破壊魔は笑う










暗黒生徒会の本部内には、各番長に割り当てられた個室が点在している。
生活をするには充分な設備があり、元々馴れ合いをする為の集まりではないから大抵は日本番長の執務室と自室の往復になるものだ。
しかしそれが、食生活、という場合には個人差が生じてくる。
個人の部屋にはガスは元より水も引かれているし、立派なキッチンも備え付けられているが、それを使いこなせるかというとまた話が違うものだ。
料理ができる者にしても、毎日自分で作るのには嫌気が差す事もある。
そういった諸事情から、本部とは別棟の所へ食堂が設けられた。
元々番長の他にもスタッフが常駐している部署があった為か、利用者は少なくない。
番長及び各部署の責任者にはフリーパスが与えられ、出費の必要がないというメリットもあった。
これは、そんな食堂での、ある出来事である。






















持参してきたフリーパスを手に、無数のパネルを前にした偽装番長はううむと何度目かの思案の声を漏らした。
彼は普段から少食で、その上菜食主義者の為、選ぶのは大抵がサラダ、良くてそれにサイドメニューを一品という所である。
健康的ともいえるが一概にバランスがいいともいえない食事内容だ。
そんな偽装番長が、今日に限ってはうんうんと唸って足留めを食らっているその理由を語る前に、偽装番長の後ろに注目すべきだろう。


「……誰か言ってこいよ」

「お前が行け…俺は死にたくない」


ボソボソヒソヒソと囁き小突き合うスタッフ達である。
食券発売機(…もどきのパネル)は一台しか設置されていない。
これがまだ夕刻を過ぎてから時間も経っているのならともかくとして、時刻は長針が頂点を、短針が最下点を指している正に夕食の時間帯であった為、偽装番長の後ろにはそれなりの列が作られていた。
しかし誰もが表立って文句を言わないのは、偽装番長が番長であるからだ。
本部で最も権力を持つのは、当然金剛猛、つまりは日本番長であり、その部下たる番長達は誰彼構わず金剛猛の次に偉いというのが単純な組織図ともいえるのである。
それに加えて任務に多少なりとも関わりを持つスタッフの中では活発な活動をしている番長の噂も流れやすく、その主が憲兵番長であるだけに『番長』へのイメージは色々な意味で滅茶苦茶になっている(憲兵番長の場合は任務内容というよりも人柄に問題があるのだが)
パネルの上をさ迷う指先の動きは行き先を見失い定まっていない。
番長と違い、スタッフ達には交代時間というものがあるから、このままでは夕食を食べそびれてしまう者も出てくるだろう。
悲愴な空気が流れ始めていたその時、未だ立ち尽くす偽装番長の左肩と右脇下から、ありえない重力が働いた。


「バリおせぇー」

「後ろが詰まっているのだから早くしたまえ」

「………………お前ら」


見れば、左肩に腕を乗せた磁力番長、右脇下から火薬仕込みの飾りを引っ張る憲兵番長。
深く思い悩んでしまっていたからすっかり隙だらけになっていたのか、負荷がかかるまで気づかなかった己を偽装番長は呪いたくなった。
個人的に、あまり絡みたくない人間ベスト3に入っているのが二人も揃ってとは一体何の因果だろうかと。
しかし言われてみれば確かに後ろには長蛇の列があり、今回は己の責を認めたのか、偽装番長は一言限りの謝罪を述べた。それでもパネルに触れる気配がないものだから、磁力番長がパチパチと目を瞬かせる。


「何迷ってんだ?俺バリハングリーなんだけど」

「ん…実はだな、」

「肉を食べようか迷っているのだよね」


暗に早くしろと急かす磁力番長に、偽装番長が答えるより早く憲兵番長が口を挟んだ。
何故知っているのかと瞠目するのとほぼ同時、憲兵番長が胡散臭い笑みを浮かべてみせる。この男にとってはこれが一番好意的な表情のつもりなのだろうか、不信感が増すだけだと誰か言ってやれと偽装番長は密かに思った(自分が言うという選択肢はない)
菜食主義者と公認されている偽装番長が肉を食すかどうか迷うというのは珍事であり凶事である。
列に並んでいたスタッフが顔を見合わせざわめく中、磁力番長は訳が解らないといわんばかりに眉を寄せた。


「はぁ?食えばいーじゃん」


それはもうアッサリと、常にゴーイングマイウェイな磁力番長は偽装番長の手からフリーパスを奪い取ると、パネル操作を行い料理を注文してしまう。
これでよし、とばかりの笑みで偽装番長を押し退け、今度は自身の食べる物を注文してしまう…かなり大胆な割り込みだが、文句を言う人間は勿論居る訳がない。スムーズに注文を終え、やっと食事にありつけると喜んでいる磁力番長を、これまで呆然と突っ立っていた偽装番長がそれはもう物凄い剣幕で怒鳴り付けるのも、もはや当然の流れだった。


「き、きさっ、貴様ぁぁぁ!何をするんだっ、んん?!」

「細かい事を気にせず食べてしまえば良いじゃないか」

「そうそう、バリ善意だし。食いたいなら食えば良いじゃん」

「まぁ日本番長に食生活を心配されて気にし始めただけで食べたいとは一言も言ってないがね」

「そうだ!日本番長様の御言葉がなければ食べたいとも思わないぞ!んんーっ?!」

「はぁ?意味解んねぇ」


お前バリ馬鹿?と。
心底馬鹿にした声でケラケラと笑う磁力番長に偽装番長の血管が幾つかブチ切れる。
スタッフ達は夕食なんかより命が惜しいと皆揃って逃げ出した。
そんな中でも磁力番長とはまた違った意味でマイペースな憲兵番長は、一人暢気に和風定食を注文している。というか、さりげなく二人を煽ってやしないだろうか。
(一部を除き)一触即発の重い空気を、ソフトな方向で打ち壊したのは第三者の声だった。


「……お前達、何をしてるモグ」

「「だってこいつが!!」」


本人同士は否定するだろうが極端にタイプが違うからこそ共通するものがあるのか、言っている事は小学生のケンカでしかも擦り付け合いだが、二人の息はピッタリである。
声をかけた命知らずは、彼らと同じ番長という任に就いているドリル番長だった。
一足先に食事をしていたのか、手にも口にも見慣れた物が嵌められていない。ヘルメットも被っていないあたりから早々に風呂を済ませたのか、タオルを巻き付けている。


「だって、じゃない。公共の場だモグ」

「…すまない」


正論で納得し、反省するのは偽装番長だけで、磁力番長は素知らぬ顔で口笛を吹いている。
いかにも自分には関係ないという態度に、偽装番長のこめかみが引き攣った。
お待ち、と。
街中の定食屋かと思うような声と共に出てきた焼肉定食が更に怒りを煽るが、厨房で料理に励む調理師達に罪はないと、かろうじて突っ返しはしないが、受け取る手付きは少々荒っぽい。


「………ちょっと待つモグ、憲兵番長」


それを目にし、溜息を吐きながら、ドリル番長はちゃっかり席へ向かおうとする憲兵番長の首根っこを掴んだ。
周囲から畏怖されるような相手でも、馴れ合いを好まない暗黒生徒会の中で、ドリル番長は少々異質だった為、臆す事も敵意を抱く事もない。
幸か不幸か、そういった落ち着いた面では、憲兵番長にとって面白味に欠けるが、嫌な気もしていないようだった。


「うん?何かね」

「……はぁ。止めろとまでは言わないが、必要以上に煽るな。それだけだモグ」


言った所で反省などしまいと、含み笑いを目にした瞬間に悟ってとりあえず形ばかりの注意を促す。
善処はしてみよう、などと全く誠意の感じられない声が返ってきた。


「ところで、ドリル番長?」

「ん、何だモグ」


首根っこから手を離した途端芝居がかった仕草で振り返った憲兵番長はちらりとあらぬ方を見やる。
唇が弧を描き、至極楽しそうだ。
こういった顔を見ると、やはり敬遠されるだけはあるなと失礼な事を考えてしまう。
ドリル番長の後ろでは偽装番長と磁力番長がキョトンと事の成り行きを見守っていた。
それを満足そうに見回すと、それはもう満面の―――胡散臭いと称されたあの――笑みを浮かべ。


「人の事もいいがね、自分の恋路も心配すべきではないのかね?」

「「「……?」」」


憲兵番長の言葉を理解しきれず、尚もキョトンとする三人に構わず、憲兵番長は踵を返す。
そしてその先のテーブルを見て、そこで漸くドリル番長は言葉の意味を理解し、蒼褪めた。そう、そこには先程までドリル番長が共に食事をしていた相手がそれはもう可哀想な感じに肩を落としていたのである。
生来の気質故に、つい注意をしに来てしまったドリル番長だが結果として相手を放置してしまったのだ。


「が、噛噛番長っ」

「いやぁ、酷い。実に酷い。まさかドリル番長が君以外の男を気にかけるとはねぇ」

「うっ…!」

「違っ…憲兵番長!余計な事を言うんじゃないモグっ!」


これはまずいと、元々自身が座っていた席へ足を向けるが今や相手は憲兵番長にポンッと肩を叩かれ追い討ちをかけられている。
そういった意味合いではないというのに、わざと意味深な言い回しをする…どこかひねくれた性格の持ち主。
それが憲兵番長という男なのだと。


再認識した時には色々手遅れだった。



























破壊魔は笑う

(が…噛噛番長、良かったら肉食べるか?ん?)
(うぅっ、偽装番長…ありがてぇでやす)
(食わないならバリウォンチュー!)
(偽装番長、手をつけてないサラダがあるが要るモグ?)
(あぁ、噛噛番長、ドリル番長がまたもや浮気をしようとしているよ)
(違うと言ってるモグ…!)





























責任を感じ気味の偽装と
落ち込むガウリンと
食欲に忠実な磁力と
楽しんでる憲兵と
焦るモグタン
うん、ないね
キャラ崩壊もいい所だこれ…(汗)
全然絡んでないけどガウモグと言い張るよ…
破壊魔ってのは憲兵の事ですあしからず…(汗)




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