奥様は番長










ある所に、金剛晄という男が居りました。

ある所に、秋山優という男が居りました。





二人はごく普通に出会い
(さて一つステップを踏んだ所でだ)
(……何か凄い嫌な予感が)

ごく普通に恋に落ち
(そろそろ一緒の布団で寝ても良いんじゃねぇかと思うんだが…)
(うん何か色々飛び越えたね)

ごく普通に付き合い
(…文句がありそうだな)
(交際は清く正しく美しくって言うだろ…僕は、君とちゃんと付き合いたいな。一緒の墓に入るんだし)


ごく普通に結婚しました
(そこまで考えてくれてたのか!)
((かかった!)うん、だからまずは交換ノートから始めようよ)

しかし奥様には秘密があったのです
(交換ノートから…(頬にキスから随分降格されてないか?))
(……駄目?)

なんと、奥様は
(いや、駄目というか…)
(僕、君の事をもっとよく知りたいんだ。活字で)




奥様は、番長だったのです
(そこまで俺の事を…!お前の為なら何冊だって書くぜ!)
(そう、ありがとう!(…意外とうまくいったなぁ))




…始まります。
(とりあえず、手始めに二人の思い出を書くぞ)
(思い出?)
(おう。という訳だから、そろそろ初夜を…)
(………じゃ、僕買い物があるから(逃))













「一緒に入るんだろう」


いや確かに言ったけど、と誰に対してか解らない前置きが頭を過る。
昼食、いや規模的に言うならばカレーパーティーと言っても過言ではないものを終えて、やっと帰ってくれるのかと思ったら夕飯までちゃっかり食べて行った番長達を見送り、早く片付けて就寝してしまおうと思ったら今度は幸太達を寝かし付けた金剛の第一声に硬直してしまった。
昼と夜の合間に弟妹達と戯れていたから、汗もかいているだろうしもう一度風呂に入ったらと勧めた自分が悪いのか。もしかしなくても自ら墓穴を掘って丁寧にも棺まで用意してしまったのだろうか。
金剛は表面上だけでも平静を装っているつもりのようだけど、目の輝きようが普段と違いすぎる。
怖い、正直に言わせて貰うがマジで怖い。
これまでのように無理矢理浴室に連れ込まれたり、二人きりだからって変な空気を作って迫ってきたり、とにかく力業なら力業で抵抗できるのだが、無言の内に期待してますと訴えられるとどう反応したものか解らなくて困る。
確かに自分は言った、今度背中を流させると。でもそれはあくまでも今度であって、今夜ではない筈だ。少なくとも、自分はもう少し間が空くものだと思っていたし。
これはあれか、また今度ね、なんて言っても逃げられない空気なのか。


「…………優?」


だから二人きりの時だけにしろと…って、今二人きりじゃん。ぇ、何もしかしなくても僕ピンチ?
やばい、僕にとってのピンチは金剛にとってのチャンスだ。
二人きりだという事実にこいつが気付く前にさっさと寝てしまわなければ、僕の身が危ない…というか、確実に食われるっっ…!!


「…い、良いよ。入ろう」


多少…いやかなり危険な賭けだが、さっさと寝る為には金剛の言う通りにするのが一番効率が良い。
金剛には先に湯舟へ浸かっているよう言い渡し、片付けもそこそこに下半身をガッチリとタオルで巻いて浴室に入る。
本来なら野球のキャッチャーの如く、完全防備で向かいたい所だが、場所とその用途がそれを許しはしなかった。
孤児院として作られた施設の為、浴室は出入口こそ狭いが中は銭湯の風呂釜より少し小さい程度で、一般家庭からすれば充分な広さがある。
充満した湯気の中、見えない敵(変態)に注意を払い、恐る恐る進んでいくと、大きな影が湯舟の方に薄らと浮かび上がってきた。
何かのホラー映画の如く、湯煙の中に佇んでいたりするのではとビクビクしていたのだが、金剛は言い付けをしっかり守っているようだ。
何度も同じような事を考えては後悔するけれど、金剛は僕以外の事には割とマトモというか普通に節度を持っている。
僕を好きだとか何とか言っては異常な方向に暴走するけれど、それは多分、彼にとって恋というものが初めての事だからではないだろうか。
そう考えてしまうと、ちょっと歪でも純粋で、真っ直ぐ過ぎるからこそ伝わりにくすぎる好意の表現方法も、可愛いな、なんて考えてしまう。
もはや一人で否定するのも疲れてしまったが、何かもうその辺は躾のなってない動物をその場の流れで世話していたらすっかり懐かれてしまったものとでも思って諦めるしかない気がしてきた。
盲目的な愛情のベクトルは、もはや雛鳥の刷り込みレベルである。
これでもしも僕か金剛が女だったら事態はもう少しシンプルだったろうに、でかすぎる雛鳥はよりによって同じ雄を選んでしまったというのだから不思議な話だ。
というか、雄雌の判断位、本能でつけて貰いたい。むしろ一目で男だと解るだろうに。
思いきり溜息を吐きたい衝動をグッと堪え、湯舟に爪先から入る。
遠目には湯気で解らなかったが、金剛は何故か頭を抱えて項垂れていた。


「…金剛、どうかした?」

「…………晄」

「あーはいはい。で、何?湯中りでもしたの?」


ちゃっかり名前呼びを要求されたので、そこまで深刻な状況でもないかとややホッとしながら肩まで湯に浸かる。
一体いつ買ってきたのか、水平線をプカプカと小さなアヒルが三匹セットで浮かんでいた。
まぁ別にうちの家計からちょろまかしてないなら構わないし、アヒルというのが金剛の見た目的にアレだったので敢えて突っ込むまい。


「…………」

「…………」

「……何でだ」

「は?…ごめん、何が?」


長引いた沈黙に、暑くなってきたし、そろそろ身体を洗いに出たいなァなんて思っていたら突然の質問。
主語に欠ける問いかけにはどうにも答えようがない。そもそも、金剛は頭の中で会話を進めすぎだと思う。やはりその辺りは躾直さないとこれから先この男でなく周囲の人間が苦労するだろうし、その中には勝手に自分も引っ張り込まれているという嫌な確信があった。
とにかく話を戻すと、金剛は信じられないと言わんばかりの気迫を込めた真剣な顔でブルブルと震えているのだが、どうせまたバカな事なんだろうと察しがついているので肩先に体当たりしてきたアヒルを手慰みにしながら答を待つ。
すると、


「何でだ…何でタオルなんか巻いてるんだ勿体ねぇ!

頭から湯に最低一時間浸かれ変態


やはりバカな事だった。というか、勿体ないって何だ、勿体ないって。
そりゃ女の子と混浴、とかなら僕だって男なので気持ちは解らないでもない。
でも男の裸に何の楽しみを見い出せるのかは全く理解できやしないし何よりしたくもなかった。しかもその対象が自分ともなれば心穏やかでいられる筈もなく、とにかく早く、できるだけ早く、なるたけ早く、早く早く出なければっ!…と切実な逃走願望をどうにか抑え込み、あくまでもいつも通りを装って湯舟から立ち上がると、落ち込んでいたのか悔しがっていたのかとにかくかなりテンションが低かった筈の金剛の目が、そりゃもうガッツリとこちらを見ているものだからつい反応してしまった。
本日二度目のフリーズタイム…じゃなくて、この男の目は明らかに下半身を見ている。


(っっ…!いや落ち着け僕。男同士なんだから何も気にする事なんて無いじゃないか。むしろ過剰反応したら金剛の思う壺だ…!)


「……何、かな」


落ち着け落ち着けと何度も自己暗示をかけ、声の抑揚に気を付けて問うと、金剛が神妙な顔でいや、と呟いた。その間にも、平常心だ僕落ち着け僕頑張れ僕何を聞いても負けるな僕、と何度も何度も何度も、しつこく自己暗示を繰り返していると、真実はアッサリと打ち明けられた。


「タオル巻くのも良いかもな」

「は?」

「水気含んでピッタリ張り付いてるからラインがくっきりと…」

沈め変態二度と戻ってくるなぁぁあぁああぁぁ!!


自己暗示は実に呆気なく解けてしまった。何が何に張り付いて何のラインがくっきり出ているかなんて聞くまでもない。むしろ聞きたくない。
長い事浸かっていた上に風呂の熱気も相俟って顔に熱が集まっていく。
のぼせたのが解っていても、ライン云々と言われた直後に何の躊躇いもなく出る人間が居るだろうか、いや居ない(反語)
あからさまな視線から逃れる為にバシャンッと盛大な音をたてまた肩まで浸かると金剛の目が丸くなり、そして次には悪戯小僧のように目を細めて笑った。
あァ、もしかしてある意味この変態の術中にハマってしまったのかと気づいた時にはもう遅い。出るに出れないこの状況下、長引けば先にダウンするのは自分に決まっているではないか。


このまま耐久勝負→のぼせる僕→万が一にも意識がとぶ→一瞬で食われる


無理だ!それだけは無理!!
何か他の道は無いのか他の道はっ…?!


諦めて出る→背中を流すからと追ってくる金剛→背中を向ける→一瞬で食われる


(最後変わってないじゃん!同じじゃん!!)


一人で考え込んでいる内にどれだけ時間が経ったのか、頭の中がぼんやりとしてきた。
このままでは最初のコースを問答無用で選ばされると焦っても良い考えは浮かばず、逆に余計な緊張感が血の巡りを良くし過ぎて暑くて熱くてグルグルしてしまう。
大体何でこんな事になったんだか。
僕も僕で断れば良いのに何を律儀に付き合ってるんだか。


(…だって金剛があんな顔するから……)


断ろうとした時の悲しそうな顔を思い出すと可哀想というか見捨てられないというか。
とにかくあんな金剛はあまり見たくない。
…って、何かこんな考え方ってまるで僕が金剛を、


「優?」

「っ、ぅわ……」


水に濡れて額に張り付いた前髪を金剛の指が除ける。
同じ水温の風呂に入っているのに、金剛の指はヒンヤリとしている気がした。
それは多分僕の体温が異常に高いからだ。


「大丈夫か?顔が真っ赤だ」


こんな時ばかり真っ当な事を言うな。
というか近いよいつの間に近づいたんだよ。
触って良いなんて言ってない。
頭に浮かぶ文句は口にできず自分でもびっくりする程されるがままだ。
顔が近い、距離なんて殆んどない、頭がクラクラして、それでもって凄くドキドキしてる。
もしかして、もしかしなくても、まさかこれってあれか。


「……優?」


(…あ、ヤバ……)


世界が回る、視界が回る。
目眩が襲ってくる。
そうだ僕はのぼせてるんだ。
だからこんなに頭がクラクラして動悸が激しいんだ。
ははっ、何がもしかしてで何がまさかなんだか。


僕は別に金剛なんか好きじゃない、これはのぼせてるだけなんだから。


「おい、優っ!」


わー、珍しく金剛が慌ててるよ。
何かもう良いや、何か知らないけど頭がボーッとしてるし。
慌てる金剛とか、他の番長は見た事無いだろうし、何か知らないけど役得って気がするし。


僕は別に金剛なんか好きじゃないよー、これはのぼせてるだけなんだからねー。


(……裸見られるかな食べられるかな……何か色々もう良いやー)


抱き留めてくれた腕は女の子みたいな柔らかいものじゃなく硬い筋肉の塊でも。


その時の僕は、不覚にも安心してしまったのである。





















step 7
ツンデレ本領発揮

(とりあえず風呂場から出た二人)

(………(タオルを取っても良いものだろうかいやしかし意識のない時に無断でそういう事は…いやしかし…))
(…うぅ…ん…(何か嫌な気配に魘されてます))























そろそろです(ねぇそれいつから言ってるの)
金剛頑張れ押せばいけるぞ!(コラ)
ちなみに次回も原作には無い部分を書きます多分。
あと、一回…だけ…ね?(汗)




あきゅろす。
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