い。
そして、食事に行くという事になって、
規格外の体格だとか粘着的なのとか箱に入ってるのとか銃刀法違反とかで構成されている場合、飲食店が入店を拒否する事はある意味で当然と言える…これもありえない事では無いだろう。
しかし、だからと言って…


「…何で、連れてくるかなァ」


道路の混み具合で家に着くのが大分遅れてしまった為、家に着いたのは昼に差し掛かる所だった。
はろばろの家は、本来なら幼い弟妹達にとって安らぎの場であり、家である。
しかし庭で遊ぶ弟妹達に混ざって、髪が逆立っている熱血漢だとか、スタイル抜群の姉妹だとか、とにかく此処に居る筈の無い男女の姿に、思わず脱力した。


「優兄ちゃん、お帰りなさい!!」

「あー!優兄ちゃんだ!!」


幼い弟妹達が明るく笑顔で駆け寄ってくるのに自然と頬が緩むのはもう条件反射だ。
素顔も素性もバレてしまうだろうが、ここで無視だなんて金剛に対してならともかく弟妹達にできようか。否、できる筈も無い。
些か不躾な視線は無視しつつ、何となく見回せば傷だらけ泥だらけの男女。
遅くなる事も考えて弟妹達の朝食は置いておいたが、彼らは朝食すら食べていないのだろうか。だとしたら空腹感もあるだろうし…ただでさえ大食漢…じゃなかった。ちょっと意外に食べ盛りなお嬢様をまともに相手していたら食材が尽きる事は目に見えている訳で。
となると。


「……カレーで良い?」


大人数で、沢山作れるものと言ったら、それ位だ。
幸か不幸か誰一人として文句は言わない(誰か一人でも文句を言ったら帰れと追い出してやるつもりだった)が、卑怯番長が作るのか?とナマグサ坊主が青褪めている。
うんいい度胸だ。後で覚えていろよ?


「その前に、そうだな…幸太、金剛達と買い物行ってきてくれる?メモ渡すから」

「うん、解った!」


男子には買出し、女子には残った子供たちと遊んで貰うように言って家の中に入った。




のだが。


「…何でついて来るかな」


本日何度目の疑問形だろうか。
のそのそと後を追ってくる金剛を振り返ると、ちょっと申し訳無さそうな顔。
あァ成程。それなりに反省しているらしい。
ちょっと、可哀相とか思っちゃったじゃないか。


「…もう怒ってないよ」


むしろ最初から、怒るというよりは呆れているだけなのだけれど。
棄て犬のような顔をする金剛の肩をポンポンと叩く。


「…悪いな」


甘やかしてるなァ、とは思うのだ。
まァ、ちょっと、いやかなり思い込みは激しいし、猪突猛進と言うか人の話を聞かないで突っ走るし、曲りなりにもこんな見た目からして明らかに男、なんていう奴に恋愛感情を抱く訳も無いんだけれど。
でも、それ等を抜かせば人間性は良いと思うし、女子供には優しいし、結婚云々言う割にはそういった事を強要しようとはしない訳で。
何というか、捨て犬と目が合って、思わず連れ帰ったり、ついつい餌をあげに通ってしまうような、そんな感じなのである。
絆された、と言うべきだろうか。
決して悪い男ではないと知っている分、それは余計に。


(変な言動が無ければ、多分付き合いやすいんだし)


間違った認識を正すのは、情をかけてしまった者の役目というやつで。
途中放棄なんてのはガラじゃないから。暫くの間は面倒を見ても良いかなー、とか。


「とりあえずさ、僕、仕度前にお風呂に入るから、買い物行って来てよ」


女性を差し置いて先に風呂を済ませるのは申し訳ないが、土埃や汗を落としてから出なければ料理をするには不衛生だから致し方ない。
そう言って浴室に入ろうとすれば、金剛は次の瞬間にはいつもの顔に戻って(しかも心なしか元気な状態で)にじり寄ってきた。
嫌な予感に眉をひそめたらグイッと浴室に押し込まれる。


「よし、背中を流してやる」

「……は?ちょっ、買い物行けって言ってるだろ!?」


っていうかあまりに自然な流れに一瞬ついていけなかったのだけれど…だからっ、入ってくるなぁあぁぁぁ!!!


「……夫婦なのにまだ一緒に風呂も入れねぇのか?」

「そんな事は未来永劫ありえないから!!」


残念そうな顔でそんな恐ろしい事を言わないでくれ!!
さっき強要しないからいい奴だって思ってたのも全部無駄になったじゃないか!!
さっきまで絆されていた自分の横っ面を、目を覚ませと殴りつけてやりたい。
金剛晄という男は、ありえない位に思考回路が変態だと失念していた自分が悪いのだろうか。
いやいや、失念とは違う。変態なのは解りきっている。
もしかしなくても自分は、既に金剛の奇行を半ば容認しかけているのだろうか。


「っ……!!」


そこに気づいて、卑怯番長もとい秋山優は、青くなったり赤くなったりしながら奇声をあげたそうです……マル














step 4
裸の付き合いはまだ早い?

(どうした!?何だ今の熱い叫び声は!)
(爆熱番長っ!金剛連れて買い物行ってきて!!)
(だから俺はお前の背中を…)
(良いから出て行けこの変態!!!)
(……俺はどうしたら良いんだ?)


















段々洗脳されつつある卑怯。
爆熱って叫びと書いてシャウトって言ってそう(笑)
一緒にお風呂は阻止したらしいですよ(他人事のように…)




あきゅろす。
無料HPエムペ!