今日も雷鳴高校は平和です




番長達とて高校生である。

つまりは常日頃気を張っている事などせず、娯楽に興じる事もある訳で。













「んー…じゃあ、5」

「…ダ…ダウ…ト?」

「残念、ちゃんと5でした。じゃあ僕アガリで」

「ぐぬぬっ…またお主か!」

「卑怯番長さん、お強いですわねぇ」


四つ繋げた机の上には、背柄が一緒のカードが何枚か積まれ小さな山を作られている。
それを囲むのは、金剛を起点とし時計回りに卑怯番長、剛力番長、念仏番長、居合番長であった。
ちなみに彼らの手にあるのは机上にあるものと同じ、トランプカードである。
誰が持ち込んだのか、そして誰が発案したのか、こうして和気藹々と彼らがやっている現在のゲームは、騙し騙されのダウトだった。


「先程も卑怯番長が一抜けではなかったか」


口惜しげに言う居合番長の手には数えきれない程カードが握られている。彼の生真面目な性格にはダウトは不向きでしかないのだろう。
しかしそんな彼の言葉通り、ダウトに限らず他のゲームでも卑怯番長の一人勝ちが続いている。
ダウトの前にやったのは、七並べに勝ち抜け形式のスピード勝負だったが、どれも卑怯番長が一番を取っていた。
誰か一人が最初に抜けたら、その時点で次のゲームを始めると決めたものの、これでは面白味に欠ける。


「僕がズルしてるとでも?」


失礼だね、と言いながらその表情は至極楽しそうに微笑んでいる。
少なくとも、イカサマをしているような素振りは見当たらない。
手札が良いのか、それとも知略がカギなのか。
ならばと、念仏番長が次に提案したのはババ抜きだった。
これならば運が全て。
イカサマをすればすぐに目につくだろうと彼なりに考えた結果である。


「ババ抜きか…」


予想通りと言うべきか、それとも演技なのか、少々やりにくそうな顔をする卑怯番長に念仏番長は勝利を確信した。










………のだが。


「はい、ドーゾ」


卑怯番長が一番に抜ける事は阻止できたのだ。
できたのだが、そこで次に進めば良いものを、一度は勝たねばと何の意気かは知らないが念仏番長と居合番長が結託してゲームを続行しようと提案し、罰ゲームまで作ってしまったのがまずかった。
最初の時点でカードの揃いがよかった剛力番長が一抜けして次に金剛がさりげなく二番手で抜ける。
残ったのは当然卑怯番長と、念仏番長に居合番長だ。
卑怯番長の手にはカードが三枚。念仏番長と居合番長は一枚ずつ。
明らかにババを持っているのは卑怯番長なのだが、それが逆に仇となった。
にっこりと微笑み、三枚のカードを突き出され、居合番長が固まる。


「…………」

「どうなさいましたの?居合番長さん」

「い、いや……その…」

「早く取りなよ」

「わ、解っている。急くな」


普段は迷いなく刀へかけられる居合番長の手は、右へ左へと揺れ動く。
確率は三分の一。
どちらかと言えばババを引く可能性の方が低い。
だと言うのに、居合番長の心は不安定に揺らいでいた。


「……」

「あ」

「な、何だ」

「…いや?ごめん、良いよ。引いて」

「な、何なのだ、その思わせ振りな台詞は!」


引こうとした瞬間、短く声をあげた卑怯番長に、ビクリと居合番長の肩が跳ねる。


(今の「あ」は引かれたらまずいという事なのか?いや、この男はそのように実直ではない…ならば逆にババの可能性が高いが…いや、だがそれは考えすぎではないのか?)


悶々と悩む居合番長の心の声が今にも聞こえてきそうである。
それを気の毒そうに見ている念仏番長だが、もしも居合番長が無事に三抜けしたら次に地獄を味わうのは自分自身である事を忘れてはならない。


「……っく、これだ!」

「んー、やっぱり真っ直ぐだなァ、君って」


居合番長が引いたのは、卑怯番長が先程声をあげたカードである。
面白味のない男だと、言葉の通りつまらなさそうな顔をする卑怯番長とは対照的に、居合番長の表情は明るい。
自分の手にあったカードと、卑怯番長から引いたカードを合わせて山の上に乗せると、何か大きな山場を乗り越えたような晴々とした顔で「アガリだ」と言った。
さてはて、次に卑怯番長からカードを引くのは念仏番長である。通常ならば、ここは卑怯番長が念仏番長のカードを引くべきなのだが、そこは特別ルールが原因だった。
こんな事態を想定しなかった…いや、想定していたとしても逆の立場だと考えていた念仏番長自らがゲームを面白くする為という名目を掲げて加えられたものである。
彼は今、ひたすらに自業自得という四文字の言葉を痛感している事だろう。


「さて、念仏番長?」


にこり、と。
微笑む卑怯番長の背後には黒く尖った尻尾が見えそうで、念仏番長は読経に現実逃避を図りたいと心底願った。
ちなみに、前述した罰ゲームとは、ビリの人間が残り四人から一つずつ命令を受けるというものである。
金剛は言うまでもなく、剛力番長、居合番長ならそこまで無茶な事は言わないだろう。
言わないだろうが、問題は目の前で微笑む悪魔だ。
どんな無理難題を押し付けてくるか解ったものではない。
命が掛かっていると思っても大袈裟ではない筈だ。


「……っく…!」

「右かなー?左かなー?」

「えぇい、黙っておれ!」


話を聞いてはならない。
引き延ばせば延ばす程相手の思う壺だ。
これはもう直感頼み…!


(っ…南無三!)


目を瞑って引き抜く。
念仏番長の鬼気迫る雰囲気に気付けば教室中の視線が集まっていた。
そろりと、片目を開いて見たカードは。


「ざーんねん」


ベロを出してニタリと笑う、ジョーカーだった。


(バ…ババっ…!)


今にも泣きそうな顔をする念仏番長だが、しっかりとシャッフルしているあたりまだやる気はあるらしい。
多分にそれは罰ゲームに恐怖しているだけなのだろうが。


「こうなったらなるようになれっ!さぁ引くが良いっ!」

「じゃ、コレ」


バッと突き出したカードは、何の躊躇いもなく、アッサリと引き抜かれた。
放心する念仏番長に、卑怯番長がニタリと笑う。


「君って引いて欲しいカードをジッと見る癖があるよね」


それはある種の死刑宣告。
卑怯番長の手から、カードが放られるのと。
念仏番長が悲鳴をあげて逃げ出すのはほぼ同時だった。


「……おい、卑怯番長」

「何かな?金剛番長」

「…これ、合ってねぇぞ」


卑怯番長の放ったカードは、スペードの7と、ジョーカーである。
金剛の指摘に顔色を変える事もなく、卑怯番長はやはりにっこりと笑ってみせた。




「僕はアガリだなんて一言も言ってないけど?」




…覚悟を決め帰ってきた念仏番長が事実を知るのは、それから半日後の事である。










今日も雷鳴高校は平和です

(しかし、面白い位引っ掛かるなァ)
(趣味が悪い事を…)
(君も、さっきまでハラハラしてたでしょ)
(あ、あれはっ、貴様が卑怯な手を使うからだ!)
(うん、ありがとう。それが僕には誉め言葉だ)










1500番を踏まれた名無し様に捧げます

リクエスト内容
『居合や念仏と卑怯の絡み』




あきゅろす。
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