Precedente前夜
カランコロン
日も沈み、大多数の人間は活動を休止し始める宵の刻
「いらっしゃい」
薄暗い路地にひっそりとたたずむ小洒落たバー
その世界ではかなり名の知れた店であり、またその世界の著名人たちが贔屓にしているという噂もある。
開店間際で人もまばらな折、訪れた女性に他の客は目を見張った。しかしそれも気にせず、慣れた様子で奥のカウンター席に座る彼女に、マスターは穏やかに声をかけた。
「久しぶりだね、弟はどうしたんだい?」
磨いていたグラスを置き、彼女のお気に入りのカクテルを作り始める。それは、女がこの店の常連であるという証
「今頃は、夢の中でしょうね。明日は早いですから…」
「へえ、今度は何処へ飛ぶんだい?」
作りたてのカクテルをコースターに音もなく乗せ、マスターは問うた。
「日本へ。 アンダーボスのお守りをさせられるらしいです」
派手過ぎないコバルトグリーンのそれを片手に、女は僅かに自嘲しながら答えた。
「良かったじゃないか。それだけ信頼されてるって事だろう?」
「そうだといいんですが…」
二人の会話が止まると、自然と他の客の話し声が嫌でも聞こえてくる。
「おい、あいつはまさか女王蜂の…」
「ボンゴレ九世に仕えているというのは本当だったのか?」
「でもさっき日本へ行くって…」
「ただの厄介払いだろ? あの姉弟はいろんな意味で"不幸の兆し"だからな」
密談とは思えないような声に、マスターは何とも言えない表情で彼女の顔を覗き見た。女はそれに気付くと、グラスを一気に傾けて飲み干し、席を立った。
「もう行くのかい? 周りは気にしないほうが…」
「関係ありませんよ。今日はこれをいただきに来ただけです。今回は長い仕事になりそうですから…」
そう微笑んだ女の顔に曇りは一切なく、安心したようにマスターは言った。
「数ヶ月前、リボーンも同じようなことを言って行ったよ」
女はそれを聞き一瞬驚いたようだったが、すぐに身体をドアの方へ向けた。
「それは、光栄ですね…」
***
明朝、二匹の蜜蜂が飛び発つ
20071115
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