夢現な温度










曇り空も裸足で逃げ出す、ギラギラ輝く太陽。

更に言うのであれば風も強くない上に久々の休日。



いい天気だ、と秋山が零せば。

掃除をするのか?と金剛が何の気なしに訊ねたので。


手伝ってくれるのかという質問や、それに対する応答などは最初から必要ないとばかりに。
























「優兄ちゃん、優兄ちゃん」

「ん、どうした?」


弟妹の中でも、幸太の次に年長である少女が、一人の弟の名を口にして頬を膨らませる。
ずるいんだよ、寝ちゃったの、と要点は所々欠けてはいるが、要は掃除をサボっているのだという密告にきたのだろう。
正義感溢れるその大きな目は、空に浮かぶ太陽のようにキラキラとしている。
偉いでしょ、誉めて褒めて。
その目の中に浮かぶ感情からそのまま少女の気持ちを読み取った秋山は、そうかそれはずるいな、お前は偉いな、兄ちゃん嬉しいぞと頭を撫でてやる。
すると少女は笑顔をその顔に浮かべ、自分の言われた所はやったからお出かけしてきてもいい?と首を傾げた。
成程、サボっている弟との違いを引き合いにした上で外出の許可をとろうとしていたらしい。
子供らしい幼稚な発想と、そして隠す事の出来ない正直な欲求とを見てしまうと、却下するのも可哀想で気をつけてと笑って送り出してやった。
今の少女で五人目だ。
最初こそ大掃除だと言って家族総出で始めたものの、やはり幼い子供にできる仕事と言えば限りがある。
終わったら出かけてきてもいいからとは事前に言ってあるのだが、やはり多少は申し訳ないのだろう。
建前、だなんて小難しい事は考えていないにしても、外に行く際に子供心でも感じる一種の罪悪感を緩和させてやりたいのは此方も同じ事だ。


「秋山、本棚のやつ出すだけだと湿気抜けねぇから、全部日干しにしといたぞ」

「あぁ、ありがとう。じゃあすぐにまた次で悪いんだけど空いた本棚の水拭きと空拭きお願いしてもいいかな」

「解った」


それに、今年の大掃除には金剛も参加している。
人員的な人数としては一人しか増えていないが、それが腕力に秀でていて多少の指示で自分なりに動いてくれる大人であるのなら戦力としては充分なものだ。
本当に助かるなぁ、と頷いてすぐにまた引っ込んだ金剛を目で追うように、先程まで金剛が顔を出していた部屋の出入り口を見る秋山の顔は明らかな安堵を示している。
幼い弟妹達を遊ばせてやりたいと思う気持ちは確かに本当のものだが、そうは言っても結局最後には一人で殆どを片づけるこれまでに比べると、随分と楽だった。
第一陣の洗濯物を干す為に、籠を抱えて廊下を進む。
途中に通った子供部屋の中では、自分の要らないものや要るものを分別しながらも、懐かしの玩具で遊んでいる弟妹達の微笑ましい姿が見えた。
弟達は小さな車や電車の玩具、それに近頃普及しているカードゲームにはしゃぎ、妹達はぬいぐるみや精巧に造られた人形を手におままごとでもしているのだろうか。
心がぽかりと暖かくなり、それをそのまま顔に出せばきっとだらしない程顔が緩み切っているのだろう。
兄馬鹿かもしれない自負はあれど、あからさまにそれを露呈するのは好ましくない。


「…こーら。掃除終わったのか?」

「ゆ、優兄ちゃん!」

「その、い、今やろうと思ってたんだよ!」

「んー、そうか?兄ちゃんには遊んでるように見えたけどなぁ?」


萎縮した弟妹達を、これ以上は苛めるのも可哀想かと先程少女に言われた弟の名を出し、どこでサボっているか皆で探してくるように告げれば、我先にと駆けて行く。
転ばないように、とか、あまり家の中で走り回らないで、とか。
咄嗟に口にした忠告は少年少女の耳にちゃんと入っているのかどうか。
やれやれと苦笑に交えて息を吐きつつ籠を抱え直す。
元々の目的の為に中庭へ向かう足は、例年の大掃除の中でもダントツで軽やかな自覚があった。















「晄兄ちゃん」

「何だ?幸太」

「ちょっとお休みしようよ。兄ちゃんも休んでるし」

「秋山も?」


幸太が行こうと金剛の太い指を一本握り、子供なりの精一杯で引いて連れて行こうとする。
今日は既に何度か休憩を挟んでいるが、その度秋山の方から金剛へもその旨を伝えにやってきていた。
それが何も言わずにとは、そこまで不審に思うような事でもないが、秋山の性格上なら自分で知らせに来るだろうと思っていたのだ。
室内にかけられた時計を見ても、昼食を取り終えた直後でおやつにはもう少し早い時間である。
秋山の事だから、次の休憩はおやつという口実を利用して三時になるのだと思っていた。


「……成程」


口をついて出たのは、得心の言葉。
幸太はにこりと笑っている。
ねぇ晄兄ちゃんも、と誘われるままその場に座れば、幸太は自分とは正反対の方に小さな足を動かして移動した。
中庭に面した縁側に太陽の光が射し込む。
秋山に言われ、先程取り込んだ何枚もの布団を、子供部屋の掃除が済むまでの間だからと其処にそのまま放置していたのが、幸太が言うにはそこに弟が一人寝入ってしまったのだそうだ。
そしてその弟を探すように秋山に言われ、他の弟妹達が四方に散った結果、一人また一人とそれに紛れ…
金剛の指が撫でるのは、子供とは違い少々傷み始めている黒髪だった。
弟妹達に寄り添うようにして眠るのは、秋山その人。
干したての、太陽の光に柔らかく、そして温かくなった布団に寄り掛かり眠る弟妹達を起こすに起こせなかったのだろう。
容易に想像がつく光景を思い浮かべ、金剛は笑みを浮かべた。
久々の休日ではあれど、家庭の環境上から秋山の休日は平時と然して変わらない生活サイクルに成り立っている。
夜遅くに寝て、朝早くに起きて。
家の事をやる一方、番長としての仕事もちゃんとしている。
自分が好きでやっている事だから平気だと言って聞かないが、人間なのだから疲れないなどという訳が無いのだ。


「晄兄ちゃんも、ちょっと寝ちゃおうよ」

「……あぁ、そうさせて貰うか」


横になった幸太が茶目っ気たっぷりの笑顔でそう言うので、遠慮なくと金剛も笑って返す。
弟妹達の前での過剰な接触を嫌う秋山だが、眠っている時は大人しいもので、背中から抱き締めるようにしても当然だが怒鳴ったりはしない。
むしろ陽光とはまた別の温もりを認識したらしい秋山は夢の中に居るままそれを求めるように回した腕に擦り寄ってきた。


(……起きぬけは耳に悪そうだが、その方が全員起きるだろうしな)


起きた時が煩そうだが、そうなったら本当の事を言ってやればいいだろう。
自分から抱きついてきた、なんて知ったら、秋山は真っ赤な顔で黙ってしまうのだろうから。















(……何か、温かい)


自身の身体を何かの膜が取り囲む感覚は、その温もりに同じくそれ程嫌だとは思わない。
時折閉じた瞼の向こうで影が射したかと思えば光が拡散するように瞬く。
僅かに眩しさを覚えながらも、自身の両側に感じる人肌の感触の心地よさには勝らなかった。
自身の左側にある小さな身体を抱き寄せると、擦り寄るようにくっついてくる。
心地いい。
しかし右側…というか、背中から右側にかけて自身の身体を覆わんばかりの体温は弟妹達にしてはでかすぎる気もした。
しかしそれも、心地いい。
微睡む意識が起き上がるのを嫌がって、みっともなく足掻くのが解った。
もう少し、ほんの少しだけ、眠っていたい。
そんな欲求を見透かしたように、右側の体温が動いたかと思えば髪や頬をやんわりと撫でた。


(……もう少し位、いいよね)


浮き上がりかけた意識が再び眠りに落ちて行く。

瞼の向こうで、太陽はやはりまだ輝いているようだった。

































夢現な温度

(兄ちゃーん?ねぇ、兄ちゃん?)
(どうしたの?出てきてよ兄ちゃん)
(…晄兄ちゃん、あんまり優兄ちゃんのこといじめないでよ)
(でもな幸太、起きぬけに怒るとは思ってたが頬をブン殴られるとは思ってなかったんだ)
(優兄ちゃんが部屋から出てくるまで晄兄ちゃん頑張ってね)


































卑怯番長時はエロテロリストなのに秋山時は羞恥心の塊というギャップにモダモダします(それ妄想だけどね)
命題はナチュラルホモ!(ぇ)




あきゅろす。
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