Buonora早朝
鳥の鳴き声が、遠くで聞こえた。
人の気配がする。
さわやかさなど微塵もない気分で、獄寺はぼんやりと目蓋を上げる。部屋を首だけで見回すと、やっぱり思っていた通りの人物がいた。
「ん? 起きたんか?」
寝ていた俺に気を遣っていたのか、うす暗い部屋の中でも目立つ蒼色の髪。そういえば何日か前から俺の家に居候しているヤツだ。
「…出かけんのか?」
いつもならここで悪態の一つや二つ吐くのだが、今日はそれすら面倒くさかった。きっとまだ頭が完全に起ききっていないからだ。
アルトもそのことに気がついたのか、一瞬クスリと笑った。
「セレネと十代目んとこ。今日は"勉強会"ていうのやるんやろ?」
なんだ、だからそんなに早い‥‥
って!!
「勉強会!? 十代目の家でか?!」
一気に目が覚めて飛び起きた。
さすがにそれにはちょっとアルトもビックリしていたが…
「そ、そうや。あと武も」
なに! 山本だと?!
…寝ボケてる場合じゃねえ!!
「オレも行く!!」
獄寺が布団から飛び起きて出掛ける支度をするまで、アルトはただぼうっと床に座り込んでいた。
別に待ってろと頼んでもいないのに、だ。
とりあえず軽く朝飯を…と、そこでひとつ獄寺は思い出した。
「アルト、朝飯は?」
「んー…牛乳ちょっと貰ったで」
アルトと数日、寝食を共にして、気付いたことが二つ
「オマエなぁ…」
「なんや?」
一つはこいつの左目。
呆れる俺を、窺うように見つめてくる右目とは逆の、眼帯の下。
寝るときは眼帯を取ってはいるが、その瞳を覗いたことは一度もない。おそらく、故意に見せないようにしている…と、思う。まぁ人間誰でも知られたくないことの一つや二つはあるし、俺も特に気にはしていない。
「なんだじゃねぇよ、時間あんだからなんか食えよ」
もう一つはこの態度というか、性格
「いいやん別に」
こいつ、アルトは姉のセレネ以外の前では、物事に対してあまりにも淡泊だ。
食事も腹の足しになればなんでもいい。寝る場所もとりあえずスペースがあればいい。体育座りで寝ようとしていた時は本気で驚いたものだ。そんなこんなで最初は色々と揉めるかと思っていたのに、それは全て杞憂になってしまっていた。
「ハァ…これやっから、食っとけ」
食べようとしていたパンの袋をひとつ投げやる。
「おー…心配してくれてんのん? ありがとう」
心配なんかするかバカとか、何素直に感謝してんだよ気持ち悪りぃとか、言う事はいくらでもあったのに
変なナマリと、はにかむように小さく笑った顔に気を取られていて、
「…べつに」
これしか言えなかった自分が、少し腹立たしく感じた。
***
でも居心地はさほど悪くはならなかったんだ
20071123
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