夏日
「……あのね、金剛、暑い」
「おう」
「………………暑いんだけど」
「おう」
「…………暑いんだけど」
「お、」
「おうじゃなくて離れてくれって言ってるんだよ僕はっ!」
爆発は一瞬で、勢いよく胸板を押せば離れる間際不満顔の男が一人。
不満なのは此方である。
誰が好き好んでこの暑い真っ只中、長い事抱擁されなければならないのか。
大体今は真昼間で、しかも日当たりのいい部屋のマットの上。
押し倒してきたのは相手の方で、少しだけならいいかと出した仏心も五分で泡と消えて行った。
「大体君は暑くない訳?涼しげな顔しちゃってさぁ」
「いや、あついはあついが」
「うん?」
「お前を抱き締めていたら身体があつ、」
「西瓜でも切ろうかそうしようかうんそうしよう」
言わせてやるものかと遮り、腰をあげる。
黒のタンクトップは少しでも涼しくなるようにと着ているものだけれど、肌が触れ合ってしまえばそこからじっとりと汗ばんでしまうから全くの無意味だった。
冷蔵庫をあけると、冷気がひやりと肌を撫でて、ほんの少し気分が良くなる。
弟妹達には悪いが一足先に包丁を入れさせて貰う事にしようと、真ん丸の西瓜を持ち出した。
あぁでも今度はどうせだから西瓜割でもしよう。
うん、いい考えだと思いながら西瓜を切っていると、のっそりと金剛が近寄って来た。
「どれ位食べる?」
「……お構いなく」
「…何だよ拗ねるなよ」
金剛らしからぬ言い回しに、つい笑ってしまう。
解りやすい拗ね方には、笑いを堪える方が損というものだ。
切り残しはラップをかけて冷蔵庫へ。
それから切った分を皿に乗せて、中庭に面した縁側で食べようかと提案する。
いいな、と返した金剛の声質からしてもう拗ねるのを止めたようで、何事にも切り替えが早い部分は結構好きだなぁ、と暑さに頭が沸いたような事を考えた。
何処の老夫婦だか、縁側でのんびり並んで西瓜を齧る。
シャクシャクと小気味いい音がして、あぁこんなに暑いならかき氷を作る機械を出しておけばよかったなぁと思った。
何処へ入れておいただろうか、後で探してみよう。きっと弟妹達も喜ぶだろうから、シロップも買い足しておこうか。
「金剛って、かき氷だと何が好き?」
「プリン味」
「…………ごめん食べた事無いなぁ」
「何かの味と味を混ぜると、なるらしいぜ」
「ふーん」
俺は混ぜた事ないが作って貰った事ならある、と嬉しそうに言うものだから、後で何味と何味なのか調べておこうとこっそり決めて。
「……あ、そーだ。夜なら抱き締めても良いからね」
なんて、やっぱり頭がやられてそうな事を、平静を装って呟いてやった。
プリン味云々は嘘です。でもきっとできる筈←
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