愛についての相互見解










愛とは依存に等しい。

依存とは独占と同じ。

独占とは優遇に似て。

優遇とは特別である。




そして、特別、とは。






























「君にとっての愛とは、依存か独占か優遇かそれとも特別か。さぁ、どれだい?」


まるで覚えたての言葉をひけらかす幼な子のように、得意げな風体だったかもしれないが、問い掛けはしかしありのままで男に届いたらしかった。
数秒の間は呆気にとられたのか間抜けな顔をしていた彼は、それから難しい顔になる。
そして、此方を値踏みでもする不躾な視線を向けるのだ。
それは自分の問い掛けの真意を図ろうという態度であって、その姿勢は見事に自身の知的好奇心を満たしてくれるものであった。
時折、自分でも答の出ないような問いを目の前の男に投げかける事がある。
それは明確な答を欲すが為のものではなく、ただ単に他者の意見を耳にしたいというソレだったのだ。
だから、彼にとっての愛というものの定義が何であれ自分はそれを咎めたりはしない。
けれど、けれども、彼にとっては、自身が投げかける問いにそれ以上の意味を見出しているらしかった。
その思慮深さは自身にとても好感を与えたのだが、それはきっと、彼自身の矜持が感じられたからであろう。


「…お前にとっては?」


このようにして、答を述べる前に此方の意思を図ろうとする。
傍から聞けばただのオウム返しになり得るかもしれないが、けれども彼の意図は其処ではないのだ。
自身の意図を聞き知って、そうして己の問いに対して正しい答えを導き出そうとする。
それはご機嫌窺いとは少々異なったものであり、ただ彼が此方の意思を尊重しようとしてくれている気遣いばかりは窺い知る事が出来た。
余計な事とは思わない。
むしろ他人が己を気遣うという点に措いては、愉快と言えなくもなかったのだ。


「小生にとっての愛は…そうだな、偶像、だろうか」

「……どれでもないじゃねぇか」

「ふむ……理想、とも言えようかな」

「…だからどれでもないだろう」


選択肢を提示しておいてと、苛立ちを垣間見せる彼にすまないねと笑ってみせる。
けれども決して反省しての謝罪ではないのだ。
そうしてそれを彼も知っているのだ。
だから彼の苛立ちは易々と昇華されやしない。
それを愉快と自分は見つめるのである。
傍から見ればなんとも滑稽ではないか。


「相手を好きだと思うだけで気が済むという者も居れば、好かれねば気が済まぬという者も居る…愛というものは、己の想うものを対象に押しつける事であると思うのだよ」

「……そりゃまた、小難しい考え方をしたもんだな」

「君とて、こうなりたいあぁして欲しいと想うのではないかね?そうして、実際に現実ではそれが難しいと解れば落胆する。人とは、勝手なものだからね」

「お前はそれをしないって言うのか?」

「しない…とは言い切れんが、なるべくしたくないとは思っているよ」


人間とは勝手な生き物である。
そのような勝手な人間に、自分も同じ種であると知りながらなりたくないと思うのはそれこそ傲慢だろうか。


「……それで、君は如何なんだね?」


改めて男を見れば、面白そうでもなく、かといって面白くなさそうでもないなんとも微妙な顔をしている。
自身が厭世的な態度をとると、彼はこうして咎めたいのかどうかよく解らない顔で黙ってしまうのだ。
知っていてそのような話題を提示する自分も自分であるのだが、彼のそういった顔がまた愉快でもあった。
もしかしたら自分は、彼に対してそういった態度を求めているのだろうか。
そうだとしたら、それは己が軽んじている、そして侮蔑もしている人間の利己的な欲求に他ならないのだろう。
それを偶像や理想といった言葉で飾り立てているだけで、本来の欲求は仄暗く、そして重々しい剥き出しの本能であるのかもしれなかった。


「……何だったっか。依存と?」

「依存か独占か優遇かそれとも特別か」

「…………そうだな…全部、か?」


強欲な事だね、と。
湧きあがったのは笑みだった。
よもやそういった答が返ってくるとは思ってもみなかったのだ。
しかし、それもまた面白い答ではないか。
けれどもそれが真理であるのかと疑問に思えばどうにも納得はいかなかった。
それを察したのかどうか、彼の掌が肩を掴み引き寄せる。
腕力は互角か、それとも自分の方が強いのか。
だからこそ己に抵抗の意思が無いのなら、男の思うように自身の身体は男の腕の中へと誘われるのである。


「依存して欲しい。独占したい。優遇してやりたい。特別にして欲しい」

「…………随分と、自分勝手で、欲求まみれな愛だ」

「そういうもんだって言ったのはお前だろう」


依存して欲しい、などと。
依存を望まぬ者にとってはなんと無茶な要求であるのだろう。

独占したい、などと。
縛られる事を嫌う者にとってなんと迷惑な欲求であるのか。

優遇してやりたい、などと。
差別を厭がる者にとってはなんと要らぬ世話であるのだろう。

特別にして欲しい、などと。
とうに特別な者が居る者にとってはなんとくだらない夢か。


「…………しかし、まぁ、悪くはない」

「そうか。なら、良い」


何が良いというのだろうか。
自分が悪くはないと言っただけだ。
ただそれだけの事であるというのに、彼は至極幸福そうに笑って見せるのだ。
元々鋭い目つきがほんの少し緩むだけで人懐っこい印象に変わる。
その変化を見るのは、存外悪くはない。


悪くは、ないのだ。


「…………君の言うそれ等は、小生には少々重すぎる気もするがね」

「安心しろ、全部なんかやらない」


半分はお前のを貰うからな。
そんな風に言いながら、彼は当然の如く自身の口先に噛み付いたのだった。


成程奪って奪われてそれこそが利己的な本質を持ち得る人間の愛なのだと。

珍しくも納得のいく答を男から与えられたので、気をよくした己は男の首に腕を回す事にした。





























愛についての相互見解

(……どうでもいい事だが、君の場合は毟り取っていくという方が正しい気がする)
(……俺はお前に毟り取られてる気がしてるが)
(……お互い様という事なのだろうかね?)
(……それで良いんじゃないか?)



































はい、何を言いたかったんでしょうね!(貴様)
憲兵って世間を斜めに見てそう。
でも逆にただただ公平に見てても良いです。
そんな憲兵をワンコは可哀相だと思っちゃったりなんかして。
憲兵は色々足らない所があって、それをワンコが補ってくれたらいいなと思います。
うん、捏造だけど☆(いい笑顔)




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