プレゼントは遅刻中






12月25日、クリスマス。


前日の24日も含め、大抵は仏教徒の日本人が即席クリスチャンになってパーティーを行い、プレゼントを交換しては笑って過ごす行事である。
恋人が居る者にとっては大事なイベントでもあり、前々から準備をして如何に己の恋人を喜ばせるか考える事すらある種の楽しみでもある陽気な日…なのだが。


「……金剛」

「……」

「…金剛」

「……」

「金剛ってば」

「……」


その恋人が、平素よりずっと機嫌が悪く、拗ねている場合はどうすれば良いのやら。




















事の発端は11月の始めまで遡るが。
卑怯番長こと秋山優の家に、ナイスバディな二人の美女が訪問してきたのが全ての始まりというやつで。
マジック以外の事にはてんでからっきしな道化番長こと朝子と夜子が秋山の家を尋ねたのは、彼女達にとって恋人と過ごすのは初めてのクリスマスの事であり。
簡潔に言うならば、彼女達は手編みのプレゼントを贈ろうと決めたものの、上手くいかず秋山に泣き付いてきたのだ。


「…………何で僕?」


こういう時に頼るのは、普通なら男でなく女友達の筈だ。
呆れと皮肉を混ぜ、言外に友人を作れと促してみたものの、効果は期待できないだろうと秋山は思った。


「アンタ料理とか裁縫とか上手いじゃない」

「…だから、編み物もできると思って」


朝子が強気に言ったかと思えば、夜子が小さな声で補足する。
彼女達が女友達を頼らず、また作ろうともしないのは、秋山が原因であるとも言えるのだった。
アルバイトで料理教室のアシスタントをしている所、壊滅的な料理を作り講師を青ざめさせる二人に出会ったのが運の尽き。
以来、家庭的な事で問題があると何かと相談を受けるようになってしまったのである。


「……あのねぇ」


美人に頼られて悪い気はしないが、その内容は全て男としてどうなのかと思うものばかり。
料理に裁縫、洗濯他エトセトラ。まるで花嫁修行をさせる姑のようなポジションは正直あまり嬉しくない。
けれども事実として、秋山は編み物ができないという訳ではなかった。
この時期は特に冷え込むので弟妹達に防寒具をこさえるし、サンタクロースが来た時の為にと毛糸の靴下だって秋山が編んでいる(この場合、サンタクロースとしてプレゼントを忍ばせるのは秋山の役目なのだが、弟妹達にはバレないようプレゼントの比重を問わず靴下の大きさは均一だ)
その上、恋人の為に頑張って手編みを決断したその乙女心を考えると、できないと嘘を言うのも無理だと切り捨てるのも躊躇われた。


「…無難にマフラーとかで良い?」


結局、渋々ながらも最後には了承しているのだから、自分も随分とお人好しになったものだと、秋山は苦笑するしかなかった。














さてさて、教えるとは言っても編み物など大抵は参考の本を凝視しながらするものだと考えがちであるが油断は許されない。
彼女達の料理の腕からして、編み物にしても相当な苦を要する事は容易に想像ができ、そしてその想像は見事に現実となったのである。


「……絡まっちゃった」

「あー…そこまでほどいてやり直しだね」

「卑怯番長、ここだけど」

「あーはいはい」


ほどいては編みほどいては編み、どうにか形になる頃には、クリスマスイブの更に前日になっていて、片手間に家で行うパーティー用の買い出しに、防寒具や靴下の作成など、とにかく忙しかった秋山はそれでも二人のマフラーの指導を最後までやりきったのだった。


と、ここまでは良いのだ、ここまでは。
問題はその後だった。










12月24日、クリスマスイブ。
剛力番長こと白雪宮の邸宅で行われたパーティーでは、赤くなりながらもプレゼントを差し出す美女と、同じく赤くなりながらも嬉しそうにそれを受け取る男の姿が見受けられ、秋山は肩の荷が下りた事もあってかホッと息を吐き微笑ましい気持ちでそれを眺めていた。
すると、


「……おい」

「ん?何?」


いつの間に隣に来ていたのやら、金剛が自身を見下ろしてきたので、秋山は首を傾げて用件を問いかけた。
どことなくソワソワしているように見えなくもない金剛の挙動に、更に首を傾げる。


「どうかした?」

「……いや…」

「?」

「…………何でもねぇ」

「?そう」


その時、秋山が金剛の物言いたげな口振りをもう少し気にかけていたならば、もう少し状況はマシだったのかもしれない。
その日は一日ソワソワしていた金剛が、翌日の夜はろばろの家で行うパーティーに来ても未だ煮えきらない態度のままで、秋山は首を傾げ頭を捻りながらも結局深く問う事はせず、パーティーを始めてから数時間後になって、それを後悔するのだった。










そして現在、弟妹達を寝かしつけて漸くできた二人きりの時間に、秋山は眉尻を下げ困惑していたのである。
ソワソワがイライラに変わったのは(24日の夜の内に入れておいた)サンタクロースからのプレゼントを弟妹達が見せ合っている所からだったか。
そして最初の異変も、朝子と夜子が恋人にプレゼントを渡している時だった。
状況証拠から何となく原因を察した秋山だが、あまり当たって欲しくはない予想だ。


「……金剛、何が不満なの?赤ん坊じゃあるまいし、黙ってられても言ってくれなきゃ解らないじゃないか」

「…マフラー」


とにかく聞いてみなければ、と秋山が切り出せば、金剛がポツリと呟く。
そしてその言葉は、寸分違わず秋山の嫌な予想を確実なものとした。


「……プリンじゃ、嫌だった?」

「違う」


金剛用に出した特大プリンは、生クリームもたっぷり乗せたし、サクランボだってつけた豪勢なもので、秋山にしてみればそれがプレゼントのつもりだったが、問い詰めるような口調にはなるまいと努めて問えば、すぐに首が横へ振られる。
では一体何を拗ねているのか。マフラーが欲しかったのかと、ストレートに訊いてみるべきなのかもしれないが、それで頷かれたらプリンを作った努力は無駄となってしまう訳でなかなか言い出せない。


「……道化番長達が、」

「うん?」

「…お前に習ってマフラーを編んでたから……俺が勝手にその気になっちまっただけだ…」


項垂れる背中にはどこか哀愁が漂っている。
つまり、彼女達に教えつつ、秋山自身も編んでくれると期待していたと。
24日に貰えなかったのは番長達の前だからで、きっと今夜貰えるのだと。
プレゼントに不満は無いが、期待が膨らみ過ぎてしまったのだと。


「…だから、お前に怒ってる訳じゃない」


いやそんな切なそうに言われても、と秋山の頬が引きつる。
男が男に手編みのマフラーを贈るなんて、第三者からすれば寒い、寒すぎる。
流石にそこまで頭が回らなかった秋山も、全てを知れば金剛の奇行に納得はするが同意はしかねるのが実情というか心情というか。


「……」

「……っ…あのさ」


再び出来上がりそうな沈黙に慌てて口を開く。
すっかり意気消沈した金剛は力無く肩越しに振り向いた。


「あのっ…毛糸って、意外と高いんだよねっ」

「………………」

「それに君でかいから毛糸の量も半端じゃないしっ」

「………………」


追い討ちでもかけたいのかと、金剛の目が恨めしそうなものになる。が、秋山の顔色が見る見る内に赤くなっていくので、それはすぐに瞬かれた。


「…………秋山?」

「っだから……ちょっと待って貰うけどそれでも良ければ…少なくとも、年内には渡せると…思、う…」


最後の方は殆んど蚊の鳴く声のように小さく、秋山は自身の言葉を思い返し、こんなの僕じゃない、と羞恥から身悶えている。
対する金剛はと言えば、それはそれは現金にも顔を輝かせ、秋山を抱き締めていた。




















プレゼントは遅刻中

(…って、君は僕に何かくれないの?)
(あぁ、明日届く)
(…何買い寄せたの)
(掃除機と、洗濯機に食器洗い機。壊れそうだと言ってただろ)
(……ホントにマフラーだけで良いの?)


















貰いすぎて申し訳なくなる秋山(笑)
姉妹のお相手はお好きな方をご想像ください!
一日遅れですがメリークリスマス!!




あきゅろす。
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