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sweets……あまい

「テイクアウトで、モンブランとフルーツタルト」

「えっとねぇ、ランボさんはねぇ……」


「あとこのショートケーキと」

「うんとねぇ……あ!」


「「チョコレートケーキ」」


ピンクのエプロンを着たケーキ屋のお姉さんは困り果てた。
別々のお客。『それ』を望む声は二つ。
しかし『それ』は一つしか残されていなかったのだから……



「本当にごめんなさい」

「いやいや、あなた達は悪くないから気にしないで」


並盛商店街
 ラ・ナミモリ〜ヌ(洋菓子店)

なぜそんな場所に奏がいるのか。それは数時間前、黒曜町廃墟までさかのぼる。





「ケーキが食べたいね」

その奏の一言から始まり、

「……は?」

「へ?」

「だから、ケーキ、食べたくない?」

「いや、食べたい……けど」

犬と千種のあきれた返事と、

「けど?」

「……それだけ?」

「それだけって?」

「いいえ、何もないです。そうですよね、久々の自由な生活です。たまには甘いものでも食べましょう…… ということで奏、僕はチョコレートケーキをお願いします」

骸の許可も出てしまえば、

「あっ、オレフルーツいっぱいのヤツ!」

「はいはい、千種は?」

「……栗の」

「りょーかい」

予想通りのリクエストに心の中で微笑して、

「じゃ、行ってくる」

足取り軽くアジトを出た。





「こっちこそ、邪魔しちゃって悪かったね」

「全然そんなことノープロブレムです! ケーキは大勢で食べるとさらに美味しいですからっ!!」


そこで出会ったのは、ショートとポニーテールがよく似合う、明るい雰囲気の女の子が二人、中華服と牛柄の服を着た、ぬいぐるみみたいな五才くらいの子が二人。
喫茶店も兼ねているこの店に、お茶をしに来たらしい。

「ランボさん、チョコはダメだった……?」

同じタイミングで注文された一つのチョコレートケーキは、ひとまず子供へ。そして持ち帰り、つまり奏の分は急いで店員が作り直す、という話に落ち着いたのだった。

「だめじゃないよ。私もちゃんと食べさせてもらえるからね」

自分に責任を感じていたのか、頭がもじゃもじゃの、牛柄の服の子はケーキを前に落ち込んでしまっている。

「それに、おかげでこうしてお喋りできるんだから」

だから大丈夫、と奏がその子の頭をやんわり撫でてやると、今のが嘘のようににっこりと笑って、ケーキを口の中にほお張りはじめた。もとは明るい子なのだろう。隣の子の分にまで手を伸ばしかけていた。

「こらランボちゃん、イーピンちゃんの分まで取っちゃダメですよ!」

奏はその様子を見ていると、似たような二人が思い浮かんだ。


『柿ピーその肉ちょーらい』

『嫌だよ……』


「い〜じゃんちょっとくらい! イーピンのケチ!!」

『ちょっとらけらって! 柿ピーのケチ眼鏡!!』


まるで見ていたのかのようにそっくりな反応に、心の中で微笑する。早く実際の二人に会いたい衝動が湧いてきた。
その時、

「お待たせしましたぁ!」


ちょうどよく明るい声が店内に響いた。
ようやく奏のケーキの準備ができたのだろう。


「じゃあ、私はこれで……」

奏が席を立つと、今まで幼い二人を見守っていた、栗色のショート髪の女の子が口を開いた。


「よかったら、また一緒にお話しましょうね!」


ただの社交辞令。けれど奏はその優しげな笑顔に心が痛み、同時に少しだけ気持ちが軽くなった気がした。


「そうだね」


ケーキ屋らしい、飾られた自動ドアをくぐる。
奏は一人の小さな少年とすれ違った。


「京子姉! ハル姉!」

「フゥ太くん!!」









***
そしてまたを重ねてゆく

20110610


あきゅろす。
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