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聖夜




「「ブオンナターレ!!」」


骸がいつもの時刻、いつもの場所に夕飯を食べに部屋に入った瞬間

犬と奏の声と同時に、派手なクラッカー音が静寂な廃墟に鳴り響いた


部屋にはいつもの暗い感じはなく、ささやかな飾りつけと食欲を誘う香りで満たされている



「クリスマス、ですか・・・僕はクリスチャンではないんですけどね」


いまいち乗り切れないと言う骸の背中を、奏が押して席まで誘導する


「それを言ったらここは日本、仏教徒の国ですよ?」

「パーティー開くための口実だびょん」


まあ確かに、無宗教国家の日本ではクリスマスはキリストの生誕祭というより、ただツリーを飾ってパーティーをひらくだけ、と言うのが現状だろう


「ほらほら、このために今夜のディナーははりきって作ったんです!」

「・・・俺がだけどね」

「ひゃー! 肉らー!!」

「デザートにパネットーネ風チョコレートケーキも用意してますからね、骸さま」

「・・・だからそれ、俺が作っただろ」



神なんていない

祝うなんて馬鹿馬鹿しい


でも

この子達がそんなに楽しんでいるのなら・・・


たまにはこういうのもいいか、と席に着くことにした






予想通りというか、なんというか

あの後さんざん騒いで食べて夜も深けて来ると、犬はあるはずもないアルコールに酔ったように眠りこけてしまった

「・・・ほら、犬。寝るなら自分の部屋で寝な」

千種が揺すり起こしても、お子様な犬はそう簡単に起きるはずもなく・・・

「んぅー・・・オレまら寝てないびょん・・・」



あきらかに寝言

その場にいた全員が深いため息をついた


「・・・仕方ないな」

「あ、手伝おうか?」


千種が犬の腕を自分の肩にかけて立たせ、犬を自室へ運ぼうとしていた

「いい、奏は皿片付けてて・・・」

「ん、わかった」



犬と千種が部屋を出て行き、奏はテーブルの上の食器を片付け始める


どこから調達してきたのかその大きなテーブルが、徐々にすっきりしてゆく様をぼんやりと眺めた

すると今まで大量の料理で気付かなかったが、真ん中ほどに天使をかたどった小さなガラスの人形を見つけた



「それ、どうしたんですか?」

聞くと奏は何のことか気付いたようで、手を休めてそっとその人形に触れた


「このあいだ、見つけたんです。ちょうどいいかと思って」


そういえばイタリアではそういう人形を飾る風習があったような気がする

キリスト教徒であるイタリア人ならではのものだが・・・



「奏は、もし神がいるならば何を願いますか?」




もし、なんて空想、骸にしてはめずらしい質問だった

奏も同じことを思ったのだろう。
思いがけない質問にとまどっている


「・・・願い、ではなく、感謝ですかね」

それから奏は自身の手を見つめながら、ゆっくりと語りだした



「いまこうしてパーティーの後片付けをしていること」


白い手
でもそれは見かけだけで

本当は血塗れた手だ




「こんな静かな場所でみんな平和に暮らしてること」


ときには人を殺め
未来を
幸せを奪ってきた手

でもそんな手でも
こんな幸せがつくれること




「後ろめたいことはたくさんあるけれど」


それが
許されることではないとしても

この先
どんな報いが待っていても


いま
こうして生きていられることに



「今のこの幸せな時間がすこしでも長く続くように・・・」




結局願っちゃってますね、と苦笑う奏は、とても綺麗で・・・


「久しぶりに、奏の歌が聞きたくなりました」

「え、今ですか・・・?」

「いけませんか?」

「・・・いえ、じゃあリクエストは・・・」

「おまかせします」

「・・・では・・・」








「・・・んー・・・奏?」

「犬、やっと起きたの・・・」


犬の部屋についた途端、犬は目を覚ました

どうせならもっとはやく目覚めて欲しかった


「・・・奏が、うたってる」

そう言われて耳を澄ますと、本当にさっきの部屋の方から音が聞こえる


「・・・あぁ、ほんとだ」

身体能力が特化した犬は、やはり鼻だけでなく耳もいいらしい


「きれいらな・・・」

「・・・うん」

それはとても心地よくて、あたたかかった




















奏は、僕らだけのマリアです

20071224


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