言った事には責任を持て




言った事は取消が利かない
声にしてしまったら最後


軽い気持ちの口約束にも責任なんて重いものがついてくる























「…本当に心当たりがありませんの?」

「……無いから悩んでるんだけどね」


机に頬杖ついてやる気のない溜息をつくと、向かい側の席でちょこんと座っている白雪宮さんが首を傾げた。
その大きな瞳は何の躊躇いもなく教室奥…といっても然程の距離は無いが、とにかく席についている巨漢へと向けられる。
腕を組み、授業中でもないのに、もっと言うなら昼休みだというのに、昼食もとらずひたすら黒板の方を見据えているのだが、纏った空気は明らかに重く、不機嫌である事など明白だ。


「ですが…金剛番長があれ程怒っていらっしゃる訳ですし…原因は卑怯番長さんとしか思えないのですが」

「…いやァ、僕も身に覚えがないけど僕なんだろうなとは思うんだよね」


基本的にあの男は義理と人情の塊のような人間なので、仲間を理不尽に傷つけられたとか、そういう事態でなければ滅多に怒ったりはしない…のだが。
これが事自分との関係になると違ってくる。
異常に心配性を発揮するわ、浮気をしないかと目を光らせるわ…独占欲が強いだけ、と言って終わらせるには、少々束縛が過ぎる男なのだ。
しかもタチの悪い事に態度は解りやすいのだが口に出して責める時と責めない時があるのだからこちらとしては気を揉む。


「………聞いてみた方が良いかな」

「…卑怯番長さん、顔が引き吊ってますわ」


だって聞きたくない。
どうせまた自分にとってはくだらない事だろうし。
本音はどうにか飲み込んで、そんな事ないよ?と取り繕うが効果はそれ程期待できないだろう。
さてさて、聞くと決めたら決心が鈍らない内に聞いてしまわないと。


「金剛、ちょっと」

「……」


手をヒラヒラとさせて教室のドアまで行き振り返る。
多少間はあったものの、無言ではあるが席を立った金剛と教室を出た途端大きな溜息が教室を揺るがしたのは聞かなかった事にした。




















「単刀直入に訊くけど、何を怒ってるの?」


屋上に出ると、照りつける太陽を雲が僅かに遮っていて何となく雲行きが怪しかったが過ごすにはちょうど良い空気が広がっていて。
昼休みもそう長くはないのだから早々に話を済ませようとすれば、男の鋭い目がジロリと向けられた。
不機嫌なのは最初から解っているので大して怯みはしないが、こうも無言で訴えられると居心地が悪くもあり、不快にもなるというもので。


「…黙ってたら解らないよ」


やや低めの声が出たのは仕方ないと思う。
しかしながら、これが喧嘩なのかは知らないが、このまま双方が怒っていてはいつまで経とうと解決しない事も解りきっていた。


「はぁ………僕が悪い事したなら謝るから。理由教えて」


精一杯の譲歩を示すと、暫くして僅かに空気が震える。
おい、むしろ溜息をつきたいのはこっちなんだけど。
呆れたような溜息にカチンときたがグッと堪える。
我慢だ我慢。相手は子供。図体がでかい子供、と自己暗示を繰り返していたら、ポツリと一言。


「……昨日の夜」

「…」

「……」

「…ぇ、それで?」


もしかして聞き逃した?いやいや、この距離(約2m)で聞き逃しただなんて僕はそこまで難聴じゃない。
ただ言葉に詰まっただけなのかそれともわざと止めたのかはともかくとして。
理由がある事は解ったのだからあとは根気。聞くまでこのままだという態度をとり続けるしかない。


「昨日の夜が、何?」

「……」

「な・に?」

「……覚えてないなら良い」

「それは僕が決める。大体、良いっていう態度に見えないんだけど?」


さぁ吐け早く吐け。
僕は早く教室に戻って穏やかに午後の授業を受けたいんだから。


「…風呂から出たら、お前が寝てた」

「うん。それで?」

「寝込みを襲うなと言われていたから、とりあえず起こそうとしたんだが」

「……」

「お前が……」


く、雲行きが怪しくなってきたような気がする。
昨日はお風呂に入って、ベッドに横になったあたりで記憶がない。
疲れていたし、お風呂あがりで身体も温まっていたからすぐに眠くなってしまった。
そういえば、金剛が何か言っていたような…でもあれ夢か何かだと思ってたし。えっ、夢じゃなかったとか?
待て待て、僕はあの夢で何て言った?


「今夜はもう寝るから、」

(……あ)


「朝早く起きて相手する」


(……や、やばい…)


「だからもう寝なよ、と言いながら珍しくお前からキ、」

「ごめん、解った、ちょっと待って、待った本当にうん」


言った言った言いました。
しかもすっかり忘れて、というか夢だと思っていつも通り寝てる金剛を放って配達のバイトに行きました。
あァ、そう言われてみれば配達から帰ってきた時から不機嫌だったかもしれない。
その時は朝食にプリンを出さなかったからだと思ってたけど…そうかあの時から不機嫌だった訳か。
しかしそうなると、ふんぞり反って問い質すのはお門違いだったのではないだろうか。
というか、むしろ自分なら間違いなくキレる。


「…えーっと…ご、ごめん」

「…別にもう怒ってねぇ……まぁ、寝ぼけてるのは解ってたしな」

「うっ…」

「じゃなきゃ自分からキスなんてしねぇだろ」

「うぅっ…」


キ、キスとか言うなよっ!
…って言いたいけど、言える立場じゃないしっ!
金剛の気が済むまで言わせてあげよう…と自分で言うのも何だけど珍しく殊勝に耐えていたら。


「あまりグチグチ言うのも男じゃねぇ……悪いとは思ってるんだな?」


なんて、今にも許してくれそうな事を言うからコクコクと頷く。
思えばその考えが間違っていたのだけど。


「よし、解った」

「……ぇ、ちょっと…?!」


何を納得したのか、一人そう呟いていきなり距離を縮めてきたかと思えば、ガシィッ!と身体を抱かれてズルズル引き摺られていく。
連れていかれたのは貯水タンクの裏側で、曇り空で日陰も多い其所は涼しく、そして人気も無かった。
嫌な予感、と頭に浮かんだそれは床に押し倒された所で確信に変わる。


「こ、金剛?あ、あの、ま、まさか、その…」

「朝のツケ分、今済ませればスジも通るぜ」

「別に今じゃなくてもっ」

「今日の夜はバイトじゃないのか」

「お、怒ってないって言ったクセに!」

「悪いと思ってるんだろ」

「そ、そういう問題じゃないと思うんだけど。それにもう昼休み終わっちゃうし、授業出ない方がスジが通らないんじゃないかなっ」

「…………」


何が何でもこんな真っ昼間から屋上でなんてヤられて堪るかっ!
こういう時にはよく回る舌が頼もしい。論破されても次々に理由を差し出すと、遂に金剛の口が止まった。
やった言い負かした!と安堵の息をつこうとした瞬間、


「知ったことか」


出たよ出た出た伝家の宝刀。
知ったことかって凄い無責任発言じゃないの。
…なんて冷静に突っ込んでる場合じゃなかったっ!


「ちょ、ちょっとタンマ!」

「知ったことか」


本日二度目の無責任発言。
何でもそう言えば済むと思ってるだろっ?!
そうこうしている間に確実に短ランの釦を外されているとかどんな早業だっ!!


「……放課後までには終わらせる」

「それ何の慰めにもなってないからってちょっとマジでっ、わ、わ、わーっ!!」


卑怯番長の絶叫は、奇しくもチャイムの音に紛れて誰にも聞こえなかったそうな。





















言った事には責任を持て

(卑怯番長さん達戻ってきませんわね)
(…我は気にせぬ方が良いと思う)
(いや、探しに行くべきではないか?何かあったのやもしれない)
(……我は行かぬ方が良いと思う)
















相互御礼に1063様に捧げます!
『金剛を怒らせて痛い目にあってる秋山』
具体的に痛い目にあわせると裏行きなので濁しましたすいませんorz
へ、返品は可能です…!(逃)



あきゅろす。
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