奥様は番長










ある所に、金剛晄という男が居りました。

ある所に、秋山優という男が居りました。





二人はごく普通に出会い
(交換ノートに思い出を書く必要性は無いよ?)
(…………俺は、迷惑か?)

ごく普通に恋に落ち
(ぇ…っとぉ……どちらかと言えば、迷わ)
(迷惑じゃないんだな!)

ごく普通に付き合い
(ホンット都合のいい耳っていうか脳してるよね君は!)
(よし今すぐにでも家族を増やすぞ!)


ごく普通に結婚しました
(待った待った待ったぁ!)
(何だ?恥ずかしいのか?大丈夫だ怖くも痛くもしない)

しかし奥様には秘密があったのです
(既に怖いんだよ!!)
(……何が不満なんだ)

なんと、奥様は
((やばいやばいやばい何とかしないとえーっとうーんと…そうだ!)……じ、)
(じ?)




奥様は、番長だったのです
(実は僕、バージンロードはバージンで歩くのが夢なんだ…)
(!!)




…始まります。
(だから…もう少しだけ、待ってて…?(これなら手も出せないだろ…!))
(……!!(血涙))










家族全員で団欒する為の、大きめのテーブルの端で、ジッと一点を見つめる。
そこにあるのは小さな箱であり、中に入っているのは当初金剛から押し付けられた指輪であり、ちなみにそれはすぐに売り払ったものであり……つまりはここにある筈のないものな訳で。だから、つまり。


(………か、)


買い戻してしまった。


いや、たまたま質屋に行く用事があって、たまたまそれを欲しがる人間が居て、たまたま交渉が耳に届いて、たまたまお金を持っていたから、まぁ買い戻しても良いかなと…そう思っただけであって。
決して元から買い戻すつもりで質屋に行った訳ではない、断じて違う。


(いやこれはだからその…金剛にバレた時の事を考えてというか……!)


そうだ、うん。もし売ったなどと言われたらあの男とていくら何でも怒るだろうから、その防護策というかなんというか。
断じて悲しそうな顔をされたら困るとか流石に売り払うのは可哀想だったかなとかそんな事を考えていた訳ではない。絶対にない。
ただ、金剛がポツリと指輪を気にするような事を言い出したから、ちょっと…ちょっと位なら、つけてあげても、減るもんじゃないし、良いかなぁとか、ただ、それだけで。


「…僕って金剛の泣きそうな顔に弱いんだよねぇ」


自分らしくない行動に頭を悩ませながらも、もう買い戻してしまったのだから仕方がない。
とにかく手元にあるのだからしまっておくのも勿体ないし、だから、つまり……!
キョロキョロと周囲を見回す。右よーし、左よーし、うん人影は無いな。
確認を終了し、改めて小箱に向き直る。
一定の所まで押し上げると、あとは自ら開いていく蓋の裏側には金糸でイニシャルが縫い付けられている。
見掛けによらず意外とキザらしい。
気恥ずかしいものに何だか落ち着かなくて、控え目に存在を主張している細いシルバーリングを指先で摘みあげた。
室内の灯りに反射してキラリと光るそのリングの内側にも、やはりイニシャルが彫られている。先程と違うのは、彫られたイニシャルが自分ではなく金剛のものであるという事だ。
つまり、金剛の方には僕のイニシャルが入っているのだろう。


(…どこのバカップルだよ…!)


事実に突き当たれば脱力するしかなく、夜だというのもお構い無しにテーブルを叩いて叫び出してしまいたくなった。


「…………ぷっ」


あんな強面のクセにロマンチストでキザでちょっと頭のネジが足りてない猪突猛進な男が、どんな風にこれを買ってイニシャルの注文までしたのかと考えると笑ってしまう。


「ふ…ははっ……あぁもう、仕方ない奴なんだから」

「誰の事だ?」

「わぁ出たぁっ!!」


ヌッと突如現れた金剛にみっともない悲鳴をあげながらも慌てて小箱を隠した。
僕にしては少々あからさま過ぎる引き攣り笑いで、金剛に向き直り後ろ手に隠し持ったそれを金剛が見逃す筈もなく、納得いかなさそうな顔で腕を組んで見せる。


俺はお化けか何かか何を隠した仕方がないって誰の事だ浮気か泣くぞ

お化けより怖いし何も隠してないし浮気以前の問題だし最後のはもしかして脅しのつもりなのそれっていうかマシンガントークで迫ってくるな!!

「…俺が泣いても良いのか」

「(うっ…)むしろ僕に何の不都合があるのかな」

「俺のそういう顔に弱いと言ってただろう」

「ちょっと待てどこから見てた?!」


確かに先程周囲を見回したのだ。
透明人間にでもなる術を身に付けたとでも言うのか。そうでもなければこんな面積も体積も常人の何倍もある邪魔な巨漢を見逃す筈がない。
胸ぐらを掴んで揺さぶれば、見てた訳じゃないと不満げな声が返ってくる。
という事は、外で聞き耳でもたてていて、そっと背後に近づいてきたのか。
プライバシーの侵害、一歩間違ったら身近なストーカーだと、きつく言い含めてやろうとする前に、尚も金剛が口を開いた。


「テーブルの下でお前の脚を眺めていたら聞こえてきた」

いい加減警察に突き出してやろうかこのド変態が

「警察?何かあったのか」

現在進行形でストーカーが目の前に居るよ

「ストーカーだと?!俺の優を舐めるように見つめるとはいい度胸だ」

目の前って言ってるの聞こえないのかよっ!あと舐めるようにとかわざわざいやらしい解釈するな!!」


その辺のストーカーよりタチが悪い。というかガチでキモい。
今度からは椅子に座る時にはテーブル下に気を付けるようにしなければと誓いも新たに意気込んでいると、こちらの気も知らない金剛が「それで?」と首を傾げてみせた。
本来なら意地でも教えてやるもんかと口を閉ざす所だが、金剛の手にはいつのまにやら問題の小箱が握られている。
掴みかかった時に勢いあまって手放してしまったのだろうか。
いやそんな事よりもとにかくこれはピンチに他ならない。


「何だ、隠す必要無いじゃねぇか」

「いや、そのっ…」

「サイズが合わなかったか?」

恐ろしい位ピッタリだよ


戦って、肩を貸して貰った時にしか手には触れていない(しかも手袋越しだった筈)のに、何でかジャストサイズだという事は、手渡された時に知っている。
何でサイズが解ったんだ、なんて訊いてみた所で触れば解るとかまた人外な発言が返ってきそうなのでそこは肯定で貫き通す事にした。
大体、指輪自体に問題など元から無いのだし、仕方がないという言葉がかかる対象は金剛本人であるのだからわざわざ話す必要性など無いのだ。
それでもそんな事を言った所で全部知りたがるのがこの男なのだが。


「えーっと…そう、あれだ。君ってホント僕のこと好きなんだなって思っただけだよ」

「あァ、好きだぞ?」

「…………」

「………優?」


苦し紛れに解りきった事実を述べただけであって、気持ち悪がるならともかく恥ずかしい事なんて何もない。
なのに金剛がサラリと。
いつもみたいなごり押しじゃなく、至極当然の事のようにサラリと返すから。


「っ……ばぁ――かっ!!」

「は?おい、優?」

「寝る!ガスの元栓と戸締まりしてね!!」

「あァ、それは別にかまわ」

「おやすみ!!!!」


ポカンとマヌケ面をする金剛を放置して、ズカズカ大股で寝室へ向かう。
部屋に入ってドアを閉めるなり、脚に力が入らなくなってしまって仕方なくそのまま壁に体重を預け床までずり落ちた。


(何だこれ何だこれ何だこれ!!?!)


お風呂でのぼせたみたいに顔が熱い。
心臓が壊れたみたいにバクバクうるさい。


(何これこんなの違う変だこんなの)


どさくさ紛れに金剛から奪い返した小箱をギュッと握り締める。


(全部金剛が変なんだ僕は正常なんだから)


好きなんてあんな真っ直ぐに言われたのは弟妹達以外からだと初めてで。

だから、戸惑ってるだけなんだ。きっと。















step 8
嵐の前にも嵐

(おい、熱でもあるのか?)
(…っ…あぁうん、そうかも)
(…………うつすと早くなお、)
(もう治ったさっさと自分の部屋戻ってというか勝手に入ってくるなこのストーカー!!(ホラねやっぱり何でもない!))























指輪買い戻す優が書きたかったんです今までずっと(ぶっちゃけた)
さ、次回からマシン番長編!
似非シリアスかそれとも原作冒涜もいい所なギャグになるかはまだ解らない!!(無計画過ぎる)




あきゅろす。
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