僕の欠点と君の要求










真面目な顔で考え込んでいたと思いきや。


「愛が足らねぇ」

「はい?」


いきなり何を言いますか。























突然の爆弾投下に、思わず口が開きっ放しになる。


「…何て顔してんだ」


間抜け面、と呟かれてカチンときた。大体誰の所為でそんな顔をしたと思っているのやら。


「いきなりそんな事言われても意味解んないんだけど」

「間抜け面がか?間抜けってのは間のぬ、」

「ねぇ、それわざと?わざとなら殴るよ」


愛がなんたらって自分で言ったクセに、と言いながら両頬を思い切りつねるつねる。
お前も間抜け面になってしまえ、と引き延ばすと、面白い顔になったのでついつい笑いが零れた。


「……おい、それは酷いぞ」

「ふ、ふふっ…だ、だって、凄い顔っ…!」


涙が浮かぶ位に笑っていたら目尻を金剛の指が撫でる。
それに騒ぎ出す素直な心臓。


(はい、もうちょっと静かにしてね。聞こえちゃうから)


なんて心臓に語りかけている場合じゃなかった。
抵抗しないのを良い事に、金剛の顔が近づいてくる。


「ストップ」


寸での所で押し退ける事に成功してホッと息をついた。
金剛は、何の前触れもなくキスしようとするから困る。
まぁ予告された所で困るのは同じ事だけど。
でもやっぱり突然近づいてくるのは心臓に悪い。触れてくるのもまた然り。


「…愛が足らねぇ」

「だから、何が」


押し退けたままの体勢で、脈絡のない言葉をとても不満気に紡ぐから、思わずこちらも不機嫌な声が出てしまう。
金剛は暫くこちらを見て、また何の前触れもないまま突然距離を縮めてきた。その迫力に圧され思わず後退りした身体は壁に行き着き、金剛を見上げた顔は、それはもう間抜け面と言えるものであった事だろう。


「近づくと逃げる」

「…は?」


猫か犬の話でもしたいのかと思えば、思考を読んだ訳でもないだろうに、お前の事だと返された。


「キスしようとするとさっきみたいに嫌がる」


いや、その、それは嫌がるというか身体が勝手に距離を取ろうとしてしまうだけで。


「抱き締めると殴る」


あー…いやだからそれ君は不満気に言うけどね、君の抱き締め方って優しすぎて恥ずかしいんだよ。


「名前を呼ぶと蹴るし」


それもさ、ホラ、普段呼ばれ慣れてないのもあるし、君の場合はいちいち呼ぶ時耳元だからつい、さぁ。


「首を舐めただけで髪を引っ張る」


ちょっと待て。
それに関しては流石の僕でもフォローできないぞ!
大体、何を言い出すかと思えば愛が足らないのは僕がアンタに対してって意味か!?


「…足らねぇよな」

「…充分足りてると思うけどなァ、アハハ、ハ…」


確かめるようにこっち見ないでよ。
泳ぐ目はそのままそこかしこをさ迷って、口からは否定の言葉を紡いだ。
同意したら何を要求されるか解ったもんじゃない。


「……俺の話聞いてたか?」

「聞いてたけど僕に非は無いと思います」

「…主にどのあたりに」

「全部」


どんな会話だ、と自分が第三者ならば突っ込むような状況に、頭が痛くなる。
いっそ認めてしまおうか。
その方が解決策も提示されるかもしれない。多分にそれは自分の都合に合わないものなのだろうが。


「……お前、実はあまり俺が好きじゃないだろう」


ムカッ。
ちょっと今のは頭にきたよ?
好きじゃなかったら誰が好き好んで男なんかと付き合うと思うのかな。
それって僕の人間性を疑われるし。それに…


「…君は、僕が好きでもない男と付き合うような奴だと、そう思うのかな?」


そういう人間だと思われるのは我慢ならない。
悪いのは僕かもしれないけれど、金剛だってもう少し気長に待ってくれれば良いじゃないか。


「そうは言ってない」

「言ってるようなものだね。大体、痛くもないクセに」

「痛くないが、傷付く」

「……」


どの面下げてそんな事を言うのか。どんな罵倒や嘲笑も耐えうるような容姿をしているクセに。
黙っていたら、頭上から溜息をつく気配。あァ、困らせているんだ。


「そういうつもりで言った訳じゃねぇが…つまらねぇ誤解をさせて悪かった」


良いよね君は。
そうやって自分の非をちゃんと認めて相手に謝れるんだから。
これじゃあ自分だけがつまらない癇癪を起こした子供のように思えてしまう。


「…直るように頑張ってはみるけど…期待はしないでよ」


そうは思っても自分にはこんな言い方しかできない。
そもそもあれは全て条件反射で、直すとか直さないとかの問題じゃないというか…いやでも頑張るとは言った訳だしやるにはやってみないと…


「…やっぱり、こういうのは慣れだよな」

「は?」


考えていたら、やはり間近で声がした。
そうだ、距離は変わっていなかったのだと気付いて上げかけた顔を止める。このまま顔を上げたら、と考えればそうできる筈もなく。
俯いていると、金剛の手が頬に触れた。


「いっ!」

「あァ、悪い」


グキッと音がしたんじゃないかっていう位勢いよく顔を上に向かせられ、大して誠意の感じられない声を聞く。
文句を言おうと口を開きかけたものの、視界一杯に金剛が映る程近い距離に再び閉じられた。
そんなものはお構い無しとばかりに、金剛の顔が更に近づいてくる。


「最初から全部直せとは言わない。ただ、嫌がるな」

「ぇ、あっ……」


何を、と問うのは愚問だと。
そう気付いた時には既に唇が重なっていて。
それこそすっかり身体に染み付いた『条件反射』に従った身体が金剛の厚い胸板を押し退けようとしたけれど、先を読んでいた金剛の方が一枚上手だった。


「…嫌がるな」

「っ……ん、」


一瞬離れた隙にそう囁かれ、再び触れた唇にピクリと震えた指先は、恐る恐ると金剛の肩から上に這い、首へと辿り着く。
流石に腕を回す事まではできず、襟足を指先が掠めれば金剛の舌が上唇を舐めた。


「っふ…?!」

「…もう少し」


(も、もう少しって…?!)


とっくに許容範囲は過ぎているのだが、もう少しとは一体何を指してか。いつもなら回転の早い思考回路も、今は異常な程にノロマだ。
ヌルリッ、何かが口に入ってくる。何が?


(何が、なんてっ…うわっ、わわっ…!!)


考えるまでもない。
ヌルリッ、なんて。
そんな風に、口の中に入ってくるのは。


「、…んんっ!」


(し、舌っ!舌がっ…?!)


いや落ち着け。
落ち着いて考えてみれば別にディープキスなんて初めてな訳じゃあるまいし。


(で、でも……)


「ん、ふっ…んむ、」


(な、何か、ねちっこいっ)


きつく絡めたかと思えば軽く噛んだり。引いたかと思えば押し進んできたり。
焦らし方が半端じゃない上に随分と時間をかけられている気がする。


「こ、んっ…」

「……もう少し」

「ぅっ…っは、ん…」


嘘、と言い切れないまま再び唇を塞がれた。
もう無理だと伝えたくて、暴れようとするけれど思うように身体に力が入らない。
もう少しって、どこまでがその少しなのか。
離れたら覚えてろよ、と不穏な思考を感じ取りでもしたのか、暫くしてやっと唇が離れる。息を乱しているのは自分だけで、それがむかつく。


「っ、は……はーっ……」

「……優」


息を整えていたら不意打ちで名前を囁かれる。
カッと熱くなった頬に、厚い唇が掠めて人の気も知らずに緩んだ。


「…こんな感じで、慣らしていきゃあ良いな?」

「…っるさい」


あァ、顔が熱いったらありゃしない。
何度もこんな事をされていたら心臓が壊れてしまいそうだ…壊れたら責任を取って貰わなければ。
早く慣れられれば良いけど…生憎と慣れる気が全くしないのは何故だろう。


「…と言うか、嫌がるなって要は全部直せって事だよね」


今頃になって漸く落ち着きを取り戻した思考は金剛の言葉の挙げ足をとる。
別に嫌がって殴ったり蹴ったりする訳じゃないが、金剛にしてみたらそれは全て彼を嫌だと思うから、という見解になるだろうから。


「何だ、バレたか」

「…君には負けるよ」


意外といい性格をした金剛に呆れながらも、もう腕の中から逃げる気にはならない。
それはやはり、彼曰くの慣れというものなのだろうか。
もしくは、嫌ではないのだと主張したいが為の無意識か。


(…ま、いっか)


簡単に許してしまうあたり彼に甘過ぎる点は否めないが、致し方がない。




結局の所、触れたいと思うのは彼だけではないという事なのである。












僕の欠点と君の要求

(…でもさ、さっきのは少しねちっこいと思うんだけど)
(ねちっこい…?)
(親父臭いって事)
(おっ…!(ショック))












此処は何処?彼等は誰?
うん支離滅裂な文章に私がショックorz
卑怯はドメスティックに照れ隠ししそうです(真っ赤な顔希望)



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