きっと明日も、










多分他の人間なら何を言ってるんだと一笑に伏したかもしれない。

それでもやっぱり君だから。

君だからこそ、っていうのは絶対あると思う。

差別とかを嫌う君だから口にしては言わないけれど。


それでも君が大切な人だから、っていうのは、しょうがない事なんじゃないかな、なんて。














「ほんっとにありえないと思うよね!?」


声量だけでカップを破壊できるのではないかと思えるような、そんな大音量かつ響きのいい声があがったのは、ウルフファングがアジトとしている建物内部のある一室での事だった。
明らかに憤慨した風の鋏番長は苛立たしげに爪先をカツカツと鳴らしている。
真向かいの席に着いている相手が花咲番長であるというのに、鋏番長がこのような態度でいる事はとても珍しい事である。
もっと言うのであれば、相手が花咲番長だからこの程度で済んでいるともとれるのだが、それ故に先刻から二人の居る部屋には誰も近寄ろうとしなかった。
これがもしも毒露番長あたりだとしたら鋏番長はおそらくかなりの般若面でひたすら沈黙を貫いた事だろう。
まだ口が動いているだけマシ、というものである。
そういった内情を知ってか知らずか、対する花咲番長は鋏番長の怒りもどこ吹く風とばかりに(事実鋏番長の怒りが向けられているのは花咲番長ではないので気にする必要性もないのだが)呑気にお茶を淹れている所であった。
ちなみにこれでもう五杯目である。
一体どれだけの間この状態が続いているのかは多分に考えるだけ無駄というのものだが、別段用事がある訳でもなし、花咲番長はのんびりと鋏番長の話を耳にしていた。


「ボクだって悪いかなーとは思ったけど。でもホントの事言っただけなんだよ?」


事の起こりは、かれこれ数時間前に遡る。
元はといえば、鋏番長がここまで怒っている原因もまた、花咲番長と同じくウルフファングの一員であるキャンディ番長だった。
鋏番長とキャンディ番長の仲は、一概に一言では言い表せないようなものである。
仲が良いと言えば良いかもしれないし、悪いと言えば悪いのかもしれなかった。
それというのも、鋏番長とキャンディ番長との間で交わされる会話は大抵が貶し合いのような節があるのだ。
キャンディ番長は鋏番長を初見でオカマと呼び、それを受けて鋏番長は子豚ちゃんと返したのが元々の始まりだがそこまで遡るとある意味きりがないのでそこは割愛するとして。
互いの実力を認め合ってはいるものの、気は合わないらしい二人のその掛け合いは、ウルフファングではもはや日常的に繰り返されるそれだった。
良く言うのであれば、こういった小さな諍いが二人のコミュニケーションの取り方、という事なのだろう(二人が聞いたら息もピッタリに否定の声をあげそうだが)
そして今回もその例に洩れず、鋏番長がキャンディ番長に会うなり「あれ、太った?」と声をかけたのが始まりだった。
そもそもキャンディ番長はその名の如くキャンディを攻撃手段としているが、常備しているそれをついつい食してしまうのは若い女の子であるのだから仕方がない話なのかもしれない。
とはいえ本人もそれに関しては危機感を抱いてはいるので、他人に図星を刺されて良い気がする訳もなく、その日もギャーギャーとアジト内に二人の貶し合いが響き渡ったのだった。


「大体、言われて怒る位なら太らなきゃいい話だと思わない!?」

「まぁ、人それぞれですからねぇ」

「それにしたって普段からもごもご飴舐めてるの止めれば少しはマシになると思うでしょ?!」

「さぁ、どうでしょうねぇ。キャンディ番長の脂肪細胞がどれ位かにも依りますから」


そもそも、太りにくい人間と太りやすい人間というものがある以上は個人で節制するにしても限度があるのだ。
太りやすい体質というものは、実をいうと成長期に作られている。
過剰に脂質を摂取した場合そのエネルギーは既存の脂肪細胞に蓄積されるのではなく、新たな脂肪細胞の生成に回される為、成長期に太ってしまった人は脂肪細胞の数が増えてしまうのである。
だからまぁ、今の内に改善しておけばいい問題ではあるのだが、そういった小難しい理屈を懇々と話した所で今の鋏番長が大人しく聞きいれるかどうかは解らない。
それでも話を聞いている以上相槌は生真面目に打つのが花咲番長という人であった。
そしてさりげなく後々キャンディ番長に豆乳飴を差し入れたりしているのだから彼の仁徳ぶりというか人間性が窺えるというものである。


「とにかくボクは今回ばかりはあっちが謝らないと許さないから!」

「それはそれは」

「……?何だか、楽しそうだね」

「そうですか?」


フォッフォッフォッとでも朗らかに笑い出しそうなオーラを醸し出している(と、鋏番長には見える)花咲番長に鋏番長は首を傾げた。
なぁに、と声をあげて続きを促すといえね、と一拍の間が挟まれる。
そして、


「お二人とも仲がよろしいなぁと思いまして」

「…………へぁ?」


マヌケな声があがったのはしょうがないと思う。
今の今まで文句を言いまくっていた相手を含めて仲がいいと表現されて、首を傾げない方がおかしいというものだ。
よもや言っている事が正反対に聞こえるヘッドホンをつけている訳でもあるまいし、いやこれは自分の聞き違いだろうかと鋏番長は再度確認の意味も兼ねて慎重に口を開いた。


「あの、さ…花咲番長……今、なん、て……?」

「お二人とも仲がよろしくて、羨ましいなと」

「増えてる!何か増えてるよ!?!?!?ねぇ!!」


聞き間違いだけでなく更なる相乗効果付きで返ってきた言葉におもわず鳥肌が立った鋏番長である。
両の手に武器をはめ込んでさえいなければすぐさま袖を捲って腕を擦った事だろう。
花咲番長は荒げられた声に違和感も持たないのか、ふふっ、と一人楽しげに笑っている。


「ケンカは相手が居ないとできませんからねぇ」

「へ?」

「相手が応えてくれるからできるものでしょう?だから、羨ましいと」

「…………は、まぁ…うん」


そう、だね、と。
途切れがちな返答にも花咲番長は構わずどこか楽しそうだ。


「…………」

「あぁ、今日もいい天気ですねぇ」

「へ、あ、うん、そだね!」

「今日は新しい種を植えましょうかね」

「い、良いんじゃない?」


(……な、)


何だこの空気。
ほんわかしたような空気がまるで目に見えるかのようで、鋏番長は心持ち居心地が悪そうにちらりと花咲番長を窺う。
が、相手はやはり和やかな雰囲気を身に纏っていて、心からそう言ったのだという事が明白だった。
外観や性格的なものから過去に友人ができなかったと、花咲番長から以前聞いた事があった鋏番長としては、今の話の流れで尚もキャンディ番長への鬱憤を口にするのは難しい。
むしろ、花咲番長の立場になるのであれば、仲直りして一時でも手と手を握り合う事が賢明であるようにすら思えてくるのだから不思議だった。


(…敵わないなぁ、もう)


簡単に憤怒を諌める彼に、自分が敵う訳もない。
結局はいつも、彼に宥められてあの少女に歩み寄るのだから、大概自分も彼に弱いようだと実感して小さく笑うしかなかった。
後でキャンディ番長に謝ろう。
ちょっと不本意だけど、別に本気でケンカしたい訳でもないし。

それに、きっと花咲番長も喜んでくれるんだろうし、ね。




























きっと明日も、

(だーかーら、親切で言ってるんだよ!?そんなに食べたらまた太るに決まってるじゃん!)
(いちいち言う事がイヤミったらしいのよこのオカマ!!)
(……またあいつらはケンカして……って、花咲番長、どうした?)
(こんにちは、毒露番長。いぇいぇ、ケンカする程仲がいいという言葉は本当なのだなぁと思いまして)
(……あの二人を見てそう言えるのはお前位だろうな(汗))






























■リクエスト内容
鋏*花咲(鋏+花咲も可)
鋏が飴と喧嘩した事を花咲に愚痴って、毒気を抜かれた鋏が飴に謝る
(又喧嘩になっているのを花咲が遠くから見ていて「仲良いなあ」な終わり)

と、言う訳で。企画第五弾です!
ウルフファングの設定というかキャラの性格的なものは某サイト様を参考にさせて頂きました。
…が、どう、だったでしょうか……(汗)
すいませんすいませんすいません(ひたすら土下座)

title/確かに恋だった




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