奥様は番長










ある所に、金剛晄という男が居りました。

ある所に、秋山優という男が居りました。





二人はごく普通に出会い
(そもそもさぁ、なりゆきで参加ってどうなの)
(だが、そのおかげでお前に会えた)

ごく普通に恋に落ち
(は、は、は、恥ずかしい事言わないでくれる?!)
(事実だ)

ごく普通に付き合い
(そもそもさぁ、付き合ってなんて言ったつもり無いし)
(そう照れるな)
(照れてない!)


ごく普通に結婚しました
(だからそのナレーションはおかしいだろ!)
(まぁ落ち着け)

しかし奥様には秘密があったのです
(秘密でも何でもないし)
(まだマリッジブルーか)
(だからそれは結婚前になるものだしっていうか同じ会話してるからねコレ!)

なんと、奥様は
(そもそも僕は男だよ)
(…俺も男だが?)
(君が女だったら怖い!)




奥様は、番長だったのです
(………ごめん。想像したら気持ち悪くなった)
(…そうか(←傷付いた))




…始まります。
(………吐きそう)










「当然、僕の勝ち」


向かい側に立つ監獄番長が、勝者を問うのに合わせて舌をペロリと出してみせる。
金剛に負けた番長は、自分達よりも強くないだろうと侮られるのは心外だ。
それに、負けたと言っても、僕は他の三人と違って脱落者として扱われていない。
だからこそこれは正規の戦いであって、カブキ番長の統括区は僕のものになる…まぁ、それは僕の勝手な推測だけれども。今回の戦いは一応金剛の助っ人みたいなものだし。
一応、ね。


「ま、軽〜〜くこっちが一勝目ってことで」


白雪宮さんが拍手で迎えてくれる姿は、家に置いてきたチビ達を思い出させるのか安心する…のだけれど。
さっきから元々悪い目付きを更に鋭くさせてこちらを見る男とは目を合わせたが最後のような気がするのはきっと気のせいじゃない。


「……」

「……」

「……」

「………………何」


駄目だ。
こいつと根比べなんて時間の無駄だった。
言いたい事は多分いやきっと解っているのだけれど、実はあまり聞きたくない。
できれば何も言わないでくれたらと思うけど…


「…朝から何を作っているのかと思ったら、夫以外の男に差し入れとはな」


…言っちゃうんだよな、馬鹿だから。
いや聞いたのは僕だけど。
『夫』という言葉にその場が静まり返る。
だよね。普通そうなるよね。
良かった、僕はまだ目の前の馬鹿と違って正常らしい。
居合の彼は、未だよく解ってない顔だけど。
何故か白雪宮さんはニコニコしてるけど。
それ等は気にしないというか見なかった方向でいこう。


「差し入れというか…毒殺に近いというか…」


というかあれ下剤入りだし。
まさか君、あれ食べたかったとか言わないよね?


「朝早起きしてまで作らなくたって良いだろうが。それに私生活の事までよく知ってるみたいだな」


浮気した妻を問い詰める夫、みたいな空気を醸し出すな!
意味を解したらしい居合いの彼は顔を真っ赤にしたり真っ青にしたりと忙しいし!


「いや、だからそれは」

「正直に話せ。会いに行ったんだな」

「……行ったけど。そんなに怒る事でもないだろ?」

「…俺は聞いてない」


いや、聞いてないってそんな拗ねたように言われてもさ。
君本当に同い年?
確かに今朝は先に家を出る時何だかんだと誤魔化したのは事実だけど。
それはやはり意外と嫉妬深い彼が、着いて行きたいと言い出さないようにする為で。


(だってゴミ出しの時に回収員と挨拶程度しか話してないのにそれだけで不機嫌になるし…まぁ、ゴミ出しを代わるって言ってくれたのは、正直助かるけど)


彼が気に食わないのは、多分カブキ番長の前で素顔を見せたからっていうのもあるんだろう。
でも帽子にマスク、短ランで行ったらバレバレだし、普段顔を隠している利点が生かせなくなるじゃないか。
どんな正論を言い含めても、彼は納得しないだろうけど。
彼が着いてきたりしたらそれこそ一発でバレるというのに何とも融通が利かない男だ。


「……あー、うん…えっと、ごめん」


とりあえず、謝っておこう。
誤魔化したのは事実であるのだし、後々までヘソを曲げられても困る。


「…本当に悪いと思ってるか疑わしいが」

「いやだな、疑わないでよ。本当に悪いと思ってるってば(意外と鋭いな…)」


鋭いというか、ただ疑り深いだけなのかもしれない。
浮気なんかしてないわと言い募る妻じゃないんだから。
……というか、周囲の視線が痛い。
念仏番長なんか気の毒そうな目で見てるしさ…イロモノ番長に同情されるとか精神的な意味でショックだ。


「えーーっと…その…ホラ、次行こうよ。次」


折角一勝したんだから、気分よく次に行きたい。
そう思い話を逸らすついでに急かしたのに、向かい側にも馬鹿が居たらしい。
カブキ番長との戦いを終えてから、ずっと黙していた爆熱番長がさっさと先に進めれば良いものを、何故か腕組みしたまま口を開いた。


「夫婦だったのか貴様等」

「そうだ」

「熱く愛し合っているのか」

「あぁ」

「ならば良し!」


何が熱くて何が愛で何が良しなんだろう。
グッ、と親指を立てて爽快に笑う爆熱番長と、初めて第三者の賛同を得て嬉しそうな金剛…この二人は、もしかして馬鹿だから不死身並に頑丈なのだろうか。いや、それこそ馬鹿みたいな話だ。


「……卑怯番長、いつの間にそんな事に?」

「念仏番長…いやぁ、それが…何か、いきなりプロポーズされて気づいたらこんな事になってたんだよねぇ」


ちなみに貰った指輪はその日の内に売っ払っちゃったんだけどやっぱりそれは言わないでおこう。


「貴様等の愛の力で、俺達を倒してみせろォ――っ!!」

「望む所だァ―――っ!!」


馬鹿二人が言い合っている間に厚さ1mの壁が動き出す。
あ、開いた。


「…じゃ、次行こうか」

「「「…………」」」

「そっちもさー、放っといて行こうよ」

「「「…………」」」


皆呆れ返って(中には同情の目で見る者も居た)ゾロゾロと次のステージへ向かった。

ちなみに、あの大馬鹿二人は自動で閉まった壁を殴り壊し帰ってきました…マル











step 2
お披露目しよう

(卑怯番長さん)
(何だい、白雪宮さん)
(式は挙げてませんの?)
((本気?本気で言ってるのか?)…うん、まぁ)
(それでは帰ったら挙式ですわね!)
(え…………(あ、でもそれなら御祝儀貰えるかな))


















金剛と爆熱には似た匂いがしますよね(言い訳)




あきゅろす。
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