恋は盲目と言うけれど
何故彼ではなく彼なのか。
何故彼で彼ではないのか。
考えれば考える程、解らずに。
考えれば考える程、興味深い。
考えても解らぬなら口にしてみようか。
もし答が得られずともそれもまた一興。
「何故君であって、君でなくては駄目なのだろう」
「……何の話だ?」
不可解極まりないと言わんばかりの男の顔を一笑で済ませる。
男は鼻白んだとばかりに顔を逸らした。
あまり揶揄してばかりではいけないと知りながら、いい体格をした男を好きなように弄べる愉悦からはそう易々と逃れられずに困ってしまう。
しかしそれも彼からすれば迷惑極まりない困惑なのだろうけれど。
「何故小生は、君の事が好きなのかとね。少々疑問に思ったのだよ」
「っ…………知るかっ」
「…そう簡単に顔を赤らめられてしまうと、張り合いというものが無いのだが」
「うるさいっ」
尻尾を逆立て威嚇する姿は正直あまり怖くない。
怖くはないのだが、怖くはないと素直に言うと更に臍を曲げるのだから致し方があるまい。
すまないね、とおざなりな謝罪をすると、心を読んだかのように誠意が感じられないと訴えられた。
やれやれ、なんと我儘な犬である事か。
おもわず吐きたくなった溜息を、あてつけがましくする事は避けて細く長く吐き出した。
「……何故あの御仁ではないのだろうかねぇ」
「………………なん、だって……?」
間抜けな顔を晒す犬。
一体どうした事か、怒っていたのであろう男の顔は今やすっかりそれを翻し此方を危ぶむように見据えていた。
睨むというよりは、縋るというに相応しいその眼をしっかりと見返すと、男は暫く口をもごつかせる。
巨躯な彼がもたついている姿は微笑ましいというには少々気色が悪いやもしれない。
「…どうかしたのかね」
「だ、誰の事だ」
「……小生が訊いたのは、君の事だが」
「違うっ、俺が訊いてるのは、今お前が言った『あの御仁』って奴で…!」
「あぁ…………想像にお任せしよう、と言ったら?」
ニヤリ、か。
もしくはニタリ、か。
あまり性質の良い笑みではないそれで意地悪く言い返せば、男は激しく動揺を示したようだった。
目に見えてダラダラダラダラと汗を流し、その顔色は相当悪く青を通り越して白い。
あまりからかい過ぎるのもいけないとは思いつつ、やはりもう少しとついつい苛めてしまう。
「君が気にする必要性はなかろうに」
「…それはつまり俺には関係ないっていう事か…?」
いよいよ泣きそうに顔を歪ませた男は本当にあの王狼番長なのだろうか。
恋仲というものになってから過ぎた時間は確かに長いが、そんな中ですっかり牙の抜け落ちた狼は、従順な犬のようで、張り合いがないのはある意味事実であった。
しかしそろそろ揶揄を止めねば、大男に目の前で泣かれた場合は心証が悪くなるのは明らかである。
という事はいい加減にしなければならないのだが…
「……」
「っっ……」
「…………駄犬」
「だっっっ……!??!?!」
駄目だ、苛めたくなってしまう。
性格的なものもあるのだろうが、ついつい口をついて出てくるのはこういった言葉の類でしかない。
「君が気にする必要性はなかろうに」
同じ言葉を繰り返す。
しかし今度は彼を弄ぶ為ではなく。
しかしやはり俺には関係が無いと…と落ち込みかけた男に言葉が届くかどうかは謎であるので。
「……」
「…っあだだだだ!!!??」
その頬を指先で思い切り抓ってやった。
駄目だ、やはりついつい苛めたくなる。
いやしかしこの場合に置いては例外ではなかろうか。
人の話を聞かないこの犬が悪いのだ。
「……必要性がないというのはだね」
抓られた場所がヒリヒリと痛むのだろうか。
赤くなった頬を摩る掌の甲に顔を寄せる。
やんわりとした口づけではなく、歯先を軽くたてた。
走ったのは僅かな痛みだろうが、素直にキスをするのも癪に障る。
「何にしても君が好きだという事に変わりはないからだよ」
けれども事の真意だけは素直に述べると、犬の顔は見る見るうちに真っ赤になった。
現金な男だ。
けれどもそのような扱い易さが、自分に好まれる部分であるのかもしれなかった。
何故彼ではなく彼なのか。
何故彼で彼ではないのか。
考えれば考える程、解らずに。
考えれば考える程、興味深い。
考えても解らぬなら口にしてみようか。
もし答が得られずともそれもまた一興。
何故ならば、彼ならばそれも悪くはないなどと思っている自分が居るのだから。
恋は盲目と言うけれど
(ところで君は何故小生なのかね?)
(………………知るかそんな事(照))
(…………ほーぉう?(金糸雀に手をかけつつ))
あの御仁というのは言わずもがな猛兄貴です。
元々憲兵は衆道の趣味はないと思うのですよ。
まぁ誰でもいいかとか思ってそうだけど(外道)
だから同じ男なのに色んな意味で完全な猛でなく、何でワンコなのかなって疑問に思ったりすればいい(はいこれ妄想ね妄想)
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