タイムパラドックス










23区計画に参加する事を決めてから色々な事があったし、色々な人間に出会った。

銃で撃ち抜いた脚もすぐに治る男。爆風につぶされた目もすぐに治る男。トラックと衝突事故起こしたのにすぐに治る男。鉄球を筋肉のバンプ・アップで跳ね返す男(ここまで全て同一人物)それから歩く銃刀法違反だとか息で岩を砕く男だとか針山に落ちても無傷な女の子とか(何だこの人間ビックリ面白ショー
だからつまり、最近は大抵の事には耐性が出来ていたと言いたいのだけれど。


現在の状況は生憎と「大抵の事」とは分類し難かった。


「ひきょうばんちょう、みえねぇ」

「あぁ、ごめんね。これなら見える?」

「おう」


でもまぁ、可愛いから良いんだけど。



















事の起こりは朝に遡る。
近頃は度々23区計画のとばっちりを受けている雷鳴高校の生徒達は、日々その精神を鍛えられ奇怪な出来事には多少どっしりと構えられるようになっていたのだろうか。
今日も今日とて、本来なら彼自身のスタンスではないだろうに、朝のホームルーム前に教室へやってきた卑怯番長は信じられないものをその目に映しながら、思考の片隅でそんな事を思い浮かべた。
いつも通りに談笑する生徒達と離れた、教室の最後列の、奥から数えて二つ目。金剛の席付近で何やら小さな子供がチョロチョロと動いている。定時制ならばともかく、現在学校へ登校しているのは現役の高校生だけの筈であり、連れてくる者が居よう訳もなく。
ならば教師の親類だろうか。しかしあんな小さな…見た所3、4歳の子供から目を離すなど保護者の顔が見てみたいものである。
若干呆れつつ、卑怯番長はその子供に構う事なく己の席に着いた。
此処が外で自身が秋山優として居たならば、すぐさま声をかけて交番まで送り届け保護者がやって来るまでその子の傍に居たかもしれない。
表と裏の使い分けをうまくしなければならない身として、この反応は「卑怯番長」として確かに相応しいものだろう。
だが、卑怯番長が席に着いたのを切っ掛けに、椅子のずれる音を敏感に聞き分けた子供はそれに反応してしまった。


(………見られてる見られてる)


横から突き刺さる視線は子供らしく直球であからさまだ。
こんな時に限って陽奈子や他の番長達はまだ来ていない。
絶対目を合わせてなるものかと気づかないフリを決め込んで、携帯を取り出したその時だった。


「ひきょうばんちょう、わるいがてつだってくれねぇか」

「…………」

「ひきょうばんちょう?」


舌足らずな子供の声が尚も自分を呼ぶ。
それだけでも驚きだが、先程は一瞥のみで済ませたその子供へと目をやれば、更なる驚きのあまり心臓が止まるかと思った。
ツンと尖った三本角。
子供らしからぬ目付きの悪さ。
大きさこそ違うものの、覚えがありすぎる男のポイントを兼ね備えた子供はまるで。


「………金剛、番長…だったりしないよね…?」


恐る恐る。正にそんな表現がよく似合う慎重さで、自分でもバカじゃないかと思える質問を投げ掛ける。
だが、あの金剛に隠し子などという器用な真似が出来ようか、否、出来る訳がない。
平均的に長身の部類に入る卑怯番長でさえ見上げねばならぬ巨漢が、膝をつけば目線を合わせられる幼児にまで縮んだとは俄に信じがたいが。


(…隠し子よりは信憑性高いってのもなんだかなぁ…)

「みりゃわかるだろ」


十中八九、卑怯番長の中では結論となっているそれを肯定したのは、紛れもなく目の前の子供だったのである。




















それからそれから、陽奈子や他の番長達も登校してきて事態の説明に努めた。
大抵、こういった役割に据えられるあたり、卑怯番長は苦労人なのかもしれない。
金剛は卑怯番長の手を借りて(ほぼダッコの形だったが)漸く座る事の出来た椅子の上で足をプラプラと揺らしている。
本人にも何故こうなったのか解らず、ただ朝起きてみたらこうなっていたのだと言うのだから解決の糸口すら見えてこない。


「何か拾い食いでもしたんじゃないか?」

「貴様と同じように考えるな念仏番長」


ふざけた事を言って場を和ませようという意図があったのかはともかく、面白くもない冗談は止せと居合番長に咎められた念仏番長は教室の隅で膝を抱えていじけている。
確かに金剛の性格上、拾い食いなどという行為はしないだろう。


「じゃあ誰かから何か食べ物とか飲み物貰わなかった?」


ただ、こういった場合は別だろうけれど。
他者からの贈り物という形でならば多少出所が不鮮明であっても金剛晄という男は食べるに決まっているのだ。


「…そういえば、きのうたくはいびんでぷりんが…」

「誰から?」

「かいてなかった」

「「「「…………」」」」


いくら何でも不鮮明過ぎだろ
警戒心がないとか鈍いとか、そんな単純な問題じゃない。
もしかして金剛晄という男は底抜けの馬鹿なんじゃないだろうかという気すらしてきた。
一同がそのような考えの元、顔を微妙に歪めている中、卑怯番長だけは表情を変えず笑っている。


「ま、暫く様子見だね。ところで金剛番長?」

「なんだ?」

「それだと教科書どころか黒板も見えないだろ?見せたげるからこっちおいで」


こっち、と言いながら両手を差し出す卑怯番長は恐ろしく慈愛に溢れた笑みを浮かべている。
他意も悪意も感じられない。しかしだからこそ恐ろしい。恐ろし過ぎる。
弟妹達に向ける顔を知っている金剛はともかくとして、物凄く近くでそれを見てしまった居合番長は極寒の地に薄絹一枚で放り出されたかの如く肌寒さから凍り付いた(ひどい言われようであるが、卑怯番長の日頃の行いを省みれば仕方がないかもしれない)
言われてみれば椅子に座るのも一苦労だったし、立っていても黒板は見えないだろうから誰かの世話になるしかない。
それが自ら申し出ている者ならば頼ってもいいかもしれない。そんな風に考えた金剛は、差し出された腕に自らダッコされに行った(第三者視点からするとそうとしか見えない)


「わー、軽い柔らかい温いちっちゃいっていうか君、子供の頃可愛かったんだねぇ」

「…よくわからんが、ほめられてるのか?」

「本当に可愛らしいですわ、金剛番長!」

「「「………」」」


幼児と化した金剛を抱いてご満悦の卑怯番長と、それを見上げて首を傾げる金剛、それを見て微笑む剛力番長に、そんな三人を心なしか遠巻きに見守る居合番長、念仏番長、陽奈子。
更にそんな六人を見守るモブ…もといクラスメート達は、まぁ金剛番長だし、と聞き方によっては投げやりで力業な折り合いの付け方をして主に現状の収拾に努めるのだった………










そんなこんなで現在、卑怯番長の膝上には幼児となった金剛がちょこんと座っている。
普段は真面目に授業を受けたりなどしない卑怯番長が、今日ばかりは熱心にも金剛と共に教科書を見つめていた。
時折柔らかな頬を弄りちょっかいを出しては金剛に咎められているが、その表情は緩みまくりである。
卑怯番長が実は子供好きという事実は恐ろしく、あまり知りたくなかったというのがクラスメートの本音だが、それこそ彼にとっては知った事ではない。


「ねぇ、ちゃんと家の戸締まりしてきた?電車乗れた?お昼ご飯持ってきた?」

「どうにかな。めしはこうばいで…」

「確実に人波に呑まれるね」

「…それもそうだな」

「僕のお弁当分けてあげる。小さくなったしそれで足りるだろ?」

「いいのか?」


午前の最後の授業が終わりを迎える直前、二人の間ではそのような会話が成されていた。
仲良しさんですわね、といかにも微笑ましそうに笑う剛力番長以外は、揃って微妙な顔をしている。
しかしながら、金剛が元に戻るまで卑怯番長はこの調子なのだろう。
考えずとも全員一致で「是」と出てしまって、早く金剛番長よ元に戻ってくれと切実に願う彼らであった。





























タイムパラドックス

(あぁホラ、顔にご飯粒ついてるよ)
(わるいな)
(あ、待って。写メるから)
(しゃめる…?)
(だって可愛いんだもん、君このままで居なよ)


































二萬打御礼企画、表での第二弾です。

■リクエスト内容
アイドル番長ズ
金剛幼児化ネタ。
卑怯が番長時なのに無意識の内に優に戻って、仔金剛を甘やかす。

甘やかす…って、こんな感じですか…?(汗)
卑怯は基本的に自分家の子じゃないから猫可愛がりだけど自分家の子だったらもう少し手厳しいと思います。
ありがとうございました!




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