キミに選択権はないから
君には言わないけどそれなりの愛を込めて作るよ。
それで足りないだなんて君は言わないだろうから。
陳腐かもしれないけれどお金で買えないものだし。
ねぇ、それで満足だよね?
年末が近くなるに連れて様々な物販は安値に設定されていく。
それは洋服であったり靴であったり鞄であったり、主に喜ぶのは女性が多いのだけれど。
食品もその例に漏れず、全国の主婦(夫)にとってはむしろ装飾品よりもそういった物も含んだ消耗品が重要視されてくる。
「良いか?集合場所は此処。知らない人には着いていかない事。玩具は一人一個まで。玩具を買うならお菓子は買わない事。迷子になったらピンクの服と帽子を被ったあそこのお姉さんの所に行く事。迷子札はちゃんと首にかけておく事。以上」
懇々と言い聞かせた末散開していく弟妹達を少々心許ない気持ちで見送り、言い聞かせた上でも一人にはできない程幼い子供は託児所に預けようと振り返った所で肩に乗せてすっかり一緒に連れていく気でいる金剛を視界に納める。
「……その状態で行く気?」
「何だ、置いてくのか」
聞こえが悪い事を言わないで貰いたい。
弟妹の表情が泣きそうなものになる。
こうなると託児所に置いて行くのは難しいので、仕方がないかなと溜息を吐いた。
生憎子供向けの玩具フロアに行く気はないのでお菓子だけだぞと念を押せば弟妹の顔に笑みが広がる。
まぁ、元々規格外の体格をした金剛が一緒に居る時点で周囲の視線なんて気にするだけ無駄というものだ。
「絶対離さないでね!はぐれたりしたら三枚に下ろすからね?!」
「あぁ、解ってる」
当然だと言わんばかりにぎゅっと肩に抱え直して、弟妹達と微笑み合っている金剛にこれ以上言う必要もないかとエコバックを肩に抱え直した。
どちらかと言えばむしろ自分で弟妹達を抱えたい。
エコバックなんかよりずっとそっちがいい。
「肉と魚は後。先に野菜から行く…か、ら……ちょっ、言ってる傍から離れるな馬鹿!」
「……すまねぇ」
通常、金剛の体格なら人ごみから避けてくれるものである。
けれども今回はどうにも人ごみの規模が違い過ぎる所為か、人と人がぎゅうぎゅうになっている事によってむしろ気性の優しい金剛が譲ってしまう為に足取りは必然的に遅くなってしまう。
怒っても仕方がないのは解るがこんなに時間をとっていてはいつまで経っても食品館にすら踏み入る事ができない。
むしろ子守だけ任せて一人でさっさか行ってしまう方が良いのかもしれないが、お一人様何点まで、などという表示があった場合にはやはり頭数は欲しい所である(ただいつもは食品館の人の気性が荒過ぎる為弟妹達を連れていく事はしないだけで)
仕方なく、いつもなら人波の隙間を縫うように擦り抜けていく所をゆっくりとした足取りで後ろを気にしながら歩く事にした。
「…はー…やっと着いたぁ…」
「……すまん」
さっきから謝ってばかりだなこの人、と思いながら謝らせているのは自分かと思って言及はしないでおいた。
フォローもしないけれど。
食品館に踏み入るとまず目の前に積み上げられた鏡餅の山が目に入った。
(近所のおばさんが一つくれたからこれはスルーでよし。大体こんなのは一番小さいサイズで良いんだよ、うわ、1680円だって、絶対買わない)
頭の中にカチャカチャチーン、という計測的擬音が響いたのは多分に気のせいではない。
その山を通り抜けると今度は目当ての野菜コーナー。
野菜の鮮度を保つ為に冷風が出ているので随分と空気が冷たい。
金剛の肩の上に居るからか弟妹達は冷えた空気の層から離れているようなので一安心だ。
「………んー…」
キャベツを両手に持ち、二つ見比べる。
芯の部分をじっと見つめてから、右手に持っていた方を籠に放り込んだ。
使わない物を買い過ぎるのは良くないけれどカット野菜だと弟妹達の人数的に足らないし何より鮮度保持剤が使われているからできるだけ食べさせたくないなとも思ってしまう。
金剛にはいつもならカートごと押して貰うのだが今回は弟妹達を落とさない、迷子にさせないというのが彼の重大な任務なので自分でカラカラと押していった。
それから魚、肉、と見て、できればあまり使用されなければいいが全く使わない訳もないだろうレトルト食品を纏め買いした。
成長期の時期にレトルト食品ばかりなんて食べさせたくないが多忙を極めるとどうしたって家事まで手が回らなくなる時がある、そういう時は幼い子供でも準備ができるレトルトがいい。
(あ、シチュー安い……ん?)
レトルトの箱を籠に入れようとした所でこっそりと野菜の下にそっと潜むようにして籠の隅に置かれたプリン…プリン……プリン?
入れた覚えなど全くない。
暫く考えている間に視界の隅で金剛と弟妹がしまったとばかりに顔を見合わせた。
弟妹の一人が小さな指先を自身の口元に当てて「しぃ」というジェスチャーをする。
これが弟妹のした事なら見て見ぬふりをしてあげても良い所だがこれを入れたのはおそらく金剛なのだろう。
「……こーんーごー?」
「ぎくり」
「わぁなんて解りやすい擬音どうもありがとうさっさと戻して来なさい」
「…………」
にっこり笑ってそう言えば、金剛が涙ながらに籠からひょいひょいと取り出していく。
ちょっと待て一体いくつ入れたんだ。とは思うけれど敢えて突っ込むまい。
やぶへびになるのはごめんだ。
「…はぁ。金剛、一緒にお菓子見てきて」
「……あぁ、解った」
いい加減弟妹達にも何か買ってやらなければ。かといって子供だけで行かせるのもあれなので金剛がついていれば安心だろうと送り出す(いや逆に不安な事も多いのだが)
人ごみに消えていこうにも特徴的な髪型は飛び出していて見えなくなる事はない。
なんというか、どこまでも規格外な男だなぁとそれを眺める。
そうして、それを眺める事が当然になっている事にふと気付いた。
金剛とは、いい付き合いをさせて貰っている。
傍から見ればどうしたって恋人同士とは思えないだろうけれど、確かにそういった好意を持ち合ってお互いに関係を持ったからこうして他愛のない日常にも何の違和感もなく溶け込まれると不意に照れくさくなってしまう。
「…………はぁ」
通り過ぎた乳製品コーナーに戻って「お一人様2セットまで150円!破格の安さ!」と赤字で書かれた札の下がっている棚からプリンを手に取った。
別に金剛は玩具を買わない訳だし、だから別にお菓子を買ってあげても…って金剛は子供じゃないけど。
いやいや自分で否定してどうする、金剛だって普段から色々家の事を手伝ってくれている訳だからたまには……
(さりげなく…さりげなく入れて…さりげなくレジに…)
バクバクと心臓の高鳴りを感じつつそっと籠の中にプリンを入れようとした、その瞬間。
「秋山、これで良いか」
「ぎくり」
「…………秋山?」
「な、なんでもないよね!?」
「いや…俺に聞かれてもな…?」
あぁ解りやすい擬音を口にしてしまった。
疑問には思ってる顔してるけどそれ以上は感づいてなさそうだとほっとする。
弟妹達が希望したのだろうお菓子を持って帰ってきた金剛の目から隠すように反射的に動いた手が超高速でプリンを棚に戻した。
代わりに牛乳のパックを籠に入れてからお菓子を受け取ってそのままレジに向かう。
「こ……金剛」
「ん?」
「……か………えっ………帰ったらっ、作ってあげるから。が、我慢してよね」
「…あぁ。ありがとな」
何の事かは言うまでもなく解っているのだろう、金剛は微笑ましいと言わんばかりの笑みを浮かべて頭を撫でてくる。
人前でそういう事はするなと常々言っているのに懲りないというか学習しない男だ。
とは思いながら顔が熱いから、今の自分は耳まで真っ赤なのだろう。
知りあいに見られていたりしないだろうか、見られていたら恥ずかしさで死ねると思った。
キミに選択権はないから
(……)
(…道化番長?どうかしたか)
(…居合番長、さっきあっちに………ううん、何でもない…見間違いだと思うから…気に、しないで)
(?そうか)
((さっきのって金剛番長と……誰だろう))
■リクエスト内容
金剛*卑怯
一緒にスーパーで買い出し
カゴにこっそりプリンを忍ばせる金剛
と、言う訳で。企画第八弾です!
書き切った後にショッピングモールとかのつもりで書いていた自分に気づきました…ス、スーパーじゃないぜこれ(汗)
既製品より自分で作ったものを食べさせなきゃ気が済まない秋山だったりしたら超萌えます。
えぇ、主に私が(ぇ)
最後に居合夜子が出たのは私の趣味ですごめんなさい(平伏し)
お待たせしてしまいすみませんです、リクエストありがとうございました!
title/確かに恋だった
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