昼寝日和は膝の上



天気は快晴。

暖かい日差しが心地よくて、つい眠気が顔を出す昼過ぎ。


そんな中で起きている事は、どうにも難しく。
















「お待たせ、金ご…っ」


皿洗いを終えエプロンの裾で水気をとりながら秋山がキッチンから顔を出すと、部屋の隅で胡座をかいて眠っている金剛の姿があり、秋山は慌てて口を閉ざした。
恐る恐る、足音に注意を払いながら金剛の元へ歩み寄る。
腕を組み、俯きがちに目を閉じている姿は正に居眠り状態だった。


(待たせ過ぎたからなァ…)


洗い物を終えたら、夕飯用の買い出しついでに二人で散歩する予定だったのだが、予定よりも時間がかかってしまったのである。
金剛とは、確かに恋人同士として付き合ってはいるものの幼い弟妹達を放って遠出など出来ないし、長く家を空けるのも不安だから、買い出しついでにしか二人の時間は取れないのだけど。
それでも良いと、金剛はこうして家を訪れてくれる。
内心頭が下がるばかりだが。


(…疲れてるなら、無理しないで良いのに)


金剛の寝顔なんて、滅多な事では目にしない。
どういう経緯か突如23区計画に参加し、日々他の番長から攻撃を受けて、疲れない訳もないだろうけれど。
でも疲れているのなら、家に訪ねずに休んで欲しいと思うのは、やはり恋人として心配だからか。
それにしても、なんともまぁ珍しい光景だ。


(寝たフリ、とか……じゃないか)


寝息をたててスヤスヤと眠る顔の前にヒラヒラと手を振ってみる。
ついでに頬を軽くつっついてみたが、子供がむずがるように眉が僅かひそめられた位で目が覚める気配はなかった。
フリだと仮定してみても、金剛が得をする事など無いから本当に眠っているのだろう。
相当深く眠り込んでいるのだろうか。
だとしたら、起こすのも気が引ける。
一人で買い物に行くのは良いが、起きた時に自分が居なかった場合、帰ってきた際の事を考えると放って行くのも躊躇われた。


(んー……もうちょっと時間あるし、良いかな)


壁にかけられた時計を一瞥してタイムセールまでの時間を確認する。
まだ一時間程度なら、寝かせておいても大丈夫だ。


(そうと決まれば…)


一旦その場を離れて、タオルケットを手にとる。
いくら爆発にもトラックにも鉄球にも耐えうる頑丈な身体だって(普通ならありえない頑丈さであるが)風邪を引かないとは限らないだろう。
金剛は壁に背を預けている状態なので、膝上にタオルケットをそっとかける。
身動ぐ事もなく眠り続ける金剛を見ていると弟妹達を寝かし付ける時に自分まで眠くなってくる感覚を思い出した。


(……ちょっとだけなら)


そろり、と金剛の真横に歩み寄る。


キシッ、


僅かに床が音をたてたが、それ以上はさせまいと細心の注意を払いながらゆっくりと腰を下ろした。


(膝だと流石に起きちゃうだろうし…固そうだし…)


あまり体重をかけなければ大丈夫だろうと根拠のないタカをくくってその肩に頭を預ける。
起きるかな?と内心緊張するが金剛はやはり起きなくて。


(……ちょっとだけ…30分だけ……)


何度も自分に言い聞かせ、秋山は徐々に重くなっていく瞼をそのままに伏せた。












秋山がその意識を手放してから数分もしない内に、金剛の目が開く。
自分の膝にかけられたタオルケットを一瞥し、肩に寄りかかる秋山へ苦笑を向けた。すぐ起きるつもりでいるのか、秋山自身は何もかけていないのだ。


「…休ませてやりたかったんだがな」


訪ねてきてからずっと見ていたが、弟妹達の食事を作り、掃除をし、洗濯をし、そして今度は皿洗い…と、秋山は休む事なく動き続けていた。
いくら口で「休め」と言った所で、秋山の性格上、金剛を放って休む事はしないだろう…金剛自身そう思い、こうして一芝居打った訳だが。
自分の肩にかかる負荷はそれ程無く、あまり体重をかけないようにしたのだろう。ピッタリとくっつけば随分と楽だろうに、僅かに距離を空けて寄り掛かっているから段々下にずり落ちてしまっている。


「やれやれ…」


金剛は自分の膝にかけられたタオルケットを一旦退け、秋山の身体を極力揺らさないよう、しかし軽々とそこへ抱き上げ退けたタオルケットをかけた。


「ん、……むー…」


突然の浮遊感に、秋山が言葉としては成り立たない声を漏らす。
モゾモゾと金剛の腕の中で動いたかと思えば、居心地の良い場所を見つけたのか、ほぅ…と一息ついて再び寝息を零した。
もしも秋山が起きていたならば、絶対にしないであろう無防備で子供染みた所作に、金剛の頬が緩む。


「…たまに休む位、誰も文句言わねぇからゆっくりしろ」


聞こえてはいないだろうが、金剛は秋山の髪をそっと撫でながら囁きかける。
外では楽しそうに遊ぶ子供達の笑い声が響き、窓からは太陽の光が射し込み穏やかに室内を暖め。
眠くなるのは仕方がないと、起きたら怒るか謝るかするだろう照れ屋で責任感の強すぎる男の為に、前以て言い訳を作っておいてやる。


「…タイムセールまでには、起こすからな」


流石にそこまで起こさないで放っておくと本気で怒るだろうから、そこは妥協するが。
自分の前で位は、気を抜いて欲しいと思うのは妥協できないので。


「こ…ん、…ごー………」

「……………普段からこれ位可愛げがあれば良いんだが」


寝言で自分を呼ぶ秋山に、周囲は無人と解っていながら、金剛は照れ隠しに憎まれ口を零した。















昼寝日和は膝の上

(…さて、どうやって起こすか(この状況だと起きた瞬間殴られるかもしれねぇ))
(…んー…こ、ん…ごー、)
(…(また呼んだ))
(……大人しく…殴らせ、なって……)
(っ…!(予知夢…か?))










1600番を踏まれたマユミカ様に捧げます

リクエスト内容
『金剛×卑怯でほのぼの。卑怯が金剛を座椅子みたいにして昼寝する』




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