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 早朝と言うには遅いが、しかし平均的な登校時間からすれば遥かに早い時間帯。
 番長の時とは違う、規定の学ランに身を包んだ秋山は、早朝独特の寒気に肩を竦めた。先程まで新聞配達に精を出していた為か身体はほんのりと汗ばんでいたのだが、だからこそと言うべきか、日の出からそう時間も経っていない冷えた空気は常よりも余計に寒々しく感じられる。
 人通りの全く無い路を進み、常時閉じられている裏門が視界に入った所で今更思い出したように喉の奥から眠気がせり上がってきた。時間帯を省みても人目を憚る必要が無いのだからと遠慮なく欠伸をし、肩に引っ掛けていたボストンバッグを無造作に学校の敷地内へ投げ入れる。それから足場を慣らすように爪先で地面をトントンと叩き、門の上部に腕を伸ばすとそこへ自身の体重を掛け腕力のみで難なく門を飛び越えた。
 軽やかに着地し、先に投げ入れたバッグを拾い上げれば、秋山の足は綺麗に整備された新校舎ではなく、早朝の時間帯でなくとも教職員とて寄り付かないであろう古びた旧校舎へと向けられる。
 建てつけの悪い扉を足で行儀悪く蹴りつければ目に見えて埃が舞い落ちていく。
 電気を通してもいない校舎内を改めて見渡した。
 古びた板張りの廊下は、一見するだけで一歩足を進めた途端踏み抜けてしまってもおかしくないと思える。新設したばかりの校舎へ未だ運び入れていない教材があるとは言え早々人の出入りがあると思えるだろうか。
(…我ながら、よく成功したと思うよ)
 以前、今や秋山自身がサポート支援し、尚且つ浅からぬ関係となっている男をこの旧校舎に誘い入れ爆発に巻き込んだ事があったが、彼の男の鈍感さというか警戒心の無さを今更ながらに疑問視する。
 足を進める度に軋む廊下の音に紛れてちゅんちゅんと小鳥の囀りが耳に届く。外部とはそう気温差もないと言うのに人の手が入っていないが故か、曇った窓硝子からは漸くその役目を思い出したように太陽の光が射しこんでいた。












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