奥様は番長










ある所に、金剛晄という男が居りました。

ある所に、秋山優という男が居りました。





二人はごく普通に出会い
(23区計画になりゆきで参加したらアプローチされたな)
(…アプローチ?)

ごく普通に恋に落ち
(銃で撃たれた瞬間心拍数があがったんだ)
(恋?は??え、何の話)

ごく普通に付き合い
(暗契五連槍との戦いを支援すると言った)
(あれは戦いに付き合うって意味で…というか、この流れだと次は…)


ごく普通に結婚しました
(やっぱり!ちょっと待ったそのナレーション!!)
(間違っていないだろう)

しかし奥様には秘密があったのです
(大いに間違ってる!)
(…マリッジブルーか)
(それ結婚前になるものだしっていうか真面目に心配そうな目で見ないでくれない?)

なんと、奥様は
(大体、何時何処で君と僕が結婚なんかしたんだ!)
(……挙式はしてないが籍は入れたぞ?)
(はぁ?!)




奥様は、番長だったのです
(だからナレーション!!)
(…マリッジブルーか)
(だからそれは結婚前になるものだし大体結婚なんてしてムーッ!モゴモゴ)
(よし、新居へ行くぜ)




…始まります。
(ム、ムムゴー!!(ちょ、ちょっとー!!))










朝。
学校へ行く前から、秋山優の仕事は始まっている。
沢山の義弟妹達が居る彼には小学校へ向かう少年少女達を見送り、幼稚園まで送り届けるという仕事があった。


「兄ちゃん行ってきまーす」

「うん。車と知らない人には気をつけるんだぞ」


秋山優は、近頃この言葉に疑問を感じていた。
その元凶は、呑気にも幼女を肩車して遊ばせている。


「…あのさぁ」

「こっちの仕度は済ませた」

「…あぁうん、それはどうもありがとう。でも金剛、」

「晄だ」

「………………金ご、」

「もしくは『あなた』」

「……………………」


秋山優は学んでいた。
知っている人間でも気を付けなければならない奴も居るという事を。
何がどういう思考回路に接続してそういう事に至ったかはともかくとして。
この、頭のネジがどこかブッ飛んだ男…金剛晄が『はろばろの家』にやってきたのは昨夜だった。
暗契五連槍との対決を前々日に控え、やけに真剣な顔付きで訪れたと思ったら…

『俺にはお前が必要だ』

突然指輪を差し出され
(この時点で異常に気付けば良いものをあまりに高価そうだったからとりあえずと受け取っておいた)

『…良いんだな!』

突然抱き締められ
(弟も妹もポカンとしてたがすぐにはしゃぎ出した。一体何が嬉しいのだろう。そして良いとは何に対してなのか)

『よし、一緒に住むぞ』

突然移住を言い渡された
(ただでさえカツカツなのに居候とか本気で止めてくれ)


何だかんだと家賃みたいなものは入れてくれるらしいので住む事に問題はないのだけれど論点はそこでなく。
一日が経った今にしてやっと合点がいった自分をどうにかしてやりたい。

あれは、金剛晄という呆れる程真っ直ぐな男のプロポーズだったのだ。
そしてそうと気付かず自分は指輪を受け取ってしまった。
実は昨夜の内に売り飛ばしたと知れたらどうなる事やら。
考えるだけでも嫌だ。
大体、男同士でどうやったらあれがプロポーズだと思えるだろう。
…今からでもお断りするべきだろうか?しかし何て?


(…困ったなぁ)


結婚云々はともかくとして、別段彼を嫌悪している訳ではない。むしろ、助けて貰った恩がある訳だからある程度の好感は抱いている。
しかしそれは言うなれば仲間や友人に対してのものであり少なくとも恋愛的な要素など皆無な訳で。
けれども、それをどう上手く言えた所で愚直な男が簡単に納得するとは思えない。


「お前はもう、金剛優なんだから俺を金剛と呼ぶのはおかしいだろう」

「……あぁうん、ごめん」


って謝っちゃったよ。
いやいや冷静に考えろ僕。
家の中ならばまだ良いとして(いや良くないけど何故だか弟妹達は金剛を歓迎しているようなのだ)外で、男が男を『あなた』だなんて呼んだら世間では明らかに異常だ。
名前呼びなら、ただ仲が良いだけの友人と取れなくもない(少なくとも、夫婦とは結び付かないだろう)


「…えぇっと…………晄?」

「何だ。優」


あ、何か駄目だ。
いや気持ち悪いとかじゃなく何だか凄く気恥ずかしい。
って何で照れるんだ僕は。
しっかりしろ秋山優。
お前は異性が好きな筈だ。
うん、僕は女の子が良い。


「…や、やっぱりさぁ。結婚したてだし、呼び慣れるまで金剛で良いかな?」

「…まぁ、別に構わねぇが」


あぁ良かった。
いやまぁ言い訳の内容がもう後戻りできない感じだけれどそれは仕方がないとして。
とりあえず幼稚園まで送ってそれから学校に行こう。
あぁ、何で同じクラスに転入してしまったのか。
今から間に合うならば、違うクラスに入ろうか…と、遠い目で検討する秋山優だった。




















step 1
名前を呼ぼう

(じゃあ行こっか。金剛)
(……家に居る時は頑張って名前にしないか)
(…あー……じゃあ、その…行こっか。晄)


















始めてしまいました…金剛がどんどん壊れていきそう(笑)




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