崩れ始めたのは、






初めて、男と、寝た。
初めて、男に、抱かれた。

思っていたよりもずっと痛かった。
思っていたよりもずっと悦かった。

あぁけれど、何故だろう。


あの熱を知らなければ良かったと、今はひたすらにそう思ってしまうのは。






























「……………………はぁ」


猛と外に出てから二日、顔を出しもしなければ声をかけにも来ない男に少々時期が早すぎたかと溜息をつく。
色のない自室は、あの男が存在しなければ必要以上に広く感じてしまう。
腰かけていたベッドサイドから立ち上がり、本棚から一冊の本を手にまた同じ所へ腰かけた。
本を読んでいる間は、それだけに没頭できる。
余計な事など考えずに済む上に、知識も増える便利なものだ。


(…………余計な、事か)


創始者の息子という権威だけでなく、実力も申し分ないあの男を手懐けようと目論んだのは計画に自身が組み込まれそして男の存在を知った直後だった。
見た所、創始者なる男に比べて精神的なものが安定しない今ならば、きっと容易につけ込める。
計画が開始され実際に潰し合う時になり、躊躇する一瞬の隙さえ作れればそれだけで成果があるというものだと。
流石にこの身を差し出す事にまでなるとは思っていなかったが、相手がそれを御所望ならば勿体つけずに差し出してしまえば良いのだと。
そうだ、そう考えた筈なのだ。
自分の為にと車を用意し、外出の許可までとってきたあの愚かな男を、確実に手に入れる為の手段でしかなかった筈だ。
そう、愚かだ、あの男は。
手懐けられたという実感はしていた。
妙に執着されていることも知っていた。
だから、猛が自分に熱をこめて触れたあの時、身体を繋げる事でこれまで以上にあの男が自分に執着し、自分を欲す結果になる事は解っていた。


(…それで満足する筈じゃないか)


ならばこの虚しさは何故やってくるのか。
ならばこの罪悪感は何故感じるのだろう。

自身の講じた策は着々とその成果をあげているというのに。
髪を撫でた指先の熱が。
肌を撫でた手のひらの熱が。
背中に重なった胸板の感触が、その熱が。


身体の隅々までもを侵食し、じわじわと追い詰めてくる、あの、




(…………何を、考えてるんだ)


本来の自分は、男に抱かれる趣味など無い。
男を好きになる事など、無い。
これは、計画を勝ち進む為の策でしかなく。
それ以上でも、それ以下でもない筈で。
余計な事を考えている暇があるならば、より自分が優位に立てるようにしなければ。
そうだ、考えろ。立ち止まるな。考え続けなければ。


(…他の候補者にも有効かもしれない)


こんな、閉鎖的な空間では女を調達できる筈もないだろう。
身体を繋げずとも、欲を吐き出す場所を提供してやればそれは取引として成立するのではないだろうか。
それならば、施設の職員にも言える事だ。
地下施設についても元より、他の候補者の情報を手に入れる事もできるかもしれない。
もう既に一度、想ってもいない男と繋げた身体なのだから、躊躇う事などないだろう。


(そう、想っても、いない)


パラパラと紙が捲れる。
何度も読んでいたせいで痕の付いたページは、ある人間の見解による身体を繋げる意味が書かれていた。
元々一つだったものが二つに分かれ、その二つが一つになる事を希い行う事がセックスなのだと。
何とも神秘的でそして何とも馬鹿らしい考えではないか。
だって、身体を繋げても、こんなにも思っている事は違うと言うのに。
あの男がどういう意図で自身を欲するのかは解らないが、それは恋だとか愛だとかそんなくだらないものではない事を祈るしかない。
そこまで愚かな男だとは、思いたくもない。
しかし自分はどうなのか。
自分はどういう意図を持ってして、あの男を欲しいと思ったのか。
いや違う、欲しい、ではない。
あの男が居る事が、計画の中で優位に立つ為には必要な前提条件なのだと判断しただけの事だ。

それだけの、事。










だから、もう一度あの熱を渇望するのは、ただの錯覚なのだ。































崩れ始めたのは、

(思えば、それがこの時だったのかもしれない)



































初夜(笑)直後に葛藤中な秋山君。
感情なんてそこには挟んでないと必死に言い聞かせてます。
で、猫目な候補者とか施設の職員とかを誑しこみ始めます。




あきゅろす。
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