Ansia心配、不安
「ふーん…ボンゴレ坊主のお守りねぇ」
シャマルは無理やりセレネとアルトを保健室のベッドに座らせると、日本へ来た経緯を二人に話させた。
過去に何度か交流のあった彼らは、久々に会ったとは思わせないほどなめらかに会話を進めている。
「シャマルこそ、どうして日本に?」
「オレもリボーンに呼ばれてな、ボンゴレ坊主の治療をしたんだよ。ドクロ病っつって、例の死ぬ気弾を十発撃たれるとなる病気だ」
その姿は三者三様で、セレネはきちんと背を伸ばして姿勢正しく。アルトは自らが座るベッドへ力をぬいたように手をついて。
そんな彼らに向かうシャマルは足を大胆に組み、頬をポリポリと掻いている。その風体は不精髭とあいまって、彼の年代独特の雰囲気をまとっていた。
シャマルは、相対するセレネとアルトに、懐かしい相変わらずさを感じる反面で、小さな不安も感じていた。
「へぇ…つーか、男やのに治したんや?」
セレネとアルトが何を考えているかなど、シャマルが知るよしもない。しかし二人ともいろいろな意味で危なっかしい所がある。
だからこそ心配であり、今回シャマルが無茶をして二人を呼び出したのも、そのせいだった。
「まあ、いろいろあってな。それより、お前らは大丈夫か?」
シャマルが言うと、二人の肩が同時に小さく震えた。さすが双子とでも言うべきだろうか。
察しのいいセレネ達は、シャマルが何を言わんとしているのか気づいたのだろう。
その話題はセレネとアルトにとって、そしてシャマルにとっても普段なら見せることのない核心の部分。
故にセレネ達はその話をしたくないらしい。案の定、二人ともシャマルからわざとらしく目を逸らした。
シャマルはそれでもため息を飲み込んで、二人に尋ねた。
「あれから暴走とか、痛みは無いのか?」
二人が嫌がっているのを、シャマルは知っていた。
セレネ達は立場や性格上、相手が勝手に敵対心を持つ場合を除いて、わざと敵をつくるような真似はしない。温厚派だと言える。
しかし、心を許せる人間も、とても少ない。
小さい頃から二人だけで育ってきたセレネとアルト。シャマルは親のいない彼らの、親代わりのような存在でいたいと、それは自分の役目であると考えていた。
それを本人達に言ってしまえば、そんなもの必要ないと一掃されるだけなのだろうが。
「大丈夫やて」
「第一、暴走なんかしていたら噂が耳に入るはずでしょう?」
こういう時、双子というものはやっかいだ。
心配ない、放っておいてくれと、二人がかりで話を終わらせようと、無理に言い捨ててくる。
しかしその程度で引き下がるほど、シャマルのお節介心は小さくなかった。
「痛みはするんだな?」
「「‥‥」」
セレネは真面目すぎる性格のせいで、アルトは姉の前で嘘をつけないのが、この双子の良い所であり、悪い所である。
沈黙は肯定を意味することなど分かっているだろうに、二人して視線を泳がせている。
こういうバカな所をかわいいと思えることが、いわゆる親バカというものなのだろう。とシャマルは心の中で笑った。
「見せてみろ」
二人の身体が、先程よりも大きく震えた。
「嫌や」
「シャマルには関係ないです」
こいつらなりに気を遣っているんだろうと、シャマルは思う。しかしそれが更なるお節介という、親心にも似た感情に火をつけるとは、セレネとアルトは思いもしないのだろう。
「オレは医者だ。少しは役に立つかもしれない」
「断ります」
「もう放っといてぇや。だいたい、これは病気やなくて、"呪い"やねんから…」
「呪いじゃねえ!!」
そう叫んだシャマル自身、こんなに大声を出すつもりはなく、自分でも一瞬驚いた。
しかしさらに驚いて身体をビクつかせている二人を見て、シャマルは口調を落ち着かせることができた。
「呪いなんて言うな…」
しかし二人は氷のように冷たい目をして、何もかもを諦めているように黙ってしまった。
こうなってしまうと、さすがにシャマルも何も言えなくなる。
「無理すんな…」
セレネは右目
アルトは左目
鏡のように片目ずつ塞いでいる揃いの眼帯に、シャマルは手を寄せた。
「痛いんだったらもっと痛がれ。自分達で抱え込むな」
その手をゆっくりと頬へ、頬から首へと移動させて、最後に二人同時に抱き寄せた。
「心配なんだよ、お前らが」
左側にセレネ、右側にアルトの頭を抱きながら目を閉じ、シャマルは二人の体温と鼓動を確かめた。
たまにこうしないと、不安になるのだ。
さっきもそうだが、この二人が不意に見せる表情、雰囲気。それらがあまりに儚げで、消えてしまうんじゃないかと思うから…
しばらくそうしていた後、セレネからは出しゃばり、アルトからは変態とクレームを受けたので、シャマルは二人から腕を離した。
そしてそのまま、じきに授業が終わるからと、二人はボンゴレ坊主の所へ帰ることになった。
「痛みがでたら来い。痛み止めの薬ぐらいならやれる」
「なら今渡せばいいでしょう」
「渡したらもう来ないだろ?」
「当たり前や」
「ケガしても来いよ。あと、暇なときも」
「「しつこい」」
双子ならではの見事なハモリを捨て台詞に、セレネとアルトは保健室を出て行った。
シャマルはその二人の背中をしばらく見送った後、急に静かになった部屋の中を振り返って、頬を緩ませた。
その時のシャマルの目は、子を見守る親のそれだった。
***
気づいて、きみを想う人がいること
20110225
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