浅はかな恋愛戦争
携帯電話を持たず。
メールなんて知りもしない。
そんな男と、連絡をとるには会いに行くしかなくて。
「毎日何しに来てるんだ?」
でも会いに行ったら行ったで君がそんな事を言うから。
僕ばかり君に会いたいのだと認識させられたから。
彼に会わなくなって何日経つだろう…多分、三日?
カレンダーを見たらまだ二日しか経っていなかった。別に会わなくても問題なんて無いけど。
大体、会いに行くのは大抵が僕からだし、あんな事を言うって事は彼はきっと会いたくないんだ。
…自分の考えで傷付くって、僕は馬鹿か。
どうせ彼は今頃愛しの月美とイチャイチャ仲良くプリンを食べてるんだろう。
…幼女とプリンに嫉妬って、情けないぞ僕。
僕ってこんなキャラだっけ?
恋をすると、人は変わるって言うけど…いやいやいや、恋とか何言ってるんだか。
男同士だしむしろあっち巨人だしでも子供には優しいし誰にでも公平且つ平等で…ってだから違う違う。
恋なんてしてないし、してる余裕なんて無いんだから。
「おい」
それなのにもう。
会わないと決めて。
平気だと言い聞かせて。
恋じゃない。
恋なんてしないって。
そう、思ったのに。
月美ちゃんと一緒にプリンを食べるでもなく陽奈子ちゃんと放課後デート(傍からはそう見える)するでもなく僕に会いに来た君の姿を見ただけで駆け寄っていきたくなるのはどんな刷り込みか。
僕はパブロフの犬か?
笑顔なんて見せないぞ。
君が、悪いんだから。
「…何の用?」
「…俺が何かしたなら謝る。だから理由を言え」
「………へぇ。悪い事をしたとは思ってるんだ」
ちょっと驚きだ。こういう事には鈍感だと思ってた。
でも『理由を言え』って事は具体的には思い当たらないのだろうなぁ…
「…陽奈子に訊いたら、俺が酷い事をしたと言うから」
「………………ふーん?」
あぁうんそうだよねぇ。
君に察しろって言うのも無茶だよねぇ。
だからって普通こういう時に陽奈子ちゃんの名前出す?
あぁそれすら解らないか。
「…むしろよく訊いたよね。君って全然気にしないだろ」
「いきなり消息を絶たれたらいくら何でも気になる」
消息って…本来なら僕の生活圏内だと君に会う確率は相当低いんだけどね。
そもそも会わなくなったのは君の発言が原因で…いやもう何か一気に脱力…というか、凄く疲れた気がする。
こんな鈍感男には、多分何を言っても無駄だ。
「…もういいや。怒る気力が失せた」
「そいつはスジが通らねぇ」
「僕の知った事じゃないし。もう帰ってくれる?」
今は会いたくない…いや会いたかったけど。
これ以上話してたら血管切れそうだし。
「これからはできるだけ会わないようにするから、鬱陶しいのが居なくなって清々するだろ」
僕は恋なんてしてないし。
これからだって、する予定は無いんだから。
「……、何」
痛い。
引き留めるなら力加減して掴んで欲しい。
君馬鹿みたいに力あるし。
「…お前の顔を見ないと落ち着かない」
今更そんな顔してそんな事を言ったって遅いよ馬鹿。
期待させないでよ。
期待なんてしないってずっと昔に決めたのに、君はいつも無茶苦茶な事をして僕を惹き付けて。
それなのに、君の中の重要な所に僕は居ないんだって事を何度も確認させられて。
惹きつけて、突き放して。
「……悪かった」
だからもういいってば。
もう君に期待なんかしない。
掴まれた手首の骨が、悲鳴をあげる寸前に解放された。
離せと思っていた思考は割と勝手で、寂しいだなんて事を考え付く。
「…楽じゃねぇだろ」
「…は?」
何が、と声をあげればどこか困り顔の彼。
言いづらそうにしながらも、結局は待ち続ける僕に根負けして口を開いた。
「毎日こっちまで来るのは、交通費とか時間とか…とにかくだな、お前ばかり負担する事はないだろう」
「……ごめん。もう少し解りやすく言ってくれるかな」
解りづらいけれど、何となく言いたい事は伝わっている。
それでもやはり明確な言葉にして貰いたい。
だって僕は今の今までずっと傷付いてたし不安だった。
少し位なら我儘を言ったって許されるんじゃないかな。
「…だからだな」
「うん」
「……お前ばかりが大変だと思ってだな」
「うん」
「…毎日来なくても、俺から会いに行く」
「………………うん」
そんなの、同性に言う事じゃないし、そもそも君の言葉が足りない所為で、こんな事になった訳で。
あぁもう、本当に君って奴は馬鹿なんだから。
「…………プリン」
「プリン?」
「…ちょっと、セールで買いすぎたから、食べていけば」
許した訳じゃない。
ただこれ以上彼を邪険にするのが可哀想になっただけ。
プリンを食べたらすぐにまた追い出してやる。
それで明日になったら、僕が君に会いに行って謝るんだ。
浅はかな恋愛戦争
(…美味しい?)
(美味い)
(…ふーん(←実は手作り))
要は痴話喧嘩(笑)
卑怯が乙女過ぎる…orz
無料HPエムペ!