白い翼の少年少女








「金剛、どうしよう!」






子供は風の子、元気な子。

目を離したら、さぁ大変。
































今日も今日とて迎えが遅れた陽奈子を待たずに月美が居なくなってしまったらしい。
しかも今日はサソリ番長こと児玉遥の息子である磊までもが一緒だと言うのだから大騒ぎだ。
子供ながらに実力があり、なまじっか本人がそれを自覚している為に面倒事へ首を突っ込んでしまったりしたらと気が気でない(そしてそれに関わった人間はもれなくサソリ番長にシメられる末路だ)


番長総出で街中を探す事になったものの、誰が何処を探しに行くのか、という相談の最中で、秋山の機嫌は頗る悪かった。


(…ちょっと、くっつき過ぎだと思うんだけど)


たった一人の妹の安否を気遣いながら、今にも泣きそうな陽奈子にしがみつかれている金剛へと向けられる目は鋭い。


(別に、気にしてないけど)


女子供に優しい男である事は知っているし、そういう場合でない事も解ってはいる。
でも、そんなに密着する必要も無いよね?
あ、あ、肩に手添えたりしてるし。


「…卑怯番長さん、どうなされたのです?」

「…うん?何でもないよ?」


白雪宮の問いに、少しの間を空けてからにっこりと笑って答える秋山の背後には重暗いオーラが充満している。
見えないのは、白雪宮と今は余裕のない陽奈子、それからそんな陽奈子を気遣う金剛あたりだろうか。


(今日は何て言われても泊めてやるもんか…!)


にこにこと笑う秋山の心中は嵐が巻き起こっていると言っても過言ではない。
担当区域を決め、他の番長達が駆け出すのに合わせてその場を離れた秋山は早々に探し出して帰ろうと自身の携帯電話を開いた。





















小さな子供(しかも片方は随分と特徴的な)が歩いていれば、それなりに人の目につくというもので、他の番長達が走り回っているであろう今現在、秋山は集めた情報を頼りに土手へ来ていた。
川沿いで遊ぶのは危険だが、傾斜で転がりながら笑い合う月美と磊をその目に収めればあまり口煩く言う事もできない。
叱りつけるのは、保護者の役目である。


「月美ちゃん」

「……お兄ちゃん、誰?」


声をかけると、首を傾げられてしまった。
そういえば、彼女とは『秋山優』としてしか顔を合わせていないと思い当たる。
秋山が成程、と納得している間に、磊が月美を庇うようにして前に立った。
何とも頼もしい少年だ、と苦笑しながら、帽子とマスクを取って再度笑いかける。


「ごめんごめん、こっちなら解るかな?」

「あ!優お兄ちゃん!」

「月美、知り合いか?」

「うん!金剛お兄ちゃんのお嫁さん!」

「「…………」」


その言い方はとてつもなく誤解を招くような…と頬を引き攣らせた秋山と、男同士で結婚できるのか?と不思議そうな磊が奇しくも沈黙を重ねた。


「えーっと…陽奈子お姉ちゃんと児玉さんが心配してるから帰ろう?」


妙な空気を誤魔化そうと、本題に入る。まだまだ遊び足りなさそうな元気なちびっ子二名は一緒に遊ぼうとズボンの裾を掴んできた。
しかしそこは13人の弟妹をもつ秋山である。


「月美ちゃんだって、陽奈子お姉ちゃんがいきなり居なくなったら嫌でしょう?磊君も児玉さんが帰ってこなかったら心配するよね?」


屈んで視線を合わせ、あくまで対等の位置から穏やかに言い聞かせる。
やはり不満げな顔をしながらも頷く二人の小さな頭をいい子だね、と撫でた。


「じゃあ、帰ろうか」

「っあ、ダメなの!」


差し出した掌は磊が触れる寸前で月美の慌てたような声に拒まれる。
一体何がどうして駄目なのか秋山と磊が揃って目を丸くすると月美がまたダメなの、と言った。


「金剛お兄ちゃんが怒っちゃうんだよ」

「…………は?」

「金剛お兄ちゃんじゃない人は優お兄ちゃんに触っちゃダメなの」

「えーっと……月美ちゃん?それは誰が言ってたのかな」


無邪気な声で、金剛お兄ちゃん、と返され秋山は思考を一時停止させる。
金剛以外の人間が触れたら金剛が怒る…月美はわざわざ嘘をつくような子どもでは無いし、こんな嘘はつく必要すら無い。
となれば、それらは全て真実という事になるのだが。


「優お兄ちゃん?」

「へ?ぁ、うん、ごめん。何だっけ?」

「おい、兄ちゃん、大丈夫かよ?」

「な、何が?」

月美と磊の不思議そうな視線が向けられて慌てて笑ってみせたものの、紅潮した頬は誤魔化せないと解っている。


(うわっ…うわー……)


隠された独占欲は、自分で思っていたよりもずっと嬉しく感じられて、おもわずにやけてしまいそうな頬の筋肉だけはどうにか堪えたが、赤い顔は暫く直らないだろう。
それはつまり、先程、秋山が陽奈子と金剛へ思った事と酷似している訳で、考えるまでもなくそれは嫉妬というもので。


(いやでも…あの金剛が?)


俄かには信じがたい。
普段からあの鉄面皮はなかなか秋山へ対しての感情を露にしないのだから、それも仕方がないと言えば仕方がない事であるが。
確かめてみよう、と秋山は月美や磊からは見えないように唇を悪どく歪めた。


「ねぇ、月美ちゃん。磊君にも。頼みがあるんだけど」





















「月美!」

「磊!」


心配半分、怒り半分、といった表情で駆け寄ってくる陽奈子とサソリ番長の姿に、小さな影が二つ後ろに隠れる。
繋いでいた手が後ろに引かれる事となり、傾いだ身体に僕を盾にしないの、と苦笑する秋山は先程携帯電話で入れた連絡と同じように状況を説明した上で最後にあまり叱らないであげてくれと保護者でもある二人に笑いかけた。


「反省してるみたいだし、何事もなかった訳だし」


ちゃんと反省してるよね?と上半身を僅かに捻って振り返ると、月美と磊がコクリと頷く。
渋々ではあるがとにかく帰ろうと其々の保護者が子どもの手を取り、他の番長達に頭を下げている間、秋山は金剛の動向を見守った。
順当的に言うのであれば、月美と磊に声をかけて、陽奈子とサソリ番長に良かったなと言って、自分はその後位のものだろう、もしかしたら声すらかけてこないかもしれない、と考えていた秋山だが、その予想は大きく裏切られた。
のそりと隣に来たかと思えば、暫しの間を沈黙で埋めてくるので秋山の目が一体どうしたのかと金剛を見上げ問いかける。


「なーに?」

「……別に」


いつもの鉄面皮だ。動揺や嫉妬心など霞にも見当たらない事に、秋山は内心で溜息をつく。
大した期待などしてはいなかったが、月美と磊に頼んでまで手を繋いで帰ってきた自分が今更ながらに幼稚だった事を思うと、ダメージはなかなかのものだった。


(そうだよなァ…金剛がまさか嫉妬なんてする訳無いし)


無駄足だったか、と思いつつ、さて帰りはスーパーに寄ろうかなと秋山が帰りの予定を立てていると、番長達への挨拶回りが終わったのかサソリ番長が磊を連れて戻ってきた。


「悪かったね。でも助かったよ」

「いーぇ、見つかってよかったですね」


13人の弟妹を持つ秋山からすれば、サソリ番長の心中は察する事が出来る。
自分とて、何処かへ出かける度に気が気でないのだ。
特にサソリ番長の場合は、事情が特殊なものである事も秋山は知っていたので珍しくも常の飄々と人を食ったような態度はとらない。


「磊、アンタもお礼言いな」

「兄ちゃん、ありがとな!」

「どーいたしまして」

「金剛の兄ちゃんに飽きたら俺と結婚しような!」

「……あのね、磊君。帰り道に何度も言ったけど男同士は結婚できないから」


此処に至るまでに月美が秋山の料理の腕だとか、よく遊んでくれる優しいお兄ちゃんだとか、そう言った好評を磊に吹き込んでくれたお陰ですっかり懐かれてしまったらしい。
てっきり月美を巡るライバルとして嫌われるかと思っていたのだが、彼の母親と同じ番長という地位に居る事も彼にとっては憧れの対象になったのだろうか(尊敬されるような事はしていないのだが、それを敢えて言う事はしない)
未だ『結婚=ずっと一緒』程度の認識しか持たないであろう園児からのプロポーズ染みた言葉は、本来ならば同い年の子どもの間で交わされるべき淡く微笑ましい約束の筈だ。
それをまさか年上の男としようとは…大きくなってから後悔するであろう事は明白である。
どうにか宥めようとはするものの、些か不満げに頬を膨らませるから可愛いなぁとついつい笑ってしまいそうになった。
頭を撫でて、またねと言えば元気な声が返事をする。
金剛もこれ位素直なら…とありえない願望を頭に浮かべた所で突如として腕が後方へと引かれた。


「……えーっと…金剛?」

「………」


いやだから無言でいられても困るのだが。
そうは思っても言葉にはなりきらないのは空気が妙に張り詰めているからだろうか。
一体どうしたと言うのか、金剛は磊をジッと見下ろし、磊も同じようにして金剛を見上げている。
サソリ番長が首を傾げ、他の番長達も何だ何だと目を向けてくる中、金剛が唐突に口を開いた。












「こいつは俺のだ。他の奴を当たれ」












(なっ、)


何事かと目を剥く秋山を含めた周囲など気にせず、磊は磊で選ぶのは兄ちゃんだろと小生意気な口を利く。


(…何なんだろうこの空気)


腕を掴まれたまま、どうしたものかと目を泳がせる秋山に構わず、金剛はグイグイと引っ張り始める。
呆然とする番長達や月美と磊におざなりにでも手を振っていると、おい、と不機嫌そうな声が前方から届いてきた。


「な、ぇ、何?」

「……帰るぞ」

「いや、あの…………帰ってる、よね…?」

「……」


何だ一体何事だ。
手を繋いでいた事には何の反応もしなかったクセに。
あんなに人が居る前であんな事を言うだなんて…


(…………)


まさかとは思うけれど。


「……嫉妬、した?」

「…………」

「……したんだ?」


黙ってしまった金剛に、秋山の唇がにんまりと緩む。


「…何だ」

「……べーつに?」


僕も陽奈子ちゃんに嫉妬したよ、と教えてやったらどんな顔をするのだろう?
今の自分と同じような気持ちになるのかな。と秋山は堪えきれない笑みをその顔に浮かべた。























子供は風の子、元気な子。

目を離したら、さぁ大変。



子供は風の子、元気な子。

時に可愛いキューピッド。






















白い翼の少年少女

(…で、どうする気だ)
(何が?)
(磊と……その…)
(……どーしよっかなー。将来有望そうだよねぇ)
(っ……)
(んー…小さい内から仕込んでおけば、好みの人間に出来そうだし?どーしよっかなー)
(っっっ……!!)
(んー…どーしよっかなー?((わー楽しくなってきた))










4000番を踏まれた結理様に捧げます!

リクエスト内容
『金剛×卑怯で月美ちゃんや番長達のALLでほのぼの』



あきゅろす。
無料HPエムペ!