_ ************** サーカス当日の夕方、三人が任務に出ようとすると、玄関先までサノが付いて来た。 「気を付けて」 「ん。ありがと」 不安そうな顔をするサノに、キタムラは微笑みそう言うと、白っぽい髪が揃う頭を片手でくしゃくしゃと撫でた。 「夫婦みたい」 キタムラの隣に立つミハシが笑う。 和やかなこの時間が、サノを一層不安にさせた。もし、もうこんな時間が一生戻ってこなかったら。 そんな思いが幾度も頭を過ぎる。いつも仲間を任務に送り出すのは正直なところ辛かった。 「じゃ、留守番頼むよ?」 「はい」 キタムラの姿が消える。 「じゃ」 「うん」 ミハシの姿が消える。サノの正面にオオサキが立った。 「いってきます」 オオサキは俯き気味に言い、サノを向く。その時サノの口が「ってきて、」と小さく動いたのを、見た。 「あ? ごめん、聞こえなかった」 「ううん、何でもない。行ってらっしゃい」 そうか、と相槌を打ったオオサキの姿が、消えた。 無事で帰ってきて。 そんな事、そんな不安にさせるような事は言えない。 戦う力は十分に持っているのに、体が弱いが為に何の力になることも出来ない。 情けない。 悔しい。 サノは壁に凭れるとずるずると腰を落とし、小さく肩を震わせた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |