永遠を紡ぎながら











好きだよ。
ずっと一緒に居て。
君の事が僕は大好きだ。
ずっとずっと一緒に居たいんだ。

なんて陳腐な言葉達。
その言葉に何らかの効力がある訳でもないのに。

追い縋る為の用途にしか思えない。
愛してるという言葉のどこに純真な気持ちがあるというのか。

結局のところ大事なのは自分で。
結局のところ一人になりたくないが為の保身でしかないのに。


お願いだから、君が気付かないようにと祈りながら。

























二人で一緒に居るのに、孤独だと思う時があるのは僕が幸せという定義を受け取り損ねているからだろう。
金剛は僕に優しい。僕を好きだと言ってくれる。
僕の意思を尊重してくれる。僕が嫌だという事をしない訳ではないけれど、僕を一人の人間として対等に扱ってくれる。それがどんなに大事な事かは、言われるまでもなく他でもない僕自身がよく解っていた。
だというのに僕は飢えるのだ。
愛して欲しいのだと飢えるのだ。
食べるだけ食べて満腹になっていてもいつかは感じる空腹にも似た枯渇感が僕に突如として牙を剥き、引いては僕の周囲にまでそれを及ぼす。
僕を好きだと言って、必要だと言って。
何度も何度も飽きずにそう訴える僕を、金剛は微笑ましそうに見ているばかりで疎ましそうにはしない。
態度で示して欲しいとは思わないから言葉を欲するのは普通の事なのだろうか。
しかして普通とは一体どういった事なのだろう。
恋をしたら相手を束縛したいと思うものだろうか。
人を愛したら同じ分だけいや出来得るなら想う以上に愛されたいと思うものだろうか。
僕にはそれが解らなかった。
中学生の時分、まだ施設の経営は順調で、職員も弟妹達も皆が笑っていた頃は、僕だって恋の一つや二つした事があるけれど、なんとなく惰性でしていたように思う。
少なくとも、こんな風に盲目的に追い縋るような事はなかったから解らなかった。
解らないという事は自身の理解の範疇を超えるという事だ。自身の理解の範疇を超えるという事は自身の実力を超えるという事だ。
そしてそれは自身の無力さを表立たせる事でしかなく僕は自身が無力であると認識する事だけはどうしても避けたかった。
自身の無力さを認めてしまえば泣き出してしまいそうになる。泣いて叫んで誰彼構わず助けを求めたくなってしまう。
『卑怯番長』という仮初の役者を立てたのは、つまりは『秋山優』の悲しいまでの非力さを隠すための役割を担わせる為だった。
僕は卑怯者で、そうして臆病者で、酷く愛情に飢えているクセに、その実全くと言っていい程他人から与えられるそれに対して信頼というものを置かなかった。
何故なら僕は常に捨てられる側であり、捨てる側になる事などなかったのだ。
とは言え取捨選択を提示されたものは決して多くはないのだけれど。
一般的な学校生活はもはや諦めた。
僕の中で大事を占めていたのは弟妹達との生活だったからだ。
例えそれがこれまで精一杯の生活の中でも当たり前のような顔をして享受していた一般的な学生としての生活を捨てるとしても、それでも家族である弟妹達と離れる事など考えられる筈もなかった。
しかしそれが弟妹達を苦しめているだろう事も僕はよくよく解っていた。
だってそうだろう。これは僕のエゴでしかない。
本来なら然るべき施設(あくまできちんと運営が成されている場所に限る)か人の良い引き取り手を見つけてそこにやるべきなのだ。
弟妹達の幸せを祈るのなら、本当に幸せになって欲しいと思うのなら、僕がとるべき手段はそれに限られていた。
それでも僕は、僕が独りになりたくないが為に出来得る限り頑張るからと、絶対に幸せにするからと、我儘を言って弟妹達を束縛している。
弟妹達だけじゃない、金剛だって、欲するのはそういった理由だ。
独りになりたくない。
僕の根幹は、確実にそこにあった。


「……勝手だって思うだろ」


空笑い。
その眼下に晒されても僕にはそうするしかなかった。
金剛が僕を見る。
その眼は酷く優しく、そして慈愛に溢れていて、僕は堪らなくなる。
愛してと訴えて、好きだと言って欲しくて。
それでも金剛が僕にそれを伝えてくれているその真っ只中、僕は勝手に不安になる。
僕が言ってくれと言ったから。
僕が希ったから、だから言ってくれたのだと。
自分で願ったクセに、疑って信じられなくて。
なんて勝手なのだろう。勝手だと言って詰ってくれたらいい。そうすれば僕はそうだろうともと笑える。


「……いつか君が」


いつか、そう、いつの日にか彼は、気づいてしまうのだろう。
彼自身が想うのは僕ではないのだと。
僕が彼に刷り込みの如く囁く愛の言葉は枷にしかならずそうして温かいものではないのだと。
虚実、脆弱、欲望、枯渇、羨望、浅ましい限りを尽くした黒い感情の羅列に、彼が気付かない事を願いながらそんな事が無理だとも解っている。


「…秋山?」


どうした、と彼が訪ねる。その手を伸ばす。手のひらが頬を撫でる。
そんな一連の仕草が泣きたくなる程愛おしくて堪らなくなるだなんて。
こんな筈じゃなかったのに。
こんなにも執着するつもりはなかったのに。
頬を撫でる手のひらを、上から覆って握った。
温かなそれに擦り寄ると、息を吐く。
彼が困惑も露にオロオロとした目を向けるのが解ったけれど知らないフリをする事にした。


「ううん、何でもない」


ごめんね変な事言って。
僕は上手く笑えているのだろう、金剛の顔にもふっと笑みが浮かんだ。
当たり前のように彼が傍に居て、当たり前のように僕に笑いかける。
彼にとってそれは当然の事として認識されているのだろうか。だとしても僕にとっては非日常なのだ。
いつか、この手のひらを失う日が来る事を、僕だけがよく知っている。
僕は終わりを迎えるその日に向けて、理解に努めているから。金剛は別れの日など考える事もしないのだろう。盲目的に僕を信頼し、僕を好いてくれているようだった。
なんて可哀想なのだろう。
全ては僕が仕組んだ事だというのに。
彼の出生とそれに準ずる事を、僕は彼を調べた事からよく知っていた。だからこそ、彼が他者に献身的でそして自己犠牲に身を投げる人間を見捨てられない事を知っていた。
僕はそれを彼に伝える事もせず、苦しいと彼に訴えぬまま彼の弱い場所を突いて居場所を得たのだ。
卑怯だと罵ってくれて構わない。僕にとってそれは褒め言葉以外の何物でもないのだから。
むしろ君が愛しげに紡ぐ睦言の方が僕には痛かった。
物理的な苦痛には慣れている。精神的な苦痛には未だ慣れぬまま。


「金剛」

「何だ、秋山」


僕は君を呼ぶ。
君は僕を呼ぶ。
けれどそれは決して対等なものではない。
君がどれ程僕に対し対等であろうとしてくれても、スタートラインからして僕らは違っているのだからいつまで経っても対等になどなれよう筈もない。
僕はそれを知っているけど。
君はそれを知らないままで。
目に見えない不足感に君は気付かない。僕は気付いていて知らないフリをつき通す。


「好きだよ。君の事が、凄く好きだ」


僕は、君へと紡ぐ。
愛情を盾にした、有毒に限りなく等しい言葉を。
それは君の知らない所に傷を作り、痛みを感じさせる事もなく入り込んで徐々に君を蝕んでいくのだと知りながら。


「ねぇ、君は?僕の事、好き?」


言葉を委ねる。
委ねるフリをして、強制する。
君はそれを強制とは思わないのだろう。考えもしないのかもしれない。
ただの恋人の可愛い我儘だと、そう思っているのかもしれない。
いつまでもそう思ってくれていれば良いのだ。
いつまでもそうやって僕を愛してくれれば良いのだ。
自作自演のそれを愛と呼べるのなら、僕は構わず道化を演じ続けるだろう。




「あぁ、好きだ」




いつか君が、僕の裏切りに気づくまで。




「ありがとう。凄く、嬉しいよ」




君の言葉は僕の心の暗闇に堕ちていくばかり。

僕の言葉は君の心の深層を侵していくばかり。



幸せになんて、なれないのだと。

知りながらも、気づかぬように。
























永遠を紡ぎながら

(いつか君が、この手を離すまで)































久々の金卑がこんな薄暗くて良いんでしょうかね(汗)
秋山は知らないフリしてるだけで金剛の事とか兄貴の事とか全部解ってる設定(という名のドリーム)
金剛母のエピを見ると、金剛が卑怯に惚れたのはもはや運命としか言えない……(不毛だ)
秋山も秋山で一人で奮闘してたから、金剛に対して父性を求めていそうで結局お互いにお互いを好きな訳じゃないんだって達観したフリをしてそうです。
まぁ本来は迷惑な位バカップルなんですよ!!(まとまってねぇ……!)




あきゅろす。
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