そりゃそうだ










剛力番長こと白雪宮拳は時折とんでもない事を質問する。

そうして、振り回されるのは決まって四人の番長な訳で。



























「卑怯番長さん」


近頃彼女が質問するのは主に卑怯番長こと秋山優である。
何故なら、彼には小さな弟妹達が居るからか白雪宮の事も大切に扱うし、博識である為白雪宮は驚かされる事が多いのだ。
頼られる事は嬉しいが、それも内容による…と、秋山は内心今日はどんなとんでもない事を質問されるのかと無意識の内に身構えていた。


「何かな?白雪宮さん」

「卑怯番長さんは、何故金剛番長がお好きなのですか?」


昼休みに入って、白雪宮はおもむろにそう言った。


「へ?」


目を丸くした秋山の横では、金剛番長こと金剛晄が昼食後のデザートと言わんばかりに三個目のプリンを頬張っている。ちなみにそれ等は弁当も含めて、全て秋山の手作りだ(但し材料費は金剛が出費しているのだが)


「私、昨日こちらに忘れ物をしまして」

「…うん?」


昨日、という単語に秋山の肩が揺れたのは気の所為か。
そんな秋山にも構わず白雪宮は言葉を繋げる。


「昨日はあんなに嫌がっていたのに、何故いつも一緒に居るのかと不思議なのです」

「嫌がって…?」

「えぇ。実は昨日の、」

「あ、あのさ!白雪宮さん、極牢さんがちゃんこ鍋持ってきてくれたよ?」


居合番長こと桐雨刀也が首を傾げると、白雪宮が答えようとするが狙いすましたかのように秋山が言葉を被せた。
教室のドア付近でグツグツと煮立つ鍋を持った老人は小さな会釈をし白雪宮の机上に鍋を置くとまた下がっていく。
その合間に秋山へ生温い笑みを向けたのは一体どういう事か。


「ありがとう、じいや」


にこっと笑む姿は正しく天使の微笑みとばかりに愛らしく神々しい。
上手い事逸れた話にふぅっと息をつくと、秋山は食べ掛けの弁当を再び突っつく。
しかし、話はそう簡単に終わらなかった。


「それで、先程のお話なのですが」


ギクリッ
ペロリとちゃんこ鍋を食べ終えた白雪宮の言葉に、秋山の目がそれはもう不自然なまでに泳ぐ。
次は何の話で逸らせるかと、周囲を見た所で、白雪宮の気を向けるものは早々と転がっていない。


「昨日、教室で卑怯番長さんは金剛番長に嫌がらせを受けていましたわよね?」

「金剛番長…それは一体どういう事だ?」


真面目一本の桐雨には聞き捨てならない話だったようで、突っ込まなければ良いのにわざわざ巻き込まれに来る。


「いや、だから、それは…」

「もう嫌だ、駄目だ、止めてと何度も卑怯番長さんが仰ってますのに金剛番長さんは謝りながらも止めませんでしたわね」

「ぶぅっ!」

「と、突然どうしたのだ!?念仏番長」


白雪宮の言葉が不幸にも聞こえてしまった上に意味を解した一部の人間は彼に限らず勢いよく吹き出した。
桐雨は全く理解しておらず、よりによって秋山にどういう事かと訊ねる始末(そしてそれは哀れにも無視される事となる)


「……まさか、見てたの?」


秋山にしてみれば一番気になるのはそこである。
恐る恐ると問えば不服そうに頬を膨らませる白雪宮を見て性懲りもなく可愛いなぁと和んだりしている(直ぐにそんな場合かと正気を取り戻したが)


「じいやが止めますの。あれはイジメではないから大丈夫だと」

「…あァ、そう」


成程、先程の生温い笑みはそういう意味か。
見られずに済んだ安堵と声を聞かれた事実から湧く羞恥に秋山はどう返したものかと珍しく答に詰まってしまった。
しかしながら白雪宮からの追撃は止まない。


「それなのに何故金剛番長を好きで居続けられるのです?あんなに泣かされていらっしゃいましたのに…」


あァ、鳴かされてたのか。と周囲から同情の眼差しが降り注ぐ。
白雪宮の問いは、恋を知らない、恋愛など未知の世界だと言う子供のようなものだ。
しかしながら、そういった欠片程も悪意の無い、純粋無垢な言葉が却って一番答えづらいものだと実感させられる。


「…念仏番長」

「すまん、卑怯番長。我には答を導き出せぬ」

「居合番長…は、いいや」

「なっ…失敬だぞ!」


読経を始め出した役立たずと何も解っていない純情番長。
事態の解決を図ろうにもなかなか良い案は出ない。
残るは同じく話題の当人である金剛だが…あまり期待しないで横を窺うと、五個目のプリンを食べていた手がピタリと止まった。


「剛力番長」


そして果敢にも、白雪宮に声をかける。
勿論、そうなれば白雪宮の関心はそちらへ向く訳で。


「金剛番長、昨日卑怯番長さんに何をなさったのです?」

「それを聞いてどうする」

「苦しんでいる方を放ってはおけませんわ。いくら相手が金剛番長でも」


睨み合う(一人は元から目つきが悪い)二人は、正に魔王と、その魔王から姫を救出しようとする勇者のよう。
ただ、難を言うならば、姫のポジションに居るのが自分というのがお粗末だ、と秋山は引きつり笑った。


「剛力番長」

「はい」


頼むから上手くはぐらかしてくれ…という一同の願いを一身に、金剛が口を開く。


「子供はどうやって出来るか知っているか」

「待てこのプリンマニア」


額に青筋を浮かべた秋山に金剛は不服そうに目を細めた。


「何だ」

「一体何を説明する気だアンタはっ!」

「もう高校生なんだから正しい知識は必要だと思うぜ。誤魔化すよりも本人の為だ」

「そりゃそうだけどっ…せめてもう少しオブラートに包んでくれてもさァ…!」

「……そうか。それなら」


何処からか鞭を取り出してまで怒りに震える秋山に圧されつつ、仕方ないとばかりに金剛が今のは無しだと白雪宮に言って聞かせる。


「おしべとめしべが…」

「理科の授業を始める気?」

「…文句が多いな。コウノトリとでも言えば満足なのか」

「あーそうだね。キャベツ畑でもサンタでも良いよ白雪宮さんが納得すればね」


どこか投げやりがちになってきた秋山が自分用のプリンを荒々しく口に運ぶ。
隣では可哀想に。桐雨から質問の嵐に遭いながらもひたすら読経を続ける念仏番長の姿が視界の隅に映ったが、すぐに焦点をずらして視界から追い出しておいた。


「…解ったか?」

「えぇ、つまりキャベツ畑にサンタさんがいらしてお願いするとコウノトリを使いにして赤ん坊を連れてきてくれると」


…何か色々混ざってるけど、大丈夫かなアレ。


「それで、その話がどうお二人に繋がるのです?」

「「……」」












そりゃそうだ

(どういう事ですの?)
(あー……うん、念仏番長に聞いて(もう嫌))
(念仏番長?)
(仏仏仏仏仏……)
(私にも教えてくれ!!念仏番長)
(仏仏仏仏仏仏仏……!!)












可哀想な念仏番長(オマエ)
この後卑怯は暫く金剛を無視すれば良い



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