月のない夜
月明かりさえ差し込まない暗い路地
そこにセレネは、息を切らしながら腰を下ろした。
油断した。
標的はちゃんと仕留めたはずだった。(つまり本当の標的は自分だったというわけ・・・)
金輪際、あんな小者の依頼なんか受けてやらない。(ボンゴレの威を借りて威張っているだけのくせに)
そんな未来のことを考えていても、バカだという事にやっと気付いた。
(だって、明日になれば死んでいるかもしれないから)
追っ手はなんとか撒いて来たものの、足に留まる弾丸のおかげで思ったように動けない。
撃ち抜いてくれていたら、まだましだったろうに・・・(下手くそ)
とりあえず、コレは取り出した方が良いんだろうか・・・
セレネは異常に熱を持つそこに手をあて、歯をくいしばった。
激痛と共に抉り出したソレは、なんとも小さなもので・・・
こんなものに自分は苦しんでいたのかと思うと嘲笑えた。
頭がボウっとする。栓が抜かれたソコから、血が大量に溢れ出ていた。
そのままにしておいた方が良かったのだろうか。とにかく止血を、と衣服を裂いた瞬間・・・
左の方から物音がした。
セレネは反射的に針を向けたが、それも瞬前で止めた。
なぜなら、追っ手かと思っていたその人物は、明らかに一般人の女性だったのだ。いつのまにかこんな裏道まで迷い込んでしまったのだろう。急に凶器を向けられて驚いている。
「すみません・・・ そこから二つ先の角を左に曲がれば大通りに出られます。ここは今危険だから早く・・・」
すると彼女は、慣れた様子でセレネの血が流れるソコを臆することもなく布で固く縛り、
「立てる?」
と肩を貸してきた。
「な、自分に構わないで」
「いいから」
そう言うと彼女は、細い身体でなんとかセレネを立ち上がらせた。
「止めて下さい。貴女まで危険な目に合わせられない」
「私もアナタと同業者よ」
相手と自分の距離を離そうとした時、告げられた言葉にセレネは耳を疑った。
「変人だけどいい医者を知ってるわ。そこまで頑張って」
後は黙ってなさいとまで牽制されてしまって・・・
「ありがとう・・・」
それしか言えなかった。
それが、彼女と初めて会った夜
***
そして変態に借りを作ってしまった日
20071211
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