奥様は番長










ある所に、金剛晄という男が居りました。

ある所に、秋山優という男が居りました。





二人はごく普通に出会い
(大体あの出会いが『普通』に分類されるのがおかしいと思う)
(そうだな)

ごく普通に恋に落ち
(……)
(…何だその顔は)

ごく普通に付き合い
(…いや、君と意見が合う事って殆ど、というか全く無いから驚いた)
(普通なんてのに分類されたら堪んねぇ)


ごく普通に結婚しました
(俺達の出会いは運命だ!)
(うんごめん読めてたよそのオチ)

しかし奥様には秘密があったのです
(……ドライだな)
(一々君に付き合ってツッコんでたら体力がもたない事を悟ったんだよ)

なんと、奥様は
(突っ込むのは俺の役目だと思うんだが…)
(そういう下ネタ止めてくれる?!大体君に突っ込ませた事無いからっ!)




奥様は、番長だったのです
(悟ったんじゃないのか)
(……うるさい黙れ変態)




…始まります。
(……そんなお前も可愛いと思う)
(もうやだこの人!!)










初戦を制した卑怯番長に続き剛力番長、念仏番長と番長同盟は三戦全てを勝利で終えている。
大将戦とも言える金剛番長と爆熱番長の戦いを前に、四つ目の舞台、亡骸の間では、居合番長の刀が道化番長を斬り裂き、勝負は終わったかに見えた…だが、それは本当の道化番長が操る人形だった。
外面がパキパキッと音をたてて剥がれ落ち、人影が揺らいだかと思えば現れたのは二人の美女…それもかなりナイスバディで露出の多い女性だ。


(あ、嫌な予感)


白雪宮の剥き出しの背中にすら赤面する純情番長…もとい居合番長には少々刺激が強いのではないだろうか…という心配は正しくその通りで。


「あうっ!!」


…やはり刺激が強すぎたようだ。プシィッ!と盛大に吹き出た鼻血には驚くというより納得するしかなかった。


「ふ……不覚!わ…私としたことが。おのれ…道化番長、なんという破廉恥な格好を……!!」


(あんな鼻血まみれじゃあ、説得力皆無でしょ)


純情というよりは、多分にムッツリなだけかもしれない居合番長の姿に溜息をついた。


(こりゃ負けかもなァ)


それこそ他人事のように考えながらも、ナイスバディな二人の美女を眺める。
豊満な胸に、スラリと伸びた白い脚…見れば見る程、世の女性が憧れるであろうモデル体型。
普通の男ならば一度は相手を願うであろうプロポーションである。
そう、普通の男ならば。


「…金剛さ」

「何だ」

「あぁいうの見て、良いな、とか思わないの?」


多分に真性ではないのだろうと思い、浮かんだ疑問をそのまま投げ掛けると、金剛は気難しげに唸った。
何やら思い悩んでいるらしい…いやいや、悩む所じゃないと思うんだけど。
むしろ普通の男なら即決じゃないのか。


「……」

「……」

「…お前の方が良い」

「何がっ?!っていうか何を交互に見比べたの!?」


ジィッとこちらを見てから、道化番長ダブル美人を一瞥し再びこちらに目を向けたかと思えば意味不明なこの台詞。
真性か。真性なのか。
色んな意味で訊くんじゃなかった。
今からでも聞かなかった事にできるだろうか。
いや、今こそ好機だ。
ここらで金剛には異性の良さを解らせなければ。
このままなし崩しに結婚ゴッコを続けられるのは精神衛生上で厳しいものがあった。


「…あのね、調度良い機会だから言うけど、僕は基本的に女の子が好きなんだ」

「それでも俺を選んでくれたんだな」

「いや、だから…」

「嬉しいぜ」


うわぁ、言いづらい…物凄く目がキラキラしてるし。
ううん、どう言ったら異性の良さが伝わるだろうか。


「…僕、胸無いよ?」

「大丈夫だ、胸筋が発達してる」

「そういう意味じゃないし。むしろ僕は胸筋揉む気満々な君が恐ろしいなァっ!!


馬鹿じゃないのかこの男。
硬い胸を揉んで何が楽しいんだか理解に苦しむ。いや理解したくない。
僕は女の子じゃないから普通の男なら女の子と付き合えと言いたいのに。
何か、自分と付き合うよりも女の子の方が良いと思えるような事を自覚させられるなら良いのだが。


「あ、ホラ、子供とか産めないしさっ!」


子ども好きな金剛なら子どもは絶対欲しい筈…そう思って言ってはみたものの、よくよく考えてみれば。


「子供なら幸太達が居るぜ」

「…あァ、うん、そうだね」


よくよく考えなくとも、幼い弟妹達は金剛の中で既に我が子と化しているらしい。
その前向きな思考を今すぐ矯正してやりたい。
幸太達は弟妹であって息子娘ではないというのに。
その前向きな思考が凄く凄く鬱陶しい。


「……あのさァ」

「何だ」

「…金剛の好み聞いても良いかな」


男が好きという訳でもないだろう。いや、真性ではないと思いたい。
さっきの問答は自分の中では既に無かった事とした。


「俺が好きなのは、おま」

「抽象的な特徴ね」


お前とか言うつもりなんだろうけど言わせて堪るか。
その気はないが、何故か恥ずかしいから口説かれるような余地は作りたくない。


「……そうだな。敢えて言うなら…」

「うん」

「少し外ハネ気味な黒髪」

「うん?」

「黒曜石の様に輝く黒い瞳」

「…」

「それから白い項に割と長い睫毛に俺の腕が余る肩」

「……あのさァ、」

「普段はツンツンした態度を取りながら何だかんだと最終的には赤くなりながらも甘えてくる男のツボを突いた卑怯さと愛らしさ」

「ごめん、もう良いから」

「そう、正に俺の好みを体現したかのようなお前が大好きだ!」

「だから良いって言ってるだろ!耳にプリン詰まってるんじゃないの?!

「…それもある意味幸せかもしれねぇな」

幸せじゃないよ、耳の中がデロッてなるよ、君どんだけプリン好きなんだよ!!

「っ……お前の方を選ぶ」

「そんな苦渋に満ちた顔で決断しなくて良いからっ!」


もうやだ!と秋山が叫びたい衝動に駆られていた時、居合番長は危機に遭遇していましたそうです…マル















step 3
理解を深めよう

(…ねぇ、あんた本当にあの男に命かけてる訳?)
(………不憫、だわ…)
(だ、黙れっ!)




















壊れまくりな金剛…(笑)




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