相合い傘







六月に入ると、その季節故か電車の中は極端に寒かったり暑かったりする。
体感温度なんてものは人各々なのだから当然といえば当然だが、仄かに肌寒いホームにやってきた電車の中はやけに冷房が利いていて、温度設定した人間を叩いてやりたくなった。
それでも、見回すと半袖でも平気そうな男や肩を竦めさせているOLなどが居るので、どうにか堪える。
カタンカタン、と一定のリズムを刻むタイヤ音が僅かに耳へ届き、微弱な揺れにいつもなら眠気が湧く所だが、生憎と寒いのは変わらないので眠ろうと思えない。
気が紛れるのではと、ポケットに入れていた携帯を開いた。
ディスプレイには弟妹達がどうにか全員映り込んでいる。
その背後、ディスプレイの右上部に角が三本映っているのを見て、頬が緩むのが解った。
流石に巨躯の持ち主たる己の恋人は、この狭い長方形には収まらなかったらしい。


(まァ、一人でも全身入らないだろうけど)


撮った事はないが、多分入らないだろう。
いくらか距離をとればいけるかもしれないが、それでは顔が不鮮明となってしまう。
別に全身撮る必要がある訳でもなしに。
顔写真の一枚位はあったって良いんじゃないかと思うけれども。


(好きな人の写真が欲しいの…なーんてね)


自身の思考があまりにも甘ったるくて、誰も聞いてはいないというのに一人で茶化した。
今時女でも考えないような、そんな考えはクシャクシャにしてゴミ箱に投げ捨ててやろうと思う。
気を取り直してアプリからゲームを引っ張り出した。
目的地まではまだ十二駅あるから、それで時間を潰そう。
ゲームを起動させている間にまた一駅分、電車が移動したらしく、煙を吐き出すような音と共に片側の扉が開いた。
すると不意に、何か細かいものを、例えば米をありったけぶちまけたような音が、それこそ本当に突然に耳へ届く。


(まさか…いや……もしかして…)


嫌な予感に自然と眉間が寄った。
出来る事なら見たくないと思いつつ、怖いもの見たさかそれとも結局は直視する事になる現実へ早めに慣れておこうとでもいうのか、隣に腰かけるサラリーマンにぶつからないよう、恐る恐る肩越しに振り返る。


「あー、やっぱり降って来たね」

「降りるまでに止むかなぁ」


女子大生らしき二人組が、苦笑しながら言葉を交わした。
そう、やっぱり、お天気キャスターの言う通りにすべきだったのだ。
ちょっと出かけるだけだからと傘を置いてきた自身に呆れるしかない。


(しまったなァ…)


内心溜息を吐きながら、さてどうするかと、変わらず降り続ける雨を睨み付けた。










次はあの二人が登場です(誰)




あきゅろす。
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