相合い傘







六駅目を過ぎる頃になっても、雨水は止むどころかその猛威を奮い続け、益々激しく降っている。
通り抜けていく風景からしてそう風は強くなさそうな所がせめてもの救いだとでも思うべきだろうか。
それにしたって雨は降り続けている。泥水が跳ねて汚れるズボンの裾、否応なく濡れる靴の中。肌にベッタリとくっつくであろう髪の鬱陶しさ、何より干しっ放しにしてきてしまった洗濯物…考えるだけでも嫌になる。


「…はぁ………ん、…?」


内心でのみに留められず、空中に吐き出した溜息は重い。
しかしその後になってすぐ、自身の居る車両がやたら混み始めている事に気付いた。
目視のみで確認すれば、隣の車両から移ってきているらしい。
元々ポール横に立っていた人間は迷惑そうな顔を隠しもしなかったが、ある一点を目にした途端青ざめて目を逸らした。
立てば見えるのだろうか、座っている自分の位置からでは見えない。
まぁ大して興味もないからと改めて席に落ち着くと、今度は泣き出した子供が隣からやってきた。
一体何なんだとそちらをみると、母親が宥めている。


「もう、泣くの止めなさい。怖い人もう居ないから」

「お、おっきな目がギョロって……いっしょにいたお姉ちゃんににらまれたぁ…!」


大元の原因はどうやら人間らしい。
睨まれたとは、ヤクザか不良だろうか。
寒かった筈の車内があまりの人口密度に暑くなってきた。
ヤクザや不良なら、スルーすれば良いかな、と楽観的に考えて、斜め前方に立つ老人に席を譲り隣の車両へ向かう。


(あ、傘持ってたら奪うのも良いかな)


このあたり一帯の組の弱味は既に掌握済みだから、金よりかは傘の方が簡単に渡してくれるだろう。
生け贄の子羊を見んばかりな周囲の目は無視して隣の車両へ踏み入った。
その瞬間、


「何だかこの車両空いてますねぇ」

「きっと皆僕達に気を使ってくれてるんだよ」

「気をですか。皆さん優しいんですねぇ」

「っていうか君と二人きりになる為なら僕が皆追い出すからさ、フフッ」


大きな目玉を中心に立派な大輪を咲かせる花人間と、鋭利な刃物を身に付け物騒な事を爽やかな笑顔で言う男だか女だか解らない人間が視界におもいっっっきり入ってきた。
ヤクザよりタチが悪い。
これは確かにいくらスルースキルが高い人間でも無視するのは難しい。というか、存在感が半端ない上に刃物持ってる方がさりげなく此方を睨み付けているのだから無視させてもくれない。


(……確か、花咲番長と鋏番長、だっけ)


23区計画の参加者の把握は、自身が関わる際にある程度調べをつけたのでここまで特徴的なら余計に思い出さない筈がなかった。
言動からしておそらくは花咲番長へ好意を抱いているのであろう鋏番長は、相変わらず此方へ殺気をとばしてくれている。
そんなにまでして二人きりで居たいのだろうか、とは思いながら現状をどうすべきかも考える。
引き返すか、留まるか、それとも進むか。


(…面白そうだし)


雨の事ばかり考えて気鬱になるよりはずっと健全な暇潰しだろう。
それでも彼らからは一番遠いであろう角の席に座った自分に、鋏番長の殺気が増したのは言うまでもない話だった。








秋山は番長だからビビらない




あきゅろす。
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