それは本当に等価なのか
それなりのものには
それなりの対価が必要だが
『それ』が本当に対価に成り得るかは解らない
休日に訪ねたはろばろの家は常に比べ異様な静けさに包まれていた。
というのもまだ幼い少年少女達は昼寝に勤しんでいる真っ最中だというのだから成程と頷く他ない。
はろばろの家の管理を預かっている秋山は、午前中に洗濯物を干し終えたらしく、昼過ぎに訪れた時には乾いた洋服を畳んでいる所だった。
「何の持て成しもしないけどそれでも良いならあがれば」
顔を見るなりの第一声は多分に秋山なりの照れ隠しなのだろうと推測する。
自分から見た秋山優という人間は照れ屋で恥ずかしがり、何だかんだ言いながらも面倒見が良く素直じゃないが実は意外と甘えたな部分もあり…といった具合だろうか。
ちなみに、それを念仏番長や居合番長に話したら激しく否定されたのは記憶に新しい。
視力の心配をされたが、両目共に何の障りも無いし、自分にとって秋山はとにかくそういう人間なのだ。
「……あのさァ」
「何だ?」
特にやる事も無いので、洗濯物を畳む秋山を何とはなしに眺めているとその手が不意に止まった。
「…ジッと見られてると落ち着かないんだけど」
「気にするな」
「…洗濯物畳んでる所なんて見てたって楽しくないんじゃないの」
「そうでもない」
「……君ってホントに変な男だね」
困惑したように眉をひそめてから再び手を動かし出した秋山の言葉を反芻してみる。
楽しくない、という事は特に無いのだ。
例えば、普段は卑怯番長の姿をしていて隠されている素顔だとか思いの外白い掌だとかを見ているのは、どうしてか楽しいと思う。
他人の顔をジロジロ見るのは不躾だと解ってはいるが、こうして眺めていると、居合番長程ではないにしても人並み以上には長い睫毛をしているんだな…なんて発見があったりもする。
「っ…あのさァ」
また、手が止まった。
「何だ?」
「…こっち見ないで」
「…何か問題でもあるのか」
「問題っていうか…」
言いづらそうに口ごもる秋山の視線が、チラリと逸れる。その先を見れば、皺一つなくきちんと畳まれた洗濯物の中にチラホラと手抜きにも思えるものがある。
手抜きというよりは、乱雑という方が適切かもしれない。
「っ…だから、…やりづらいんだよ…」
白い頬が僅かに赤へ色づく変化を目にすると、抱き締めたい衝動に駆られたが、ぐっと堪えた。
見詰めすぎたのか、注がれる視線に羞恥を感じたらしい。
照れ屋なのは知っているが、これではあまりに純情過ぎやしないだろうか。
普段はこなれたフリをしては軽い体を装っているクセに、時折こんな風にして幼い面を見せるのは計算ではないだろうが反則に等しい。
「……悪い」
「べ、別に怒ってはいないよ……あ、そうだ。テレビでも観れば?」
謝罪すると、思い付いた案を直ぐ様実行された。リモコンで電源を入れ、好きなの観て良いからと小さなそれを渡される。
が、普段あまりテレビを観ない為、何を観たら良いのかがさっぱりだった。
「……」
「……」
「……」
「………っだから、こっちを見るなってば!」
結局は秋山に行き着いた視線を、黙したまま固定していたら見事に叱られた。
しかしこちらにだって意思というものがあるのだから仕方ないと思う。
「テレビよりもお前を見てる方が楽しい」
「……僕で遊んでるの?」
少し違う。
解っていない様子の秋山に、やれやれと溜息をついてその頬を両の掌で覆った。
「っちょ、金ご、」
「お前に遊んで欲しいんだ」
突如縮まった距離に、秋山の黒い目が大きく揺れる。
光の角度によって煌めくそれは、まるで黒曜石のように価値のあるものに見えた。
だが、欲しいとは思わない。
何故ならその光は、秋山のものだからこそ価値のあるものだからだ。
「あ、遊んでって、子供じゃないんだから」
「俺が子供ならお前はとっくに遊んでるだろう」
「っ、そんなの屁理屈だよ」
「どうだって良い。一体いつまでかかるんだ。待ちくたびれちまったぜ」
「何も持て成さないけどって言っただろ」
「だからってこんな無機物ばかり見てるんじゃねぇ」
頬から手を離して両脇に回し胡座をかいた膝上に抱き上げると仄かに赤かった頬がカッと真っ赤になった。
「ちょっと、金剛っ…」
「構え」
「か…構えって」
秋山が距離をとろうと腕の中でもがく。
更に抱き寄せる事でその抵抗を封じ込め、尚且つ顔を固定して迫れば、赤く染まった頬のまま秋山が困惑しきったように眉を寄せた。
「構えって言われても…君は子供じゃないんだからゲームがしたいとかじゃないだろ」
具体的な要求をしないからか秋山は見当外れな事を言う。
本人もそれを見当外れだと理解しているらしく、何か言えとばかりに見上げられた。
その角度は、ちょっと、いやかなり危ない。
「……」
「…金剛?」
クテリと首を傾げてみせるのも、角度と相俟って危ない。
黙っていたら、訝しげにこちらを見上げていた秋山の目が見開かれた。
「っちょ、あの…こ、金剛?…な、何か、当たってるんだけど…!」
「………………すまねぇ」
「っ〜!最低最悪こんな昼間から信じらんないっ!」
「…あんまり怒鳴ると起きてくるぞ」
「っ、」
脅しではなく本心からの忠告を囁けば、秋山は慌てて口を押さえる。
しかし恨めしそうな目は変わらずこちらを見上げてくるものだから、ついつい悪戯心が芽生えてたのは無理もない話ではないだろうか。
「っ、こ」
「シィ…」
耳の後ろあたりを擽るように撫でてやる。
言うまでもなく、秋山は直ぐ様抗議しようとしたが、逆の耳元で宥めれば凍り付いたように固まった。
後ろから耳に指を這わせる。
ビクリッと面白い位震えた秋山が恨めしそうに見上げてくる。が、その目は潤みかけていて逆効果もいい所だ。
「……あまり煽るな」
「誰も煽ってなんか―――」
ない、と。
そう言いたかったのだろうが生憎こちらの堪えが利かなくなるのが先だった。
自分よりも、確実に一回りは小さいであろう唇を、自分のそれで塞いでやる。
抗議しかけていた事で無防備に開いていた隙間からすかさず舌を割り込ませると、抱き寄せた身体が強張った。
「…っん、ん…んぅ…?!」
僅かにシャツをたくし上げて手を滑り込ませた途端、秋山の抵抗が激しくなる。
「んんっ、んーっ!」
「……」
「ん、ん、んん…んむっ、」
「……」
「っ……」
あまりにも抵抗が続くので、少しばかりムキになって舌を弄んでしまったが、結果的に大人しくなったのだから良しとしよう。
抵抗が無くなったのに乗じて近場のソファーに秋山を背中から寝かせ、そこで一旦キスを中断させた。
「っ…は…っふ、ぁ」
クタリとしながら浅い呼吸を繰り返し、目に浮かんだ涙を何度か擦る。小動物が洗顔しているのを見ている気分になり、一人和んでいたら秋山の膝がドスッ!と勢いよく鳩尾に入った。
「…痛ぇ」
「嘘つけ、このっ、変態!」
可愛いげのない台詞にしおらしいのは一瞬かと当て付けに溜息をつく。
が、秋山はそんな自分に構わず顔の両側についた腕をずらそうと叩き、顔を寄せれば掌を広げては力一杯押し退けようとする…全身で拒絶を示されているのが解ると、内心とてつもなくへこむ。
「…その反応は、酷いんじゃないか?」
「真っ昼間からサカる君の方が余程酷いんじゃない?」
「一回だけで済ませる」
「そっ、ばっ…そういう問題じゃないっ!」
押し退けようとする秋山だが腕力で自分に勝てると思っているのだろうか…普段は頭が回るクセに、こういう時にはどこか抜けている。
そこが可愛いだなんて言ったが最後、また怒鳴られるのがオチなのだろうが。
「何が問題だ?」
「だからっ…、……幸太達が寝てるし」
「起きねぇよ」
「……起きてきたら誤魔化しようがないだろ」
「なら声を出さなきゃ良い」
「そんなの無理だよ」
「…そうか、そんなに悦い」
「黙れ埋まれ帰ってくるな」
「冗談だ」
秋山の脚が腹に、掌が頬に、そうして全力で押し退けようとするものだから、顔は赤く色づいていくばかり。
それが自分を煽っているのだと、何故気付かないのか。
食い尽くされなければ、自覚しないかもしれない。
だが、これ以上のことを無理に押し進めた場合、後々の報復は如何程のものだろう。
(…多分、三日は無視だな)
家にもあげてくれなさそうだ…と考え、仕方なく妥協案を模索する。
「……解った」
「……意外と素直で怖いんだけど」
「但し、」
「あァ、うん、そうだよね。何かあるとは思ってた」
「…最後まで聞かないなら今すぐ襲っても良いんだぜ」
「ごめんなさい僕が悪かったデス。はいドウゾ」
そんなに嫌なのか、口にチャックと言わんばかりに口を真一文字に引き結んだ秋山を呆れ混じりに見下ろす。
黒い瞳が、何を言われるのかと緊張して瞬きを忘れたようにジッとこちらを見上げてきた。少しは学習しろとも思うが、自覚が無いのなら仕方がないと考え直す。
さて、何を要求してやろう。
普段、秋山からは滅多にしないような、且つ秋山自身やる気になればできる事が良い。
「……そうだな。なら、」
それは本当に等価なのか
(…む、無理っ!やだっ!)
(なら今すぐ襲う)
(っ〜!鬼、悪魔、変態!)
(で、どうするんだ)
(……や、やるに決まってるだろっ…!)
さて旦那は何を要求したんでしょうか?(突然クイズ?)
旦那にとっては一発ヤるのと同じ位凄い事っていうka(殴)
皆様のご想像にお任せします
作者的大穴
『秋山からちゅー』
………読めてた読めてたorz
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